そんな装備で大丈夫か?
日が沈むまでもう少し時間がある。
今の内に武器屋に行ってみることにしよう。
・・・とは言ったものの、今回ばかりはサラの記憶を当てにすることは不可能だ。
何故なら彼女は駆け出しの白魔法使いだったので、武器なんて実家から持って来た包丁に毛が生えたようなナイフ1本しか持っていなかったからだ。
したがって、当然品揃えの良い武器屋の情報を彼女が持ち合わせていた筈もなく、今回ばかりは自分の足で探さなければならない。
いっそもう一度ギルドに戻って、お姉さんにお勧めの武器屋を紹介して貰おうかな?
・・・いや、それは何か格好悪いので、やっぱり止めておこう。
当面は実入りの良いスライムをメインに狩って行くつもりなので防具は後回しでも構わないが、武器がこのナイフ1本だけというのは心許無い。
敵は何もモンスターだけという訳ではないのだ。
盗賊やら人攫いが襲ってきた際には武器を使って応戦する必要がある。
俺は武器屋の看板を探す為に、キョロキョロしながら街を彷徨った。
途中、何人もの男にナンパされたが「申し訳ありません。先を急いでおりますので」と丁重にお断りした。
丁寧口調ながらバッサリと断られたにも関わらず、やつらは満足そうな顔をして去って行った。
俺(美女)と会話出来ただけで満足ということなのだろうか?
まぁ全員揃いも揃って、ただのドMだったという可能性も無きにしも非ずだが・・・
「おっ!ここなんて良いんじゃね?」
俺は大通りのやたら目立つ武器屋をあえて避け、ちょっと裏路地に入った辺りの目立たない場所に店を構えている武器屋を探していたのだが、漸くそれっぽいのを発見した。
何故かって?
隠れた名店ってのは、そーゆーとこにあるのがお約束ってもんだろ?
・・・まぁ本当の理由は、大通りに面した大きい武器屋に入ってみたら、どれもこれも値段が高過ぎてとてもじゃないが今の俺には手が出せなかったからだけどw
そんな訳で、今度は貧乏人な俺の懐にも優しい武器屋を探すことにしたという訳だ。
「ごめんくださーい」
俺は、店員が男だった場合の値下げ交渉に備えてフードを外し、元気良く挨拶しながら店の中に入って行った。
「らっしゃ・・・ちっ、久しぶりの客だと思ったら、ただの小娘じゃねぇか。ここは女子供が来るような店じゃねぇぞ!とっとと帰んな!」
店員は俺の姿を見た途端途中で挨拶を言い止め、あまつさえ追い返そうとして来やがった。
「ドワーフのツンデレ頑固爺キター!」
だが今の俺にはその程度のことは瑣末な問題だ。
だって、武器屋の店主が髭を生やしたドワーフなんだぜ?
俺は思わず口に出して叫んでしまったよ。
「俺はまだ40代だ!それに、初対面の小娘に頑固爺呼ばわりされる謂れはねぇぞ!」
するとドワーフの爺さん、もといおっさんは不機嫌そうに目を細めて俺を睨み付けて来た。
「あっ、すいません。つい心の声が洩れてしまいました」
「ったく!生意気な小娘だな!で、何が欲しいんだ?」
「女の私にも武器を売ってくれるんですか?」
流石ツンデレw
「売らねぇといつまでも居座りそうだらかな。とっとと買って、とっとと出て行きな!」
フッ・・・爺さんよ、悪いが俺には全てお見通しだぜ?
口調は荒いし、頻りに帰れと繰り返してはいるが、この爺さんの視線は常に俺の胸をロックオンしている。
クリスの店で買った服は胸元が大きく開いたデザインなので、普通に立っているだけでも谷間がくっきりと見えてしまう。
お陰で歩いているだけで注目の的になったりもしたが、こーゆー場面ではむしろ役に立つ。
「私のSTRは12なんですけど、私でも使えそうな剣って置いてありますか?」
俺は不自然じゃない程度に胸を強調しつつ、爺さんに質問した。
「むっ!そ、そうだな・・・STRが12ならこの刀とかどうだ?」
「えっ?刀があるんですか?」
さっき行った大型店舗はそれ相応の品揃えを誇っていたが、刀までは置いていなかった。
「あぁ、この前手に入れた文献を参考にして、昨日試し打ってみたんだ。こいつは普通の剣みたいに重量任せに相手の骨肉を叩き切るのを目的にした剣じゃねぇ。刀身を限界まで細く鋭く軽くすることで素早く相手の肉を斬り裂くことを目的とした一品だ。大型のモンスターを狩るのには少々不向きだが、小娘にゃーこれで十分だろうよ?」
「そうですね。まだオークとかと戦えるほどの実力はありませんし、これを頂きます。お幾らですか?」
「そいつは試作品だし、銀貨30枚で売ってやるよ」
くっ、俺の残りの全財産は2,416Gなので、あと600Gも足りない。
爺さんのキャラ的にボッてる値段じゃないんだろうけど、当面の宿代や食事代を考えると、銀貨20枚まで値下げ交渉するしかない。
「オジサマぁーん。ちょーっとだけお金が足りないんだけど、オマケして下さらない?」
俺は男相手に何してんだろう?と思いつつも、生活が懸かっているので我慢して色仕掛けを試みた。
「・・・まぁちょっとくれぇならまけてやらなくもないが、いくら足りないんだよ?」
「銀貨10枚ほどw」
「・・・馬鹿野郎、銀貨1枚くらいなら俺の広い心でまけてやろうかとも思ったが、何処の世界に銀貨10枚も値切るやつがいる!金貯めてから出直して来いや!」
爺さんはシッシッ!と手を振って俺を追い出そうとして来た。
しかしここで諦める訳にはいかない。
「でもぉー、私今ナイフ1本しか持ってないから、このままモンスターと戦ったら死んじゃうかも・・・」
「そんなもん俺の知ったことか」
「えぇー?オジサマはもう2度と私と会えなくなっても良いって言うの?」
「な、何が言いてぇーんだよ?」
「私が死んじゃったら、もう2度と『コレ』を見ることは出来なくなっちゃいますよ?」
俺は両腕で胸をムニューっと挟んでさらに深い谷間を形成して爺さんに見せ付けた。
「むむむっ?」
爺さんが俺の胸を食い入るように凝視して唸る。
「ふふふっ、チラッ!」
俺は爺さんの喰い付きに確かな手応えを感じ取り、止めとばかりに外套の裾を一瞬だけ捲ってショートパンツとニーソックスのコンボが生み出す絶対領域をチラ見せした。
「むむむむむむむっ!」
爺さんは不意打ちにも関わらず驚くべき反応で俺の太ももを凝視し、外套で再び隠れてしまうとあからさまに残念そうな顔をした。
「オマケしてくれる?」
俺は勝利を確信して爺さんに詰め寄った。
「・・・1つ条件がある」
「・・・何かしら?」
万が一、一発ヤらせろとか言いやがったらぶん殴ってやる!
「この刀ってやつは定期的にメンテナンスしないと、すぐに斬れなくなっちまう代物だ。その時は他に持って行かずに俺のとこに持って来い。格安でやってやる」
どーやら杞憂だったようだ。
とはいえ、爺さんを疑ったしても仕方があるまい?
だって、銀貨10枚もの割引の条件なのだ。
この爺さん見ての通りエロいし、体を要求される可能性は十分有り得た。
ちなみに、この世界で女を一晩買う値段は最低銀貨3枚からだ。
これは娼館ギルドが定めた値段であり、この値段以下で客を取ったら厳しく罰せられてしまうらしい。
俺はその3倍以上の金額を値切っているのだから、一発くらい要求されても文句は言えない(絶対に断るがな!)。
「それくらいお安い御用です。いえ、むしろ私からお願いしたかったくらいですわ」
俺は目の眩むような微笑を浮かべて条件を飲む旨を伝えた。
「そ、そうか。なら約束通り銀貨20枚で売ってやるよ。ほれ、受け取んな」
俺は刀と引き換えに銀貨を手渡し、その場で鞘から刀身をゆっくりと引き抜いた。
「へぇ、試作品とは思えないほど綺麗な波紋ですね。それに刀身の反りが若干浅い。これはどっちかと言うと太刀よりも打刀に近いのかな?」
「・・・ほぉ?小娘にしちゃー分かってるじゃねぇか?どこでそんな知識を得やがった?」
「いえいえ、ただの聞き齧りですよ。故郷の知人に詳しい人がいたんです」
知人というのは家の近所にある空手、剣道、柔道、その他を組み合わせた道場の師範をやっている爺さんのことだ。
小学生の頃から通っていたら妙に気に入られて、色々と茶飲み話を聞かされたことがある。
「ふん、次は大太刀でも打ってみようかと思ってたんだが、こりゃー数少ない常連客候補の嬢ちゃんの為に先に打刀の完成度を上げた方が良いかもな?」
いつの間にか『小娘』から『嬢ちゃん』にランクアップしたようだ。
どーやら俺は爺さんに好かれ易い体質らしい。
まぁ、こっちの爺さんは単なる女好きというだけかもしれんが・・・
「こいつはオマケだ。取っときな!」
爺さんはそう言って布切れを投げ渡して来た。
「・・・これは?」
「滑り止め用のグローブだ。本当は素手で振った方が細かい調整が出来て良いんだが、慣れるまではそいつを着けて振ってみろ。少なくとも、戦闘中にすっぽ抜ける可能性は減る筈だぜ?」
「なるほど。ありがとうおじいちゃん!」
俺はその場でグローブを着けて見せ、爺さんに礼を述べてから店を出て行った。
「だから俺はまだ40代だって言ってんだろーが!」
ドアを閉める直前に爺さんに何か言われた気がしたが、生憎と聞き逃してしまった。
しかし、その為だけに再び店に入るのもアレだし、また今度来た時にでも何て言ってたのか聞いてみることにしよう。
武器屋のツンデレドワーフはお約束ですよね?w