ゴブリンの巣
1週間後、俺はレベル4になった。
レベル2になるのに10匹、レベル3に上がるのに20匹、レベル4に上がるのに40匹も兎を吸収する必要があった。
お陰でこの辺にいたホーンラビットは粗方食い尽くしてしまったっぽい。
昨日なんて3匹しか見付けられなかった。
レベルアップに必要な量が倍々に増えているので、もし次のレベルアップに必要なのが80匹だとしたら、軽く1ヶ月は掛かってしまう。
このまま兎を狙うのは流石に効率が悪すぎるので、今日は思い切ってゴブリンを探してみることにした。
これまでも時々見掛けていたので、運が良ければ遭遇出来るだろう。
レベル3だった時に見た時には最初ほどの圧迫感が感じられなかったし、今はレベル4だ。
秘策もあるし、奇襲が成功すれば勝算は十分にある。
そんなこんなで森を彷徨うこと1時間、漸くゴブリンを発見した。
しかも運が良い事に1匹だけで行動しているようだ。
やつらは、偶に群れて行動していたりもするので、分断する手間が省けた。
やつはまだ俺の存在には気付いていない。
見付からないようにゴブリンの進行方向の先にある木によじ登り、機を窺う。
そして俺の真下に差し掛かった瞬間、体の1割ほどを分断しゴブリンの体に浴びせ掛けた。
「グギャー!」
俺の体液を掛けられた瞬間、ゴブリンは叫び声を上げた。
それもその筈、何故なら俺の体は酸性なのだ。
一瞬で肉体を溶かせるほどではないものの、しばらくは焼けるような痛みで使い物にならない程度の威力はある。
さっき言ってた秘策とはこれのことである。
俺の体で覆うことで獲物を吸収出来るのだから、体を千切って当てれば攻撃にも使えるんじゃないかと思い、ホーンラビット相手に実験を繰り返したのだ。
そして結果は御覧の通りである。
さっきまではまだ微かに圧迫感があったのだが、手足の痛みで地面を転がり回るゴブリンからは、もはや何の脅威も感じない。
俺はゴブリンに止めを刺す為に、呼吸を塞ぐように口と鼻から体液を流し込み、呼吸器官を溶かして窒息させた。
レベルアップの恩恵かホーンラビットなら今では3分ほどで完全に吸収出来るのだが、ゴブリンは体の大きさが違うのでどのくらい掛かるか予想も付かないし、いつ邪魔が入るとも限らないのでさっさと吸収してしまうことにする。
体を精一杯引き伸ばし、ゴブリンに覆い被さること約10分、漸く完全吸収に成功した。
ホーンラビットと比べるとゴブリンの体積は10倍近くある筈だが、吸収に要する時間は3倍ちょっとで済んだ。
理屈は分からないが、早い分には問題ないので気にしないことにしよう。
そんなことを考えていると、再びあの声が頭に響いた。
【擬態スキル(ゴブリン♂)を獲得しました】
これでゴブリンに擬態出来るようになったので、やつらの巣を強襲して一網打尽に出来る。
それじゃー早速ゴブリンに擬態しよう。
ピカッと光り俺の体はゴブリンになった。
念願の二足歩行生物だ。
歩けるって素晴らしい。
スライムの時は地面を這ってるだけだし、ホーンラビットは四足歩行の上に歩くと言うより、飛び跳ねる感じだ。
ゴブリンは体長130cm前後とかなり低い身長ではあるが、両手足が使えるというのは大きい。
さらに、スライムには味覚がなかったのだが、ゴブリンには舌が存在しているので、恐らく味を感じることが出来る筈だ。
ゴブリンの巣を強襲するのは後にして、まずは果物を食べてみたい。
今までは見付けても放置してきたのだが、やっと食べる機会が出来た。
とりあえず手近な木に登り、リンゴっぽい果物を毟り取って食べてみる。
「うめぇ!」
スライム生を開始して一週間、初めて声が出せた。
人間の赤ん坊ですら生まれた瞬間から「おぎゃあ」と発声出来るというのに、俺には発声器官が存在しなかったせいで、これが俺のこの世界に於ける産声である。
産声が「うめぇ!」というのも中々斬新だと思うが、今更やり直しは出来ないので、諦めるしかない。
しかも、実際は「グギィ!」となっていたので、尚更居た堪れない・・・
「いやーこりゃ美味いわ!それに、やっと食事らしい食事をした気がするな」
今までは食事って感じがしなかったからなぁ・・・
さてと、感動したところで、そろそろゴブリンの肉体的スペックを検証しようかな?
せっかく二足歩行出来るようになったのだから、実際どの程度動けるのか調べておかないと、いざという時に困る。
前世で齧っていた空手の型を一通りやってみたが、それなりには動けそうだ。
全体的に体が硬いので上段蹴りなどは無理だが、ある程度は肉弾戦も可能っぽい。
それじゃー早速巣に戻ってゴブリン共を殲滅するとしよう。
どーやら擬態スキルには吸収した者の外見だけじゃなく、記憶や能力も引き継げるようで、巣の位置もバッチリ把握済みだ。
ゴブリン共を皆殺しにする算段を立てながら歩くこと15分、目的地である巣に到着したと同時に、俺が来たのとは逆方向から1匹のゴブリンが帰って来た。
「よぉ、お前も見回りか?お互い大変だな?」
どーやって素手で仕留めようかと悩んでいた矢先、相手のゴブリンが友好的に話し掛けて来た。
「あ、あぁ・・・そーだな」
「俺はこれからこの前捕まえたニンゲンのメスを犯しに行くけど、お前はどーする?」
こいつが言っているのは、3日くらい前に捕まえた女のことだろう。
正直ちょっと心惹かれるが、ゴブリン共と穴兄弟になんてなりたくない。
それに、他に色々やりたいこともあるしな。
「いや、疲れてるから俺は遠慮しておくわ」
「そーか。んじゃ俺は行ってくるわ」
ゴブリンが洞窟内にある3つの分かれ道の真ん中を進んで行くのを見送り、俺は今の内に用事を済ませることにする。
「んー、まずは右に行くとするか」
分かれ道を右に曲がり、そのまま奥へと進んで行くと、開けた空間に辿り着いた。
ここは主に生まれたばかりの子ゴブリンを寝かせておく為のスペースで、数十匹の子ゴブリンが雑魚寝していた。
よし!今はガキしか居ないようだ。
俺は来た道を戻り、今度は左の道に入って行った。
こっちは人間から奪ったり、拾ったりした物を置いておく為のスペースである。
俺は錆びていたり、刃毀れしていたりする物の中から比較的状態の良いショートソードを選んで持ち出した。
それにしても、ここにも誰も居ないってことは、ほぼ全員が真ん中に集まっているのだろうか?
剣を持ったまま真ん中の道を進んで行くと、数十匹のゴブリンが人間の女やゴブリンの♀に群がっている光景が目に飛び込んできた。
「おーおー、流石はゴブリン。お盛んですこと」
これだけ騒がしければ、万が一ガキ共が目覚めて多少騒いだとしても、バレることはないだろう。
そうと決まれば、今の内にガキ共を皆殺しにして吸収してしまおう。
俺は再びガキ共が寝ている場所を目指して右の脇道を進み、次々とその首を撥ね、心臓に剣を突き刺して行った。
「これでラストだ!」
ドスッ!と最後の1匹に剣を突き刺して殺し、擬態を解いてスライムの体に戻り、1時間ほど掛けて全員を吸収した。
生まれたばかりだからか、成体よりも得られる経験値がかなり少なかったが、それでも数が数だったので、どうにかレベル5になることが出来た。
タイマンなら余裕で勝てると思うが、何しろ数が多い。
俺が喰ったゴブリンの記憶とさっきの光景から類推するに、群れの約8割が先程の場所に集まっている筈だ。
残りの2割は洞窟の外に狩りだか見回りにでも行っているのだろう。
俺は再度スライムに戻り体の半分を使って酸の雨を降らせることにした。
(アシッドレイン!)
本当は声を出したいところだが、スライム状態では声が出せないので、心の中で唱えるだけで我慢する。
「「「グギャー」」」
僅か数秒の間に数多の酸の雫がゴブリンの体を撃った。
レベルアップのお陰で威力も上がり、すでに大半が虫の息だ。
軽傷で済んでいるのは、意図的に狙いを外した人間の女に群がっていた数匹だけだ。
俺は再びゴブリンに擬態し、脇に置いておいた剣で苦しそうに呻くゴブリン共に次々と止めを刺して行った。
「お、お前はさっきのやつじゃないか!」
「・・・ん?ひょっとして、さっき会ったやつか?」
ゴブリンの顔の違いなんて分からんから気付かなかった。
「見りゃ分かるだろ!って、そんなことは今はどーでも良い。何でこんなことをするんだ?」
「何故って、お前らを殺して俺がレベルアップする為さ」
「くっ・・・この裏切り者がっ!」
「俺、ゴブリンじゃなくてスライムだから、別に裏切りじゃねーし。そもそも油断して見張りすら置いてないお前らが馬鹿なんだよ。とゆー訳で、さっさと死ね!」
剣を横薙ぎに振って首を跳ね飛ばす。
「んー、今ので最後だったみたいだな。んじゃ、いただきまーす!」
再びスライムに戻りゴブリン共を吸収していく。
そして、全てを吸収し終わった頃にはレベル6に上がっていた。
ところで、あの女の子はどーしようかな?
一気にレベルが上がって気分が良いので、生きる意志があるならこのまま見逃してあげても良いんだけど、ゴブリンに凌辱されまくった後だし、既に精神が壊れてるかもしれん。
まぁ、その時は俺の糧になって貰うとしよう。
・・・あっ!てゆーか、そもそも言葉が通じないんじゃね?
今頃になって重大なことに気が付いた。
仮に俺がこの世界の人間の言葉を聞き取れたとしても、今の俺が話せるのはゴブリン語だけだ。
仕方がない。ここはボディランゲージでなんとかしよう。
武器を手放して洞窟の外を指差せば、きっと理解してくれる筈だ。
「おーい!生きてるかぁ?」
俺は、ゴブリンの白濁液で全身を汚されて地面に倒れている16歳くらいの少女に声を掛けた。
「・・・ろ・・・て・・・」
少女が何かを呟いているが、声が小さ過ぎて耳を近付けても上手く聞き取れない。
「何だ?今、何て言ったんだ?」
言葉が通じていないのは百も承知だが、俺は駄目元でもう一度言うように促した。
「も・・・う、殺・・・して・・・」
恐らく、この少女はゴブリンに捕まってから数日間、延々犯され続けていたのだろう。
もはや生きる気力を失っている。
「わかった。君の望みを叶えてあげるよ。その代わりに報酬として君の体を貰うぜ?」
「あ、り・・・が、とう・・・」
俺がゴブリン語で喋っている以上、言葉が通じたとは思えないが、少女は剣を向けた俺に礼を言って目を閉じた。
「次に転生する時は地球にしときな。日本なら比較的争いが少ないし、お勧めだぜ?」
俺はそう言って、出来るだけ苦しめないように少女の首を一気に撥ねて殺してやった。
ゴロゴロと地面を転がる少女の顔に苦痛や恐怖の表情は無く、穏やかな顔をしていた。
俺は少女の首を拾い、胴体と共に吸収した。
人間を吸収すること自体にはあまり嫌悪感は沸かなかったが、こんな形で人間を吸収するとは思っていなかったので、何とも言えない気分になった。
【擬態スキル(人間♀)を獲得しました】
スキルを獲得すると同時に、ゴブリンに対する憎しみが溢れ出て来たが、既にこの場には指一本たりとも残ってはいないので、直になりを潜めた。
今後ゴブリンを見つけた時にどーなるのかは分からないが、今から心配しても仕方が無いので、とりあえず後回しにする。
兎も角、これで念願の人間に擬態出来る訳だが、♀と表記されている以上、男には擬態出来ないのだろう。
それよりも、今まではホーンラビットやゴブリンの個体差が分からなくて実験出来なかったことを試してみよう。
何をするのかと言うと、記憶の中にある人物や、空想の人物に擬態出来るかどうかである。
別に対象は誰でも良かったので、何となく学校で隣の席に座っていた女子の顔を思い出しながら擬態を開始する。
すると、いつものように体がピカッと光り擬態が完了した。
「さて、どーなったかな?」
剣の腹を鏡代わりにして顔を覗き込むと、そこには見覚えのある女子の顔が写っていた。
「よっしゃー!成功だぁ!」
ちなみに、俺の想像では制服を着ていたのだが、服までは擬態では再現出来ないらしく裸であった。
余談だが、アソコに指を突っ込んでみた所、何かが裂ける感触と共に痛みが走り、太ももに血が垂れて来た。
どーやら、この女の体は処女だったようだ。
その後、色々な女に擬態して確認してみたところ、処女だったり、非処女だったりした。
遊んでそうな女が処女だったり、大人しそうな女子が非処女だったり、俺の想像とは違った結果になった。
これらの実験から分かることは、実在の人物をモデルにした場合、体の構造は本人と同じになるらしく、顔や体型を弄ることは出来ないらしいということだ。
逆に、完全に想像上の人物なら顔から体型まで、細かく設定することが出来るようだ。
折角人間に擬態出来るようになったんだし、これはもう街に行くしかないだろ?
街の位置は彼女の記憶からある程度推測出来る。
半日もあれば着ける筈だ。
それと、どーやら彼女は冒険者だったらしい。
戦士の男と黒魔法使いの女と白魔法使いの彼女の3人パーティでゴブリンの討伐依頼を受けたのだが、予想以上の数がいた為に、善戦虚しく男が殺され、黒魔法使いの女は自分が逃げる為に彼女を囮にしつつ、攻撃魔法を連発して逃げて行く様子が記憶に残っていた。
その後、大した攻撃手段を持たない彼女はゴブリンに捕まり、俺が現れるまで犯され続けていたようだ。
俺は彼女の弔いの為に、その女を見つけ出して復讐してやることにした。
女の名はシェリー。
ギルドに所属する最下級のFランク冒険者だ。
彼女とは以前からの知り合いという訳ではなく、今回偶々組んだだけの即席パーティだったようで、それ以上の情報は記憶になかった。
だが、顔と名前さえ分かれば十分だ。
まだ事件から数日しか経っていないし、今も街に戻って体を休めている可能性が高い。
見付け出したら、思う存分嬲ってから奴隷として売り飛ばしてやるとしよう。