理性と本能
崩れていくレッドキャップを見て、男は腰を抜かしていた。
自分が負けるとは夢にも思わなかったのだろう。
「さぁ、彼をどうします?」
明らかにベルゼブブは楽しんでいる。
彼は僕がこの男をどう殺すのかを楽しみにしているのだろう。
「ゆっ、許してくれ!!俺はただあいつに騙されてただけなんだ!!」
・・・虫唾が走る。
あの男が命令していた事は僕も知っている。
あぁ、人間というのは何故こうも醜くなれるのだろう。
「言い訳が子供っぽいですね。修さんどのように処分します?ご命令を」
改めて男を見る。
目の前には恐怖に染まりきった男の顔
僕の両親を、そして目の前で妹を殺した憎んでも憎みきれない男の命を僕が握っている・・・
ふと掌を見た。悪魔の取り付いた僕の左手は禍々しい文様が浮かんでいる。
おそらくこの手を男に掲げた時点で彼のすべてが終わってしまう。
「?どうしたんです修さん・・・殺さないんですか?」
怪訝そうにベルゼブブが問いかけてくる。
色々な事が僕の頭の中に浮かんでは消える・・・
今、感情に任せてこの男を殺せば、僕はただの悪魔になり下がってしまう・・・
憎い・・・辛い・・・悔しい・・・黒い感情は僕の中で混ざり合う
締め付けられた心で僕の出した結論は、残されたレッドキャップの斧を男に持たせ
自首させることだった。
「ふぅ」
誰もいなくなったビルでベルゼブブのため息が響く。
「とんだ博愛主義ですね、はたまたただの臆病ものか・・・残念です」
不満そうに僕に文句を言う。
「まぁ修さんがそう決めたのなら従いますが、情けをかけすぎると足元をすくわれますよ」
ブツブツと僕に突き刺さる言葉をぶつけてくる。
確かに、何故あの男を助けたのか今考えたらわからない。
あの時はズタズタにしてしまいたいほどの衝動を何故抑えることができたのか。
「・・・でも、少し人間を見直した気もします・・・」
えっ?
「他人の事を考える事のできる変わった人間もいるんですね・・・」
もしかして、少し誉められてる?
「いえ、こっちの話です。それよりも妹さんを葬ってあげなくていいんですか?」
少し照れたような声でベルゼブブから促される。
そうだ、僕は妹の亡きがらに近づいた。
本当は妹の死を受け入れたくなくて近づかなかったんだと思う。
「おや?」
これは・・・
妹の背中には黒い液体で満たされている。
そこには傷口がない・・・
そうだ、これはあの時の僕と一緒だ。
『おかしいですね~。人数は揃っているはずなのに・・・』
後ろから声がする。
聞き忘れるはずもない。
僕を現実から切り離した銀髪の少女が後ろに立っていた。
『・・・間違いなく悪魔が宿っているわね』
少女は妹の背中をさすり、何かを確認していた。
一通り調べ終わると少女は妹を抱えた。
一体どうするつもりなんだ?
『ただの病院に連れて行ってもこの子は死んでいるって判断されるだけですよ?大丈夫、私が住んでいる教会に匿うだけですから』
ニッコリと笑い僕に近づいてくる。
前と同じように僕の耳元で少女は囁いた。
『安心して、町はずれの柳野教会にいるから。キミの事気に入ったからちゃんと歓迎してあげるよ』
それだけ言うと少女は離れ、その体は闇に包まれていく。
そうだ、まだ彼女の名前を聞いてない。
僕は自分の名前を名乗り、彼女に名前を尋ねた。
『修君か、私はオラクル、オラクル・クラレンスだよ。じゃあ明日待ってるね。』
手を振りながらオラクルは闇へと消えていった・・・




