ここから始まる物語3
まだまだ、諦めないよ
次元を移動する際にはっきりと聞こえた少女の声。
その言葉が頭から離れず、少し憂鬱な気分で道を歩く。
時刻は午前八時。曜日は月。
週の始まりだから、休みはまだまだ来ない。そんなことを考えるとまた気が重くなる。
ここは都会とも言えないし、田舎とも言えない、中途半端な場所だ。
楽しみはない、失ったのかも知れない。
学校に行くのが嫌という気持ちも起こらない。今や、当たり前のことになってしまったので、行かないと逆に気持ち悪い。
天気は晴れ、コンクリートは少し濡れ、雨の臭いがする。
通学する生徒は、皆楽しそうに談話しているが、一人の生徒はポツリと、孤独に歩いている。
村里志摩
この場では彼だけ、孤独だった。
***
朝礼、授業、終礼を聞き流して、すぐに放課後になる。
生徒は次々に席を立っていくが、志摩は動かない。
……なんだか、めんどくさいな。
学校でこんな気分になったのは始めてだった。
今この場で席に座っているのは、志摩を含め、二人だけ。
もう一人は、ピンク髪の幼い顔立ちの少女。
なぜあんな派手な髪色の少女が目立たないのか、志摩には分からない。
少女に少し目をやると、あちらも顔を上げ、こちらを見つめてきた。
少し苦笑いをして、目を反らす。
まあいいか、とすぐに興味を失ってしまった。
ぼうっと三十分くらい席に座っていた。
さすがにそろそろ帰ろうと思い、席を立つ。
鞄がないことに気付く。
「はぁ……」
今日始めての言葉がそれだった。
言葉というよりは、息を吐き出したという表現のほうが正しい。
今日の朝と同じように、何も持たずに帰った。
ふとオレンジで染まった空を見上げて、あの子はどうしたんだろう、と思う。
暇潰しの機会を自分で潰してしまったわけだが、なんだか気になった。
まあ、だからどうというわけでもないが。
「うぅ……」
どこからか聞こえてきた呻き声に、足を止める。
ここは大通りの道。車が行き交うこの道路でそんな小さな声が聞こえる筈がない。
気のせいかな……そう思って再び歩みを進める。
家には「おかえり」と言ってくれる家族も、「ただいま」と言える家族もいない。それはいつものこと。
でも、それでも悲しさはある。
そんな気持ちを押し殺し、生きてきたが、そろそろ限界だった。
……こんな現実の何がいいのか、僕には分からない。
分かる筈がないんだ。
なら、現実じゃない場所に逃げよう。
異次元でも、どこにでも。
人のいない場所に逃げよう。
短期連載なんで、ここで終了です。つまらない終わり方ですみません。