過酷な来世
ブラのサイズが体に合わない以上、体その物をブラに合わせるしかない。
俺は一先ず清純系アイドルを諦め、新たな下着を手に入れるまではグラビアアイドルに擬態することにした。
今の俺は、B87W59H88の我侭ボディを持つ19歳の現役女子大生の姿である。
毎週買っていた某週刊少年誌のグラビアページには何度もお世話になったものだ。
当然グラビアアイドルである彼女の声なんて一度も聞いたことがなかったのだが、予想以上にかわいい声だった。
そこで俺は誰も聞いていないのを良い事に「君のお○ん○ん、凄くおっきい」とか「いっぱい出してぇ」とか卑猥なセリフを色々口にしてみた。
・・・うん、自分で言っておいて鼻血噴きそうになりました。
もし目の前で彼女にそんなことを言われた日には、一瞬で服を脱ぎ捨ててル○ンダイブしていたことだろう。
もっと色々試してみたいところではあるが、いつまでもここにいると、またゴブリン共が帰って来てしまうかもしれない。
それに、シェリーの荷物を見て気付いたことがある。
どーやら、ここには白魔法使いの少女と男戦士の荷物が無いっぽいのだ。
もしかしたら、彼女たちがゴブリンに襲われたあの現場にまだ荷物が落ちているのかもしれない。
シェリーの荷物が今頃になって回収されて来たことからも、手付かずで残されている可能性は十分に考えられる。
俺はここに連れて来られた時の彼女の記憶を思い出しながら、荷物を探す為にゴブリンの巣を出て行った。
当時の状況が状況だったので彼女の記憶が曖昧だったこともあり、1時間ほど森を彷徨い続けた結果、漸く目的地に到着することが出来た。
「・・・まぁ、ある意味予想通りだな」
男はゴブリン共に滅多刺しにされて死んだ筈なのだが、この場には肉片1つ残っていない。
では何故ここが現場なのか判断出来るのかというと、血が染み込んで赤黒くなった地面や血がベッタリと付着した皮鎧、それにビリビリに破けた服の切れ端が辺りに散乱しているからだ。
まず間違いなくモンスターにでも喰われたのだろう。
ご冥福をお祈りするばかりである。
あわよくば彼を吸収出来ればと考えていたのだが、遺体が残っていないのなら仕方がない。
ところで、鎧はほぼ無傷で残されているにも関わらず、彼の武器が何処にも見当たらない。
既にゴブリン共が回収してしまったのだろうか?
だとしたら、何故鎧は置いて行ったのだろう?
そーいえば、ガラクタの山の中にも皮鎧はなかった気がする。
正にガラクタ同然の金属製の鎧は幾つか転がっていたというのに・・・
もしかして、ゴブリンには金属製の物を集める習性でもあるのだろうか?
それなら銀貨や銅貨があった理由にも説明が付く。
とはいえ、これ以上考えても答えはゴブリンにしか分からないので、俺は気を取り直して荷物の捜索を続けることにした。
辺りを歩き回り注意深く捜索していると、現場から少し離れた藪の中でそれぞれ1つずつ皮袋が転がっているのを発見した。
すぐさま回収して中身を確認すると、案の定サラと男戦士の荷物だった。
中身はほぼ似たり寄ったりで、食料と野営用の衣類や雑貨が荷物の大半だった。
目を引く物と言えば、HPポーションとMPポーションだ。
なんか、ますますこの世界がゲーム染みて来た。
サラの記憶で存在することは識っていたのだけれど、この目で実際に見るまでは半信半疑だったのだ。
そうだ!良い機会だから『アレ』を試してみよう。
「ステータス、オープン!」
俺は右手を前に翳してステータスウィンドウを表示させた。
そう!なんと、ステータスウィンドウがあるんですよこの世界!
普通の人ならこれの存在を知った瞬間に試すであろう事柄だと言うのに、俺ときたら服の事ばっか考えてたせいで、今までうっかり失念していたのだ。
ステータスウィンドウには俺の名前やら何やらが表示されている。
折角出現させたことだし、丁度良いのでここらで公開しようと思う。
桐生渚:レベル6
種族:スライム
HP:27/30
MP:20/20
STR:12
VIT:11
DEX:12
INT:15
AGI:13
LUC:1
装備:ナイフ、質素な下着、毛皮の外套
スキル:擬態(ホーンラビット、ゴブリン、人間♀)、ヒール
称号:なし
所持金:1583G
みんな色々ツッコミたいと思うので、1つずつ解説して行こうと思う。
まずは俺の名前だけど、渚という女っぽい名前だが正真正銘の男だ。
実は俺っ娘で学校も女子校でした、なんて叙述トリック的なオチはないので安心して欲しい。
おいそこ!ガッカリするんじゃない!
気を取り直して、次はHPだ。
何でちょっとダメージ受けてるのかと言うと、裸足で森の中を歩き回っていたからだと思われる。
まぁ1時間以上歩き回ってたったのダメージ3だし、今すぐにポーションを飲まないといけないという程ではない。
装備やスキルについては特にこれといって解説する必要はないだろう。
称号ってのがいまいち分からないけど、何か偉業でも達成すれば良いのだろうか?
その辺りはサラの記憶にも該当する知識は存在しなかった。
所持金に関しては1Gが銅貨1枚に相当する。
つまり、現在158,300円持っていると思ってくれれば良い。
さっきよりも大分増えているのは、彼らの荷物の中に財布があったからだ。
シェリーへの復讐の為の資金として有り難く頂戴しておきました。
そして最大のツッコミどころ、俺のLUCがたったの1だということだ!
確かに天国?でお姉さんが過酷な来世になると忠告していたけれど、それは既にスライムに転生した時点で済んだものだとばかり思っていた。
しかし、実際にはこうして数字で現実を直視させられている。
ちなみに、この世界の平均的な一般人男性のステータスはHPが20で、他が10前後らしい。
MPやINTが多少突出してるのは、白魔法使いであるサラを吸収したからだろう。
つまりLUC以外はそこそこだということだ。
だと言うのにLUCだけが1て・・・よくもまぁ、こんなLUC値でモンスターが徘徊している森の中を一週間も生き残れたものだ。
出来るだけ早く運の良さそうなやつを吸収してLUC値を底上げしたい。
男戦士の皮鎧は血で汚れているので流石に使う気にはなれず、墓標代わりにその場に放置することにした。
兎も角、運良くサラのギルドカードをゲット出来たので、サラに擬態すればスムーズに街に入れるだろう。
まぁ、シェリーがギルドに2人は死んだと報告している可能性もあるが、こう言っては何だが2人ともFランクの冒険者だ。
死んだからといって、街中で噂になったりはしない。
門番のおっさんも顔馴染みという訳ではないし、死人が現れた!とか騒がれる心配はない筈だ。
俺は暖かい食事とふかふかのベッドに想いを馳せながら森を抜ける為に歩き始めた。
5話にして漸く主人公の名前が出て来ました。