真夜中の心
読みふけっていた漫画を枕元に置いて、
スマホの電源を入れる。
"03:24"
表示された時刻を見て、少しだけ驚く。
読み始めた頃は日付を跨いですらいなかったというのに、もうこんな時間になるんだ。
初夏にもなって昼間は大分暑くなってはきたが、
そうはいっても1時頃を過ぎれば肌寒いくらいだ。
あらかじめ用意しておいたカーディガンを羽織った私は、ベッドに飛び込んだ。
きっと今日も、朝、起きられないだろう。
また、母さんに怒鳴られて起きるだろう。
そして、学校で眠るだろう。
結果、夜眠れなくて、漫画を読んで朝方まで過ごすのだろう。
学習しない自分に嫌気が差す。
私は幾つだ。
――――ああ、先月で、もう17歳だ。
思い描いていた高校二年生とは、全然違う。
もっと、もっと、きらきら輝く日々を過ごすはずだった。
気の合う友達とはしゃいで、
お弁当のときですら笑いと話題が絶えず、
放課後が毎日楽しくて、
「……寝よう」
こんな、一人で寂しく夜更しする予定じゃなかったのに。
今だって漫画の邪魔をされたくなくてスマホの電源を落としていたけど、誰からだって連絡なんてきやしない。
別に、友達がいないわけじゃない。
ただ腹を割って何でも話せるような人がいないだけで。
少し冷たい風が入ってきて、
揺れたカーテンが窓際に置いてある埃をかぶったギターをベーン、と小さく鳴らした。
買った頃は、こいつは私の相棒だと胸を踊らせて毎日練習していた記憶はあるのに、
いつから触れていないんだろう。
もう一度ベーン、と鳴ったそいつはどこか調子外れでチューニングが滅茶苦茶な気がした。
私はいつからこんなに中途半端な奴になっていたんだろう。
少し昔は好奇心旺盛で何にでも興味を示していたのに、今は毎日疲れて帰ってきてだらだらするだけだ。
今日も学校にいけば、中途半端に仲の良い友達と、探り探りの、気を使った会話をするのだろう。
でも彼女たちとは、最初は自然に仲がよかった気がする。
私が、嫌われたくなくて、距離をとっているのも最近になって何となく、薄々気付いてきた。
相手はしっかり私を見てくれていたのだろう。
それで素の私を選んでくれたんだろう。
だったら私は素の私で向き合うべきなんだろう。
でも、嫌われたらどうしよう。
だって、私は自分でも嫌になるくらい、面倒なやつなんだ。
「ああもう…意味わかんない。無理。」
近くに置いてあったウォークマンとイヤホンを手繰り寄せて
イヤホンを耳に押し込んだ。
遠くでまたギターがベーン、と鳴り
グッと音量を上げる。
消し忘れた電気を消してもう一度ベッドに潜り込むと、辺りが明るくなってきていた。
少し濃い藍の中に、ぼんやりと建物の輪郭が浮かび上がってきた。
私はいつもこの風景に絶望する。
あーあ、朝なんて来なくていいのに。