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ー原発ZERO-

作者: 中将

第一話 原発ゼロの社会


「次のニュースです。原発再稼働の合意が福井県知事となされました。繰り返します――。」

 ニュースのテロップが流れる。私は頭を抱えた。

「あーなんてことなのっ! これでまた原発ゼロから遠ざかったわ!」

 私は木藤クミ子、四十六歳の衆議院議員。この間の選挙で原発ゼロ・脱原発、憲法改悪反対を主張して、母子家庭を守ると言って選挙に当選したわ……。当選当初はこれで日本が変わると思ったけど……。

「でも現実はどうなの? 原発推進の与党が大多数を占める中では私達の力は無力だわ! どう考えても危険だし、原子力発電が無くても賄えているじゃない! おかしいわよ!」

 こんなところで叫んでも仕方が無いのは分かってるがストレスが貯まって仕方が無い。

 ノックの音が聞こえる。

「入りなさい」

 秘書の大谷だった。

「木藤議員。本日の午後五時から原発再稼働反対のデモを国会前で行うとのことですが、いかがなされますか?」

「そうね。参加しないと票を稼げないもの。脱原発のデモは私の生きがいよ!」

 そうは言ったものの現実は何一つ変わる気配は無い。大多数の国民は原発のことなど無関心なのだ。国会が決め、県知事がGOサインを出してしまった以上デモで変わるとは思えない。

「再稼働反対! 再稼働反対! 脱原発! 脱原発!」

 

ふぅ……二時間にもわたるデモで疲れたわ……。

 テレビを付けると福井県知事が笑顔で再稼働を喜ぶ話しが映る。原発利権で汚れた政治家め……補助金がそんなに欲しいか。

 そんな悪態をついている間に私は疲れでうとうとと眠りについてしまった。


 ふと眼を覚ますとまだニュースをやっている。テロップを見た途端、思わず目を見開いた。

『全ての原子力施設を廃炉が閣議決定。クリーンエネルギーに移行か。原発ゼロへ』

「きゃー大谷やったわ! ついに原発ゼロよ!」

「やりましたね、木藤議員! 私達の訴えが届いたんです!」

「夢じゃないかしら! ちょっと大谷つねって――いや、なんでもないわ」

 もし夢だとしたらこの夢から覚めたくない。そんな気持ちが支配されていた。そうだ、これは夢なのだ。先ほどまで再稼働が決定したというニュースを見ていたではないか。

 でも、原発が無くなる理想の社会を見て見たい! きっと全てが上手くいくバラ色の社会なのだろう!


 翌日、いつになく事務所前が騒がしい。ただでさえ夏だと言うのにムシムシしてかなわないわ。

「ちょっと大谷! この人だかりは何!?」

「はい、どうやら原発が廃炉が決定したことによって電気料金が値上げも同時に決定したようです。それらに対する反響です」

「何よそれ聞いて無いわ。つまり、廃炉を前面にニュースに出したのは政府の電気料金値上げのカムフラージュだったってわけ?」

「はい……化石燃料が高額なために各電力会社が値上げを強行せざるを得なかったと言うことです」

「くっ、なんてこと。直ちにクリーンエネルギーの視察に行くわよ。いかに、原発ゼロが素晴らしいことか証明してみせるっ!」

 すぐさま準備し事務所を出ようと裏口から脱出を試みたが、請願に来た人の大群にのまれた。

「木藤さんお願いします! 電気料金を下げるようにと!」

「生活が苦しいんですっ! 水道光熱費なんかにお金をかけられません!」

「原発が止まって補助金が街に出ないんだ! このままじゃ俺達は暮らしていけない!」

 そんな声をかき分けてなんとか脱出に成功した。



 第二話 風力発電所の違い

「こちらが我が党が支援して建てられた風力発電所です。北欧から取り寄せたものでして、風を最大限電力に変換することが出来ます。日本においては海岸に設置することで力を発揮することが出来るでしょう」

「素晴らしいわ! これをもっと大量生産しなさい! 我が党も支援を惜しまないわ!」

「ありがとうございます。一括払いで、修理保証十年、返品不可となりますがいかがでしょうか?」

「問題無いわ。党の幹部からも許可が下りています」

「それでは早速――」

 こうして、風力発電所が建てられることになったわ。サインを交わした証書は丁寧に職員がカバンにしまった。

『ゴロゴロ……』

「あら、嫌ね……雷が鳴っているわ。ひと雨きそうじゃない」

 ピカッと光ったかと思うとすぐに私達の近い所に落下した。それとともにバケツをひっくり返したような雨粒が降り注いだ。

「は、早く屋内へ!」

 すると、真上で光を感じた後、大きな雷が風力発電所めがけて落ちてきた。

『バリバリガッシャッーン!』

「そ、そんな……」

 風力発電所は火を上げて燃えていた。

「木藤議員! 早く!」

 大谷に言われて正気を取り戻して逃げようとしたところ、プロペラが私めがけて落下してきた。

「なっ――」

 その後のことは覚えていない……。


「うっ……」

「あ、お気づきになられましたか?」

「大谷。わ、私はどうしたと言うの……?」

「風力発電所の羽が落下してきてそれを交わす際に怪我をなされたのです……」

「そ、そう……」

「でも、御無事で何よりです」

「はっ! そういえば、風力発電所! 風力発電所はどうなったの!」

「お、落ちついて下さい。どうやら、海外のものを仕入れてきたのがマズかったようです」

「どういうことよ? どうやら、北欧仕様ですと落雷がほとんどないために全く考慮されていないようなのです。そのため、雷を吸収することが出来ずに、炎上してしまいました……あの一帯の風力発電所は壊滅です……」

「な、なんてこと……」

「問題なのは我々が購入した風力発電施設が全て北欧仕様だと言うことです。また、落雷が発生してしまうと壊滅する恐れがあります。全く使えませんが、しかし――」

「……まさか、商品説明の時の“返品不可”っていうのにはそう言う罠があったのね!」

「そうです。電力各社もこんな風力発電所は設置できないと訴えているそうですが、契約が契約ですから……」

「とんだ欠陥商品を売りつけられたものね。他に何か問題点は?」

「現在では懸念材料程度ですが、プロペラが回る際に人には聞こえない低周波数の音が出るそうです。それが人体に悪い影響を与えるのではないかという問題があるそうで、これを改善するための調査も行っております」

「全く笑えないわね。何が風力発電がクリーンエネルギーよ。これじゃ、欠点だらけじゃない……原発の代わりの電力には到底なれないわね」

「そうですね……費用対効果も凄く悪いですし。やはり太陽光でしょうか?」

「そうよ! 太陽光よ! 最近電力効率が上がってるらしいじゃない。晴れの日しか発電できないのは痛いけど、確かな供給源になるわ! 更に、プロペラの低周波数みたいな人体の影響も無い!」

「そうですね。直ちに導入させましょう!」


第三話 思わぬ伏兵

 入院から二ヶ月。電力は直ちに風力発電から太陽光に切り替えられた。全国でも原発に代わりに主流となっていくことだろう。

「ふぅ、私もようやく退院できそうよ」

「おめでとうございます。今日、退院の許可が下りましたよ」

「あら、やっと? 全くこなさなきゃいけない業務が多いんだからさっさと退院させて欲しいわ」

 こうして私は松葉づえを付きながらも退院にこぎつけた。そして病院の自動ドアに来て、後一歩で外に出られると言う時――。

「ちょっ! 停電! 一体どうして!」

「わ、分かりません!」

 直後に、自動で自家発電に切り替わったようで明かりが付いた。

「まったく、何が起こってるのかしら……」

 私が外に出るととんでもないことが起きていた。

「ねぇ……ここは東京よね?」

「その筈ですが……」

 なんと、辺り一面砂まみれになっている。更に霧では無さそうな靄が立ちこめている……。

「情報を入手しなさい!」

「はいっ!」

 大谷がネットで探しつつ携帯で連絡を取りはじめた。

「わ、分かりました! どうやら、突如として風向きが変わり中国からの黄砂と、PM二.五が押し寄せてきた模様です! 先ほどの停電はそれらの影響で太陽光が発電不能になり電力不足に陥ったことが原因だと思われます!」

「な、なんですって……!」

「いったん事務所に戻って情報を整理しましょう」

「そ、そうね」

 

事務所に戻ると行く前より人だかりが出来ていた。

「あ、木藤議員が来たぞ!」

 全員が雪崩を打つように私に殺到してきた。

「み、皆さん御苦労さまです? いかがしましたか?」

 私はそこにいる人々のただならぬ空気にたじろいだ。

「知らないのか! 無期限の停電になったんだ! それで俺達は会社を休業に追い込まれて破産だ!」

「お前らが原発ゼロとかほざいていたからこうなったんだぞ! ふざけるな!」

「そ、そんな……原発は危険でした。あなたたちだって、子供の命を救って欲しいと言って私に投票してくれたじゃないですか」

「うるさい! 生活がままならないんじゃ話しにならないぞ! さっさと原発を動かすように政府に働きかけろ!」

 もう、相手は無茶苦茶だ……とても話が出来る状態では無い。廃炉撤回から再稼働決定、そして審査して現実に再開するまでかなりの時間を要するはずだ

「き、木藤議員はこれからスケジュールがあります。一旦解散して下さい」

大谷が良い事を言ってくれた。私はそそくさと事務所に入ろうとする。

「おい、逃げるのか! 俺達を裏切るとどうなるのか教えてやる!」

 私は命からがら逃げ出した。

「ふぅ……大谷よくやったわ」

「しかし、これで我々はまた代替案を探さなければいけません。このままでは原発ゼロを訴えた我が党の存亡すら危ういです」

「そ、そうね……なんとかしないと」

「私の集めた情報によると、現在実用化に向けて海上による風力発電が取り組まれようとしています。日本ならではの方法に取り組もうと言うわけです」

「なるほどね……とりあえず視察に行くしかないようね」

もう私は疲れた。何か問題があってまた潰れるのではないかと思ったからだ。しかし、次の選挙のためにも行くしかない。

「そうですね……また何か欠陥があったらゼロに戻りますが……」 

「そのことは考えないことにするわ。車を出しなさい。視察に行くわよ」


第四話 原発ゼロへの道

 海上風力発電について話を聞いた。本当に実用化に向けて遠そうだった。

 特に海で流されず沈まない技術のために陸上の風力発電よりコストが遥かにかかると言うのが問題だった。これでは大量生産できない。

「では、海上で実際どうなっているのか見に行かれますか?」

 何を私達がやっているのかブログ上にアップしている。とりあえず写真だけでも撮っておかなければならないだろう。

「そうね。見に行くとするわ」

 浮島のような物の上に風力発電が立っている。周りが海で無ければ陸上のと大差は無かった。

「これにはちゃんと落雷の対策とかはしてあるのでしょうね?」

「はい、日本の風土にあった対策は取ってあるつもりです。ただ、予算が……」

 研究費も足りないと言いたげな顔で私を見ている。

「ま、成果報酬というところかしら。なるべく安く作ってくれないと困るのよ。我が党も電力事業を支援して失敗して来ていて予算が無いのよ……」

 そんな会話をしていると突如として大きな揺れを感じた。

「な、何っ!?」

「じ、地震です! 震源地はこのあたりで三・一一レベルの地震かと!」

「な、なんですって! 早く陸に戻らないと波飲まれるわ!」

 揺れが収まると私達は一目散に陸に向かった。

「あの施設に向かいましょう。あそこなら津波対策基準も越えていると評価されたので盤石です」

 職員に促された方向を見て私は固まった。稼働していない原発だったのだ。


「木藤議員! 早く来て下さい! 波がもうすぐ来ますよ!」

 大谷が手を差し伸べてくる。だが、私は原発の中などに入りたくない!

「嫌よ! こんなところに入るぐらいなら死んだ方がマシよ! また水につかって原発事故が再発するんだわ!」

「津波対策は盤石ですから大丈夫です!」

「嫌よ! 原発に助けられるぐらいなら死んだ方がマシだわ!」

 もうすでに腰の辺りまで水は来ていた。更に大きな波が目の前に迫っている。

「もう稼働していないんで、その可能性も低い筈です! 早く! 死んだらおしまいですよ!」

 大谷にそう言われて私は我に返った。そして大谷の手を取ろうとした。

「あっ!」

 私は足を滑らせて水の中に落ちた。

「木藤議員っっ!!!」

 巨大な津波は私の目の前まで来ている。一瞬で私は津波に飲み込まれた。

 せっかく、原発ゼロになったのに……苦しみもがきながら私はそんなことを考えた。


「はっ!」

 私は事務所のソファーで目を覚ました。そうだ……今までのことは夢だったのだ。長い時間夢の中にいた気分になっていたが時間にすると二時間ほどしか時間がたっていなかった。

九時のニュースを今やっている。また、原発再稼働の話だ。

「あーあ、こればっかりですよね~。ホントに私達に喧嘩を売ってるんですかね? 原発ゼロこそ世界の崇高な理想なのに。」

 大谷が隣でそんなことを言っている。

 私は夢の中での原発ゼロの社会を思い出した……。

「でも、今すぐじゃ無くても良いかも」

 私は思わずそんなことを呟いてしまった。

「ちょっ! 何を言ってるんですか! 今、原発の周辺に住んでいる方々の気持ちにもなって下さい!」

 大谷の言うことも確かだ……でも、代替のエネルギーが問題すぎる。しかし、私は言葉を飲み込むしかなかった。

「そ、そうね。ちょっと寝ぼけてたのよ」

 夢の世界の通りになるとは思えないが、完全に全てを廃炉にしてしまうと危険だ。

「そうですよ。まったく、支持者に今の発言を聞かれたらどうなるか……」

「ははは……注意するわ」

私達の活動、発言は変えることは出来ない。政治家をやっている身としては主張を少しでも替えたらそれだけで叩かれる。今の政党にいられなくなる。

だから私にできることはただ一つだ。

新エネルギーが出来るまで与党頑張れと心の中でエールを送った。

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― 新着の感想 ―
[一言] 地熱って日本だとどうでしたっけ?潮力とかも比較的風力とかよりは安定しそうですけど
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