神崎香織スピンオフ:牙を研ぐ怪獣(昭和・平成ビジネスバトル編) 第2エピソード:1994年、平成不況の「はしご外し」と、最初のラストバレット
第2エピソードにお越しいただき、ありがとうございます。
時は流れて1994年。バブルが崩壊し、日本経済は一気に冷え込みます。
30代を迎え、圧倒的な売上を出して「初の女性課長候補」とまで言われていた神崎先輩。しかし、会社はコスト削減のために、彼女を都合よく切り捨てる「はしご外し」を画策します。
お父さんの面影を重ねていた会社からの裏切り。絶望の淵で彼女が放った、最初の痛快な反撃の物語です。
「神崎、すまない。今回の人事だが、本社の意向で、次期の営業課長には同期の佐々木を据えることになった。お前には……一度、地方の営業所へ行って、現場の立て直しを任せたい」
上司の言葉に、オフィスの空気が凍りついた。
私の胸の奥で、お父さんの形見の万年筆が、冷たく重く沈んでいく。
この数年間、バブル崩壊の泥沼の中で、誰よりも泥臭く駆け回り、営業所でトップの数字を上げ続けてきたのは私だ。佐々木は本社の役員のゴルフ仲間の息子で、数字の半分も上げていない。
「女性活躍」と時代のあだ花のように持ち上げられていた私は、不況になった途端、「家庭を持たない独身の女だから、地方へ飛ばしても文庫本のように扱いやすい」と、トカゲの尻尾切りに遭ったのだ。
私の脳内で、ゴジラが狂ったように咆哮していた。
『ウオオオオオン!(会社のためにすべてを捧げてきたお前を、こんな風に裏切る組織なんて、今すぐ全部ぶっ壊してやれ!)』
悔し涙が溢れそうになるのを、私は奥歯を噛み締めて止めた。
(ダメよ、香織。ここで泣いて怒ったら、あいつらに『これだから女は感情的で管理職には向かない』と言い訳を与えるだけ。お父さんが愛したサラリーマンの誇りは、そんなに安くない)
私は、あらかじめ用意していた、1冊の極秘ファイルをデスクに叩きつけた。
そこには、今回の人事を主導した本社の役員と、次期課長になる佐々木の父親が、特定の代理店に対して行っていた「不適切な利益供与(裏口座の操作)」の完璧な証拠データが並んでいた。私がこれまでの営業活動の中で、不審に思ってコツコツと集めていた、組織の「闇の足跡」だった。
「課長。地方への転勤は、拝命いたします。……ですが、この人事が『正当な業績評価によるもの』ではなく、特定の派閥による私的な排除であるという点について、本社の監査部、およびコーポレートガバナンス委員会へ、このファクトと共に正式に異議申し立てを行います」
課長の顔が、土気色に変わった。
「かん、神崎……お前、これは……!」
「私はお父さんから、サラリーマンは『数字と規約』で戦うものだと教わりました。私の売上を横取りし、ルールを捻じ曲げた報いは、本社の社長室できちんと清算していただきます。――これが、私の最初のラストバレット(残された一発)です」
不敵に笑い、私は書類をまとめた。
組織の理不尽に潰されて泣き寝入りする時代は終わった。私は、地方へ行く。だけど、ただ追われるのではない。本社の老害どもの首に、いつでも引けるトリガーを引っ掛けたまま、私は牙を隠して、次の戦場へと向かうのだ。
****ビジネス・自己啓発解説パート****
今日のゴジラ・ハック:【「はしご外し」に遭った時こそ、相手の急所のファクトを握れ】
組織の政治や理不尽によって、自分の努力が正当に評価されず、不遇な扱い(左遷やはしご外し)を受けることは、長いキャリアの中で一度は起こり得ます。その時、感情的に抗議するのは最悪の手です。組織の人間は、あなたの「感情」ではなく、自分たちの「保身が脅かされること」を最も恐れています。
日頃から、職場の不条理な動きやルールの捻じ曲げに対して、客観的な「ファクト(証拠)」を静かに集めておきましょう。牙は、見せびらかすものではなく、決定的な瞬間に一撃で相手を沈黙させるために隠しておくものです。
****飼育員からの超重要アドバイス****
不遇な環境に飛ばされること自体は、あなたの価値を1ミリも下げません。むしろ、そこで「自分を守るためのルールとファクトの武器」を使いこなせるようになったとき、あなたは組織にとって「決して無視できない不気味な実力者」へと進化するのです。
****明日使えるアクションプラン****
職場で理不尽な決定や不公平な扱いを受けたと感じたら、その瞬間の愚痴を周りに漏らすのをやめ、その決定が「会社のどの規程に違反しているか」「どのような不条理なプロセスで行われたか」を、客観的な時系列のデータとしてメモに残すことから始めてみましょう。
(第2話・完)
第2話をお読みいただき、本当にありがとうございました!
涙を流す代わりに極秘ファイルを叩きつけ、不敵に笑って地方へ向かった神崎先輩。本編の第6話で星野さんと出会う前の、あの圧倒的なオーラの背景には、この壮絶な裏切りと覚悟があったのですね。
次回、最終話(第3話)は、舞台を令和の現在に戻します。
役員となり本社に戻ってきた神崎先輩。そこで、令和特有の「新しい理不尽(過剰なコンプラと、誰も指導してくれない冷たい孤立)」に悩む星野さんと対峙します。
過去の傷をレバーにして、神崎取締役が星野さんへ回す「最高の未来のパス」とは。
「これであのラストバレットに繋がるのか!」「鳥肌が止まらない!」という方は、ぜひ最後の【ブックマーク登録】や【評価】で応援をお願いいたします!
感動の完結編へ繋がります!




