第16話 憎しみと怒りの心
今回はタイトル通り天音が怒りと憎しみに囚われます。
瑪瑙……その名前を璃音兄ちゃんの口から聞いた瞬間、頭が割れそうになるほどの激痛が走った。
「うっ、ぐぅっ……」
「天音!!天音、しっかりして!!」
千歳はすぐに俺に駆け寄り、頭痛に襲われている俺を介抱する。
白蓮達も心配してくれているが、頭痛が酷くてまともに返事をすることができなかった。
「璃音、これってまさか……」
「ああ。親父が『忘却』で天音の記憶を封印したんだな……」
「忘却……封、印……?」
忘却って確か……霊操百九番の……?
どうして先代が俺の記憶を……?
しかし、考えようにも頭痛が酷く、まともに考えることができずに千歳にしがみつく。
「お嬢ちゃん、えっと……」
「千歳です。天堂千歳、天音の幼馴染です!」
「君がそうか……千歳ちゃん、ちょっと退いてくれ。今天音の記憶を呼び醒ませる」
璃音兄ちゃんは膝をついて瑠璃色の霊力を纏った右手で俺の頭の上に置く。
「眠りし記憶を呼び醒ませ……霊操百十番『想起』!」
璃音兄ちゃんの霊力が俺の頭の中を駆け巡り、頭痛の痛みが少しずつ和らいでいく。
「あっ、ぐっ、うわぁあああああっ!?」
そして、カシャ!と錠前が解かれたような音が頭の中で大きく響いた。
そして、頭痛が消えると同時に俺の脳裏にある記憶が鮮明に映し出された。
満月の日の夜……突然襲い掛かってきて容赦の無い攻撃をし、俺の大切な師匠の左腕を奪った……!!!
「瑪瑙……瑪瑙ぉおおおおおおおおおーーっ!!!」
体の中に宿る霊力が怒りと共に爆発し、風に似た衝撃波が喫茶店に舞う。
窓ガラスがカタカタと揺れ、椅子や小物が倒れていく。
体が震えて左胸に爪を食い込ませて怒りを抑えるがそれは無駄だった。
自分の中の怒りが抑えきれずにどうにかなってしまいそうになったその時ーー。
「天音!!!」
両頬を両手で掴まれて千歳の顔が目の前に現れた。
黒い二つの瞳が俺をまっすぐに見つめ、俺はその瞳に映った自分の顔を見て呆然とした。
「千歳……?はっ……!?」
周りを見渡すとみんなは呆然と驚愕の表情を浮かべて俺を見つめていた。
俺は……何をしているんだ……?
自分の手を見つめ、怒りに心を囚われた事を思い出した。
両頬に添えられた千歳の両手を離し、拳を強く握りしめて目をぎゅっと閉じた。
「みんな……ごめん、頭を冷やしてくる!」
入り口にいる璃音兄ちゃんと花音姉ちゃんの間をすり抜けて勢いよく喫茶店を出る。
「天音!」
『何処に行くの!?』
「来るな!!」
追いかけようとする千歳と白蓮に来るなと制止するように叫ぶと、二人は驚いてその場で止まった。
「頼む。一人に……してくれ」
俺はそう言い残すと外に出ると同時に天翔で翼を作って空を飛び、喫茶店を後にして一人になれる場所を探した。
☆
side千歳
封印されていた記憶が呼び醒まされ、何かに強い怒りと憎しみを爆発させた天音は一人何処かに行ってしまった。
瑪瑙とは一体何者なのだろうか?
蓮宮神社の先代当主、詩音さんの左腕を奪ったと言っていた。
そう言えば……私と天音を許婚にしてもらいに両親と一緒に蓮宮神社に訪れた際、詩音さんはまるで左腕を隠すような動作をしていたような気がする。
まさか左腕が本当に無いとは思わなかった。
「……銀羅、白蓮ちゃん。天音のところに行こう」
『……ああ』
『う、うん!』
白蓮ちゃんを肩に乗せ、銀羅と共に天音を追いかけようとしたその時。
「待ちな、千歳ちゃん」
そこに璃音さんが立ち塞がった。
「璃音、さん……何をするのですか?退いてください」
「そうはいかない。今の天音は非常に精神が不安定だ。一人にした方がいい」
理由は分からないけど確かに天音は精神が非常に不安定になっている。
だけど、私は引くわけにはいかない。
今の天音を放っておけない!
「そうはいきません。私は天音の婚約者……天音が辛い時に側にいないで何が婚約者ですか?」
制服の下に隠したホルスターからフォーチュン&ディスティニーを構え、璃音さんに銃口を向ける。
「私の邪魔をするなら、例え天音が慕う従兄弟のお兄さんでも容赦しません」
私はどんな時でも、例え何があろうとも天音の側にいる……そう心に誓った。
天音が辛い時なら尚更側にいて支えなければならない。
すると、花音さんが璃音さんの肩に手を置いて私に微笑んだ。
「なかなか度胸があるわね。璃音、退いてあげなさい。女は惚れた男に例えどんな障害があろうとも、とことん尽くすものなのよ」
「……ちっ。分かったよ、行きな」
「行きなさい、千歳ちゃん。天音をお願いね」
「はい!!」
二人から了承を得て私は銀羅と白蓮と一緒に喫茶店を出て天音を探しに出た。
『だが、千歳よ。探すと言っても天音はどこに行ったのか……』
「……あっち」
私は首にペンダントとして身に付けている幼い頃に天音にもらったおもちゃの指輪を握り締めながら天音がいると思われる方向を指差す。
『何故わかる……?』
「それはね……愛の力!!!」
ガビーン!
銀羅は雷の衝撃を受けたように驚いた。
『何、だと……!?』
『取り敢えず行ってみよう。僕も鳳凰になって探しながら飛ぶから』
白蓮ちゃんは雛の姿から鳳凰の姿になり、先に飛んで天音を探しに行く。
「銀羅!」
『ああ、乗れ』
私は銀羅の背に乗ると、銀羅は両足と九本の尻尾に青い狐火を灯して宙を駆けて白蓮の後を追う。
数分後……天音は星桜学園の校舎の屋上で一人座っていた。
壁に背を預けて夕日をぼんやりと眺めながていた。
天音を見つけると銀羅は口を大きく開けてあんぐりとしていた。
『本当にいた……千歳、偶にお前が人間じゃないと思う時がある……』
「いやいや、私はれっきとした人間よ。なんなら後でアルバムとビデオを見る?しっかりお母さんから生まれて成長しているから」
『だとしてもお前がただの人では無いと思う……狐が化けているのでは無いか?』
「九尾の妖狐が言う台詞じゃないってば」
私の愛の力に驚いている銀羅にツッコミを入れ、屋上に降り立って天音にゆっくり近づくと天音の拒絶の言葉が響いた。
「……一人にしてくれって、言ったよな?」
天音は私に目線を向けずにそう言ったが、そんな事で立ち止まる私じゃない。
「聞いたよ。でも、私は天音の側にいる。何があろうとも、どんな時でも……」
「……勝手にしろ」
「うん。勝手にする」
私は天音の隣に座り、銀羅と白蓮ちゃんは少し離れたところで座って私たちを見守る。
しかし、天音は黙ったままで自分から心を閉ざそうとしていた。
私は天音の左手にそっと自分の右手を重ねて今の気持ちを伝えた。
「私は天音と十年も離れていたから、五歳以降の天音に何があったのかは知らない……だけど、私は天音の支えになりたい」
心地よい優しい風が吹き、私と天音の肌に触れる。
まるで、天音を優しく包むような風だった。
「話したくないなら話さなくてもいい。だけど、さっきの天音の心は憎しみに囚われていた……人が憎しみを持つのは仕方ない事だよ。それが人の心ってものだから……」
天音は明らかに瑪瑙と言う人に対して深い憎しみを持っている。
人間だから他者へ憎しみの心を持っても仕方ない事だと思う。
だけど、あの天音を見たらそれはダメだと思った。
あのまま憎しみの心を持ったら、天音が壊れてしまう……私の大好きな天音が消えてしまうような気がした。
今引き止めなきゃダメだ、そう思った私は天音の心を取り戻す為に抱き寄せて静かに問うた。
「ねぇ……天音、あなたは何者なの?」
「え……?」
突然聞いた質問に天音はキョトンとした。
流石に何者と突然聞かれたら誰だって呆然とするのは必然だ。
そんな天音に私は次々と質問をしていく。
「あなたは何の為に剣を振るい、戦うの?」
天音は蓮宮神社で幼い頃から詩音さんと共に剣を降り続けた。
だけどそれは試合で勝つためでも、護身用でも、ましてや誰かを傷つけるためのものではない。
それは、蓮宮の全てを背負う天音が誰よりもわかっているはずだ。
そしてこれが最後の質問……天音の右手を両手で包み込みながら聞いた。
「あなたのこの優しい手は、憎しみを晴らす為にあるものなの?」
天音の手は決して憎しみを晴らす為にあるのではない。
この優しく、温かい手で幼い頃の私に生きる勇気を与えてくれた。
いつも美味しいご飯やお菓子を作ってくれて私達のお腹を幸せに満たしてくれる。
「……千歳」
「なーに?」
「少し……離れてくれるか?」
「……分かった」
私の質問は無駄だったかなぁ?と思いながら天音から体を離した次の瞬間、天音は私の方に体を向けて手首を握られて抱き寄せられた。
「……ふぇっ!?」
気が付いた時には私は天音の胸の中にいてギュッと体を強く抱きしめられていた。
その事に気付くと私は顔を真っ赤にして混乱した。
うひゃあああああーっ!!?何これ何なのこれ!?天音が私を抱きしめている!?なしてですか!?いつもなら私が天音を抱きしめるのに、今初めて天音から抱きしめてもらえた!?
ああっ……天音温かいし、いい匂いがする……まるで温泉に浸かっているかのように極楽だよ。
もうずっとこのまま天音に抱きしめてもらいたい。
あ、そうだ……前に天音が息を引き取ったら自分もすぐ逝くと言ったけど、どうせなら天音の胸の中で逝きたいな……。
そんな事を色々頭の中で張り巡らせていると、天音は私の耳元でそっと囁きかけた。
「ありがとう、千歳……」
「えっ……あ、うん」
天音は私に感謝の言葉を伝え、そのまま天音の言葉に耳を傾ける。
「俺は……瑪瑙への憎しみと怒りで復讐に取り憑かれそうになっていた。だけど……千歳のお陰で俺は見失いかけていた自分が、何者なのかはっきりと見つける事ができた」
良かった……私の行動は無駄じゃなかった。
天音を深い闇の底から引き上げる事ができて私は笑みを浮かべ、天音に抱きついた。
「じゃあ、もう一度聞くよ……天音、あなたは何者ですか?」
天音は私に視線を向け、質問に対する答えをしっかりと口にした。
「俺は人と聖獣を護りし者。極東の守護者、蓮宮十三代目当主……蓮宮天音だ!」
それは質問に対する天音の最高の答えだった。
復讐ではなく、人と聖獣を護る蓮宮十三代目として戦う……天音はそう決意をした。
「それでこそ、私の愛する天音よ」
私は天音を褒めるように優しく頭を撫でた。
しかし天音はまだ振り切れてない部分があるのか浮かない表情をしていた。
「でも……俺は奴を許す事はできないんだ……」
何があったか分からないけど、僅かな時間で憎しみと怒りを全て消す事は出来ないし、ましてや許す事は出来ない。
「天音、あなたに何があったの……?」
私は意を決して天音の過去に何があったのかを尋ねる。
「……話すよ、けど……」
「けど?」
ギュゥ……。
天音の私を抱きしめる力が少し強くなる。
「もう少し……もう少しだけ、千歳を抱きしめていたい」
思いがけない天音のその言葉に私の心はキュンとなった。
よほど今の天音は心が弱っているんだね。
「うん。良いよ……」
そう思うほど天音への思いが強くなって私も強く抱きしめて、天音が話してくれるまでゆっくり待った。
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次回は天音に何があったのか判明します。
バトルはまだまだ先になります。




