溶けていく心
あの時と同じだ。
彼女が左手を握った瞬間、僕の座っていたベンチはズタズタに切り裂かれた。
考えてる暇は無い!!
既にいくつもの影が向かってくる
地面を裂きながら影は僕をとらえる。
マズイ!!
「サヨナラ」
満面の笑みで僕を見ている蓮華がいる。
駄目だ!!こんなところで死ぬわけにはいかない!!
左手に力を込める。
胸が痛い。
膨大な力が僕の中に充満していく。
いける・・・
僕は左手を振り払った
辺りを包み込んでいた大量の砂煙が晴れていく・・・
僕の目の前には、蓮華を庇うように立っている動物の姿が浮かぶ。
『なるほど、グラシャラボス・・・ですか』
ベルゼブブはボソリと悪魔の名前を告げる。
グラシャラボス・・・あらゆる流血と殺戮を生み出すという悪魔・・・
彼女に宿っている悪魔はタチの悪いものらしい。
「驚いた~。修君生き残ったんだ」
嬉しそうな顔で僕を見る。
蓮華、これ以上世界を憎むのはやめてくれ!!
「?、なんでそんなこと言うの?変な修君」
話を聞く気は無いらしい。
今度は空から流星のように黒く染まった羽が降り注ぐ。
辛うじてそれらを避け、説得を続ける。
「無理だよ修君。私には居場所は無いの」
同じような笑顔だが、僕は見た。
彼女の瞳から、一筋の涙がこぼれているのを。
「グラシャラボスが教えてくれたの、居場所が無いなら全て無くして真っ白にしてしまえばいいって」
そんなことは無い!!居場所が無いなら作ってしまえばいい
「無理だよ・・・」
絶え間ない攻撃は続く。
全てを避ける事は出来ない。
ベルゼブブが守ってくれてはいるが、既に体は大量の傷がついている。
左手の悪魔は僕に攻撃を促す。
駄目だ。
彼女は迷っている。
僕の声はきっと届くはず!!
「私が・・・私が居ていい場所なんてどこにもない」
彼女の悲痛な叫びとともに巨大な刃が僕に向かってくる。
だったら・・・
だったら僕が蓮華の居場所になる!!
再び左手に力を込める。
既に刃は目の前だ。
渾身の力を込めて刃を受け止める
全身の力が抜ける。
傷口が裂け、血が噴き出す。
目がかすむ。
それでも僕は蓮華を見つめ笑った。
大丈夫、確かに今までは辛かったかもしれない、
でも・・・
これからは歩いて行ける!!
刃に姿を変えたグラシャラボスを蠅が包み込む。
『そこまでですよグラシャラボス、貴方の負けです』
レッドキャップの時と同じように悪魔は土へと還って行った
「また・・・一人になっちゃった」
虚ろな目をして蓮華は空を見上げている。
僕は蓮華の肩を持って彼女の目を見た。
「修君?」
一人なんかじゃない、世界を救うなんて大それた事は出来ないかもしれないけど、
キミが居る世界を作ることは出来る。
それだけ言って、僕は蓮華を抱きしめた。
まるで迷子になったわが子を抱きしめる母親の様に・・・
ゆっくり離れ、改めて彼女の目を見る
その目にはかすかな光が宿っていた。
「ありがとう・・・修・・く・・・ん」
まるでスローモーションのように彼女が崩れ落ちる。
その胸には何者かの剣が深々と貫かれていた。




