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服を買いに行く服がない

当面の目的は、俺の糧となった彼女の代わりに、シェリーという女に復讐してやることだ。


その為には当然ギルドで待ち伏せをしたり、場合によっては周囲に聞き込みをしなければならないだろう。


しかしそれ以前の問題として、そもそも街中に入る為に絶対的に必要な物がある。


・・・通行証?通行料?


まぁ確かにそれも必要だ。


だけど、それは別に小細工次第でどうとでもなる。


そんな物よりも、もっと重要な物があるだろ?


え?分からない?


しょーがないなぁ。


それじゃー特別に教えてあげよう。


街中に入る為に必要な物。


それは『服』だ!


俺ってば、今現在ゴブリンの巣の最奥でショートソード片手に裸で仁王立ちなんだぜ?


そりゃまぁ女の子の体だし?


胸の感触なんてそりゃもう、ひゃっほい!って感じだけど、まさかこのまま街に繰り出す訳には行かないっしょ?


俺にだって、羞恥心くらいあるんすよ?


とゆーか、彼女を吸収した影響なのか、微妙に精神も引っ張られている感じがするんだよねぇ・・・


周りには人っ子一人いやしないのに、裸で外に立っているなんて恥ずかしい!という気分になってしまっているのだ。


具体的に言うと、右手で胸を隠し、左手で股間を隠し、足も心なしか内股になっているくらいだ。


このままでは、身も心も女になってしまうんじゃなかろーか?


不味い・・・早いとこ男を吸収しないと、俺の心の貞操が大ピンチだ!


とりあえず、今の俺が選べる選択肢は大まかに分けて3つだ。


1.盗賊orモンスターに襲われ掛けたけど、命からがら逃げて来た風を装って誰かに保護して貰う。


2.街に行く前に、街とは森を挟んで反対側にある村に忍び込んで服を失敬する。


3.ゴブリンに擬態して、襲って来た冒険者を返り討ちにして服を奪う。


パッと考えられるのはこの辺りだろうか?


でも、それぞれに大なり小なり問題がある。


まず1つ目の案の問題点だけど、森を抜けた後、誰かに見つかるまで何時間も裸で街道を歩くなんて、今の俺の精神では耐えられそうにない。


しかも、そいつが善良な人間とは限らない上に、仮に善良な人間だったとしても、どの道裸を見られてしまうことには変わりない。


2つ目の問題点は、服を失敬する為には誰かの家に入らなければならず、リスクが大きい。


人々が寝静まった深夜なら見付からないかもしれないが、万が一という事もある。


流石に服を盗む為だけに村人を傷付けるというのはどーかと思うので、これも却下だ。


3つ目の問題点は、襲い掛かって来た冒険者が俺より強い可能性が高いということだ。


今回のゴブリン退治の依頼が失敗に終わっている以上、さらに強いメンバーでなければ、ギルドだって依頼を斡旋したりはしない筈だ。


そーなると、次にここへ来るのはFランクではなく、EランクかDランクの冒険者が派遣されて来ると思われる。


最初の頃に比べれば格段に強くなってはいるものの、あくまでもゴブリンに毛が生えた程度の戦闘力しかない今の俺では、まず勝てないだろう。


よって、第4の選択肢『ゴブリンの巣の中に服として活用出来そうな布切れがないか探す』の出番である。


せめて胸と股間だけでも隠せれば、パンツじゃなくて水着だから恥ずかしくないもん!と自分に言い聞かせることで、なんとか街まで耐えられるかもしれない。


今後の方針を決定した俺は、胸と股間を隠しつつ武器などが煩雑に置かれている穴倉に向かって歩き始めた。




「くそっ!役立たずなゴブリン共め!碌なもんがありゃしねぇ!」


俺は物置代わりになっている穴倉を、隅から隅まで隈なく探した。


だがしかし、出て来るのは錆びたナイフやら、折れた剣やらばっかりである。


ゴブリン共は殺した冒険者から奪ったか、若しくは使えなくなって捨ててあったと思しき武器ばかり溜め込んでやがった。


逆に防具関係は全くと言って良いほど存在しない。


最悪皮の鎧でもあれば、裸エプロンならぬ、裸アーマーが出来たかもしれないというのに・・・


唯一の収穫と言えば、銀貨2枚と銅貨を13枚見付けたことくらいだろうか?


1回の食事に掛かる料金は銅貨5~10枚で、激安の宿屋でも一泊するのに銅貨30枚は必要だという事を考えると、凡そ銅貨1枚が100円くらいと考えれば良いと思う。


ちなみに、銀貨1枚と銅貨100枚が同価値である。


つまり21,300円拾ったことになる。


しかし、今この場で金なんかあっても無意味である。


確かに金があればメシは食えるし、宿屋にも泊まれる。


街の通行料だって七面倒臭い小細工をしなくても支払うことが可能だ。


そして何より『服』を買うことだって可能だ!


だがしかし、今の俺には『服を買いに行く服がない!』のだ。


まさか実際に言う日が来るなんて、地球にいた頃は予想だにしなかったぜ・・・


てゆーか、そもそもやつらって外出用の服がないってだけで、ちゃんと服着てんだろ?


それに比べて、俺なんかパンツすら履いてないんだぜ?


裸の女が服を探す為にガラクタの山を掻き分けてる姿を想像してみ?


シュールだろ?


悲しいけど、これが現実なのよね・・・


加えて言うなら、今の俺は日本の清純系女子高生アイドルの姿に擬態していたりする。


ちなみに新品か中古かは調べていない。


だって万が一中古だったりしたら、ショックで当分立ち直れそうにないし・・・




これ以上ガラクタの山を探しても布切れ1枚出て来そうにないので、諦めてちょっと休憩することにした。


すると、洞窟の入り口の方からペタペタと何者かの足音が聞こえて来た。


「この音は・・・相手は裸足か。ってことは冒険者じゃないな。たぶん、外に出てたゴブリンが帰って来たんだろう」


何気なくゴブリンと口にした瞬間、再びゴブリンに対する憎悪が湧き上がって来た。


どーやら、彼女の影響を相当受けてしまっているらしい。


気が付けば、脇に置いてあった筈のショートソードを握り締めている。


これはもはやゴブリンを血祭りにするまでは収まりそうにない。


俺は人間の姿のままショートソードを片手に飛び出した。


本来ならゴブリンに擬態して油断させてから後ろから斬り掛かるのがベストなのだが、擬態し直す数秒が惜しいとばかりに体が勝手に飛び出してしまったのだ。


「・・・あれ?何で誰もいないんだ?・・・ん?やっぱり、誰かいるのか?」


ついさっきゴブリン大虐殺が行われた空間には、血の一滴すらも痕跡は残っておらず、帰って来たばかりのゴブリンは困惑した様子でキョロキョロしていたが、俺が後ろから走り寄って来る足音を聞き、安堵した様子で振り向いた。


「死ねぇ!」


俺は大声を上げながらゴブリンの脳天にショートソードを叩き込んだ。


一撃で脳天を叩き割られたゴブリンは断末魔を上げる暇すら与えられずに絶命した。


だが俺の憎悪はその程度では収まらず、何度も何度もゴブリンの頭や体にショートソードを突き刺し続けた。




「はぁ、はぁ・・・」


元々このショートソードは銀貨数枚程度の安物なので、度重なる酷使の結果、ついにポッキリと真ん中から折れてしまい、そこで漸く気分が落ち着いてきた。


・・・これはちょっと不味いんじゃなかろうか?


ゴブリンの存在を感じただけで我を忘れるなんて、今回は相手が1匹だったから良かったものの、万が一何匹もいたら、あんなバーサク状態では上手く対処出来たとは思えない。


とても今回だけの現象とは思えないので、何か対策を考えた方が良さそうだ。


今のバーサクは、彼女がゴブリンに凌辱されたことに由来する物だ。


ってことは、その原因を作ったシェリー何某を如何にかして恨みを晴らせば、ある程度緩和出来るかもしれない。


どーやら、彼女の仇討ちという以外にもシェリー何某を追う理由が出来たようだ。


「・・・ん?何だこれ?」


すっかりミンチになったゴブリンの亡骸の横に、上部の口を紐で縛り肩に背負えるようになっている皮袋が落ちている。


「皮袋!それすなわち服の材料!」


俺は喜び勇んで皮袋を回収した。


若干ゴブリンの薄汚い血のせいで底が濡れてしまっているが、無事な部分を使えばギリギリだがブラとパンツを作れるだろう。


「・・・いや、そんなことをしなくても袋の中に着替えが入ってるかもしれないじゃないか!」


俺は興奮しながら皮袋の口を開いて中を覗き込んだ。


するとそこには、ブラとパンツが1着ずつと、防寒用と思われる茶色い外套、刃渡り15cm程度のほぼ新品のナイフ、保存用の干し肉とカチカチに固まったパンが数個、そして最後に冒険者ギルドのカードが入っていた。


そして、そこに記されていたのはシェリーという名前とランクF冒険者であることを示す記号だった。


「例のクソ女の持ち物だったのか・・・ゴブリンから逃げる途中で荷物を放棄したってところか?」


仇である女の衣類を身に着けるというのも業腹だが、背に腹は変えられない。


少なくとも使用済みではなさそうなので、我慢して着用することにする。


「パンツはヒモパンだから大丈夫だったが、ブラのサイズがちょっと大きすぎるな」


ブラの着け方は彼女の記憶があるので問題なかったのだが、どんなに寄せて上げてもカップが余ってしまう。


彼女の記憶の中のシェリーは魔法使いらしくゆったりしたローブを着ていたので、細かい体型までは分からなかった。


今擬態中のアイドルはCカップの筈なので、シェリーはそれ以上ということだろう。


つまりDカップ・・・いや、もしかしたらEカップはあるのではなかろうか?


これは俄然楽しみになってきた!


奴隷商人に売り飛ばして生き地獄を味わわせる前に、たっぷりとその豊満な胸を堪能させて貰おうじゃないか!

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