私の推しは髭もじゃおじさん
私の名前は加藤凛。少し前、私は中学校を卒業して、春休みが開けたら働き始める予定で内定も貰っていた。
両親は私が小学校に入学した年に事故で死んだ。どちらも親族と連絡を取っていなかったので、私は施設で育った。
園長先生も寮母さんも優しい人だったから、道を踏み外すこともなく普通に成長した。
奨学金を貰って高校に行くことも出来たけど、 奨学金にも限りがあるし、働くことができる私が 奨学金を貰って、他に必要としている人が貰えなくなるのは嫌で働くことにした。
春休みに両親の墓参りに行った時、寺の敷地を跨いだ瞬間、私は異世界に転移していた。
はじめは全く意味がわからなくて、目の前に広がる外国風の街並みに絶望したけど、言葉は通じるし、これから働こうと思っていたから、どこでも一緒かと思うことにした。
記憶喪失のフリをして高級そうなブティックに入り、どこか助けを求められないか確認したところ、冒険者ギルドを紹介された。
冒険者ギルドの場所を聞き、その扉を開けた。
そこにはいる人達は、元の世界の人達とは全く違った。鎧を着て剣を持っていたり、西部劇に出てきそうな格好をしていたりした。
受付と書いてある場所に記憶喪失であることと今後の相談をしたところ、冒険者になるのが手っ取り早いと聞きその場で冒険者登録をした。登録名はカトリンになっちゃったけど、誰に見せる訳でもないしいいかと割り切った。
冒険者になると初めの一年は冒険者ギルドが一定の収入を担保してくれて武器防具、寝食に困らないようにしてくれるらしい。
ギルドで開催している初心者講習と神官のスキル確認で私には魔法の適正と収納スキルがあることが分かった。どちらも別段珍しいものではなく、よくあるスキルらしい。使っていくことでレベルも上がっていくから依頼で鍛えていけ、とのことだ。
昔から一つの事に集中するとひたすら同じ事をやり続けられる性質だったため、採取などは本当に向いていた。
朝の六時に起き出して、一日分の食料を収納に詰め、夜の閉門までひたすら採取し続けた。
そんな生活を一ヶ月も続けたら、周りから薬草狂いのリンと呼ばれるようになった。狂ってはいないと反論したい。
毎日大量に収納に薬草などの採取物を詰め込むので、収納スキルはどんどん成長した。
採取をしながら簡単な魔法練習もしていたので、小動物程度の魔物も狩れるようになった。
メインは薬草採取だし、収納内は時間経過がないからそれなりの量になるまで魔物は貯めっぱなしだったが、私が魔物を狩っているのがギルドの受付嬢にバレ、全て解体カウンターに持って行けと怒られた。
そこで私は運命の人に出会った。
いや勝手に一目惚れしただけではあるが。
ああ私は一生この人が好きだろうな、と直感で感じた。
※※※
冒険者ギルドの扉を開け、解体カウンターに向かう。今は昼間で冒険者達の姿は疎らだ。カウンターの横には広い台があり、少しの量ならここでも受け渡し可能だ。
「ガイさん、こんにちは」
「おう、リンか。今日はどうだ?」
「まぁまぁです。裏でもいいですか?」
「…ああ。ケイアス、こっち変われ。」
「はい。」
カウンターの横にある扉の中に入り、執務室や会議室を通り過ぎ、ギルドの裏手にある倉庫に向かう。前を歩くガイさんことガイグルドさんは、全身が筋肉かというくらいマッチョだ。大きな魔物を担いだりするので解体カウンターの職員さんは皆マッチョだが、ガイさんはそんな中でも一際大きな体をしている。身長も180cm以上あるので160cmの私からしたらとにかく壁のように大きい。顔もいつも眉間にギュッと皺が寄り、黒い髭をもじゃもじゃと生やしていて、とても怖い。その風貌から50代に見える年齢も、実は42歳と意外と若い。
(はぁ…たまらない。歩くたびに動く筋肉もあの顔も。全部私の好みドストライク。)
私はマッチョが大好きで、前の世界で入社しようとしていた会社も老舗の大工屋さんだった。面接に行った時の私は面接官の威圧感なんて何のその、ずらっと並ぶ色とりどりのマッチョにニッコニコで楽しくおしゃべりして帰宅した。内定の通知を貰った時はリアルに「よっしゃー!!」と声が出た。
倉庫に着くとガイさんが魔物を置く位置を指し示す。
「よし、この辺りに頼む。」
「はい!」
収納に格納していた今日の獲物を全部指定の場所に出す。
「相変わらずとんでもねぇ収納量だな。」
「へへへっ」
褒められて嬉しくなる。この世界に来てから三年あまり。その間に採取と狩りで鍛えた収納スキルはギルドを丸々収納できるぐらいどでかくなっていた。
出した魔物を確認しているガイさんの後ろに立ち、話しかける。
「ガイさん、今日のご予定は?」
「普通に仕事だな。」
「仕事の後は?」
「明日に備えて寝る。」
「ご飯は食べるでしょ?一緒に食べましょうよ。」
「…お前も飽きねぇな。」
「もう、そう思うなら一度くらいご飯行ってくれたらいいのに。」
「……。」
「嫌ならいいんです。気が向く時があるかもと思って誘ってるだけですから。」
「…。今日も随分狩ったな。」
「でしょ?こっちに来れるように頑張ってますから。」
「…はぁ。お前との会話は疲れる。」
「…あは、どうしてもガイさんを好きなのが溢れちゃって。」
私はガイさんのことが好き。カウンターに座る姿を初めて見た時から胸がときめいて苦しくてしょうがない。初めて経験した一目惚れは、今の所全く脈なし。
でも冒険者をやってる限り、カウンターに行けば会えるから。カウンター越しだとすぐに会話が終わっちゃうから、倉庫に呼んで貰えるように毎日朝早くから大量に魔物を狩るようになった。
初めの頃は当たり障りない会話だけだったけど、でもガイさんの恋人になるためには当たって当たって当たり続けないと、あの鉄壁の筋肉に守られている心には響かない。
周りも憚らず好き好きアピールをしまくっていたらギルドでは変人扱いだけど、全然問題なし。
でもガイさんの迷惑にはなりたくないからちゃんと節度を持って、無理やり話しかけたり仕事の邪魔はしない。しつこく話しかけずに一度断られたら諦めるようにしている。
アピールする前はガイさんから話しかけてくれることもあったけど、最近はあまり話しかけてくれない。特に最近はよく「疲れる」と言われていて、寂しいけど、ただの職員と冒険者のままではいたくなかったからしょうがないと思ってる。
黙々と作業するガイさんはもう話をするつもりはないみたい。ちょっとだけ距離をとって作業を見守る。
大きな体に見合うように手もとっても大きいガイさんだが、魔物を扱う動作はとても優しくて、いつか見た解体は見惚れるほどカッコよかった。
作業が終わったのか書き付けていた紙を渡すためガイさんが近づいてくる。
「おら、預かり表だ。受け取りは明日だな。昨日の分の処理は終わってる。」
「ありがとうございます。」
昨日持ち込んだ魔物の解体が終わっているようだ。いらない素材は換金して、食べる分のお肉を取っておいてもらっている。
倉庫の壁際に金庫があるので、そこから受け取り分を取り出してもらう。
「ボアの肉と金だ。」
「はい、確かに。」
「それじゃあな。」
「はい。ガイさん、また明日。」
「おう。」
(はぁ。ドキドキした…。なんであんなにカッコいいんだろう。それにあの手つき!エロすぎだろっ!)
側から見たら澄まして何ともない顔をしているが、内心はガイさんのかっこよさに大騒ぎだ。
そんな生活を3ヶ月も続けただろうか。するとどうだろう、カウンターに置けないほどの量を毎日狩っていたため実力も上がってしまい、とうとうBランクまで昇格してしまった。ソロBランクは中々いないので、ギルドが少しざわついたが、私はランクとかにはあまり興味がないので特にどうということもなかった。
ただBランクになるとギルドから指名の依頼が入ってしまう。指名依頼は大抵、普通の冒険者だと面倒臭くて選ばないものや、難易度的に選べないものがほとんどなので、数日間拘束されることも珍しくない。
一応ギルドにはなるべく一日で終わるものがいいと言ってはあるが、都合のいい依頼がなければ普通に何日も帰れないこともある。
逃げ回っていた私にもついに三日間の護衛依頼が来てしまった。少しごねたが、他の人にも示しが付かないから絶対行けとのことで、しょうがなく受けた。
依頼の前日、しばらく会えなくなるので挨拶がてらに解体カウンターに向かう。明日からの準備であまり狩れなかったので、カウンターで済む量になってしまったが。
「こんにちは〜」
「おう、リン。今日はちょっと早えな。」
「そうなんです。量も少ないんでここで出していいですか?」
「…なんだ。珍しいな…。」
「よいしょっと。」
「確認するからちょっと待て。」
「ガイさんこの後のご予定は?」
「普通に仕事だな。」
「仕事の後は?」
「飯食って帰って寝る。」
「ご一緒しても?」
「ダメだ。」
「ぶぅ〜。…ケイアスさんとは食べに行くのにずるい
〜。」
普段ならスッと会話を終わらせるが、この日はしばらく会えない寂しさから少しうざ絡みをしてしまった。
「当たり前だろ。仲間とお前は違う。」
もちろんそうだ。当たり前のことだと分かっているし、いつもなら笑って流せるのに、今日は少し胸に来てしまった。
「……。」
「…?どうした?」
「へへ、なんでもないです。」
「…肉はどうする?」
「あ、今日は全部買取でお願いします。」
「ああ、じゃあこれ金な。」
「はい、ありがとうございます。それじゃあ。」
「おう。」
いつもの「また明日」の挨拶も今日はできないし、なんだか調子が狂う。それに胸が痛くてガイさんの顔を見ていたら辛くなりそうで、とりあえず早くカウンターを離れ小走りにギルドを後にした。
「師匠〜、仲良しの子にあの言い方は可哀想ですよ。」
「うるせぇ。」
「師匠のために健気に頑張ってるのに。ご飯ぐらいダメなんですか?」
「ケイアス。口出すな。」
「はいはい。」
翌日からの依頼は散々だった。護衛対象が料金が高くなることを嫌がって、狙われているという情報を故意に隠していたせいで、不意打ちに襲撃されてしまい傷を負った。護衛対象は傷一つなく守り切ったので依頼は達成したが、傷が治るまでしばらく狩りは中止を余儀なくされた。
幸いにもガイさんと話すために頑張って狩っていたので、お金は沢山ある。これを機に少しゆっくり休むことにした。
温泉で有名な観光地に足を延ばし、一週間ほど休暇を楽しんだ。しばらく我武者羅にガイさんを追いかけ回していたが、一度冷静に考えてみる。そうすると、あれだけ誘ってご飯さえ一回も食べて貰えないのはもう無理なのでは?と大変な事実に気がついてしまった。
好きでもないヤツから執着されるのは誰でも嫌だ。だからあまり目も合わせてくれないし、疲れるのではないか。私はガイさんに夢中になり過ぎて、ガイさんの気持ちを考えられていなかった。
(好きな人を嫌な気持ちにさせるなんて…。私サイテーじゃん…。)
これ以上の迷惑はかけられない。もう無理に倉庫行きを狙って狩りをするの、やめよう。これからはただ推し活するだけに止めよう。
別に好きでいるのは自由だし、カウンターで話すことはできるもんね。それで充分かな。
今までの罪滅ぼしになるかは分からないが、今後はなるべく無理に関わろうとしないようにしよう。そう決めて休暇を終えた。
今までは倉庫行きになっても迷惑にならないように昼間の暇な時間帯を選んでいた。そのために日が変わって少ししたら起き出して狩りに行っていたが、今後はそんな事はしなくても良くなった。
少し寂しいが、もう決めた事なので普通の冒険者と同じように行動するようにした。
狩りの量も無理はせず、普通に食べていけるだけ稼げればそれでいい。
夜になる少し前、ギルドの扉を開けた。いつもと違って人がいっぱいだ。私を見た人達が驚いたようにざわざわしているが、恐らくあの変人がいつもと違う時間帯にいるから驚いているんだろう。
解体カウンターに行くと、ガイさんはいなかった。
(ああ、そっか。この時間は交代してるのか。)
夜番に交代しているので、いつもと違う職員さんにカウンターで対応してもらう。
「こんばんは。」
「あれ、見ない顔だね。新人さん?」
「いえ、一応Bランクの常連です。」
「そうなの?あ、もしかして先輩のこと好きな子?」
「先輩ってガイさんですか?」
「うん、そうそう。君めっちゃ有名だもんね。愛の力でBランクになったソロ冒険者って。」
「あはは。私リンって言います。」
「僕はサイモン。よろしくね。」
「よろしくお願いします。今日は全部買取でお願いします。」
「はーい。ちょっと待ってね。」
明るくて話しやすいサイモンさんは、解体カウンター勤務特有の筋肉体型だが、顔は優しげでくるくるの茶髪が雰囲気ととても良く合っている。
「この時間初めてだから新鮮です。」
「昼間とは全然違うよね〜。僕ら五時半に交代だから、それまでにくれば先輩に会えるからね。」
「あ、そうなんですね…。」
「は〜い、これお金ね。」
「ありがとうございます。じゃあサイモンさん、また明日。」
「あ、うん?またね?」
不思議そうな顔をするサイモンさんと別れて、もう無理に時間合わせしないので、ガイさんとはなかなか会うこともなくなっちゃうのか〜と思いながら帰路に着いた。
次の日も、また次の日も同じように狩りをこなして行く。いつもはあった癒しの日常がなくなって、何だか寂しい。無理に会おうとしないとほぼほぼ会えないので、見て癒されようとか満足しようとか、それすら無理な事に気がついた。
当初の予定を変更して、前の時間帯に戻すか。でもそうすると量を狩らなくても朝早過ぎて、それは無理して会おうとしてることになっちゃわないか?という気もして。
一ついい誤算だったのは、ギルドの指名依頼は受けやすくなった。今は何日かかろうと全く問題ないからね。
五日間かかる指名依頼を終えて夜になる少し前の時間にギルドに向かう。するとギルドの入り口横にガイさんが立っていた。
久しぶりに見ることができた姿に胸が高鳴る。
(ふわぁ〜!久しぶりのガイさん!相変わらずステキだなぁ。)
腕を組み目を瞑って壁に寄りかかっているので、誰か待っているのかな。話しかけたいけど、誰か待っているなら邪魔になるかもしれないし、とそっとその横を通り過ぎる。
ガシッ
突然腕を掴まれ、ビクッと体が跳ねる。私を掴んだ人を見上げるとそれはガイさんだった。
驚き、ガイさんを見つめているとガイさんが話しかけてくる。
「…久しぶりじゃねぇか。」
「え?あ、はい、お、お久しぶりです。」
「はぁ…。…狩ってきたのか?」
「…はい。指名依頼の道中でたくさん…。」
「んじゃ裏だな。来い。」
「え?え?」
ため息を吐きながら私を掴んでいない方の手で顔を覆うガイさん。腕を掴まれたまま、ギルドの外から裏の倉庫に向かう。道中は頭にハテナが浮かびまくり、何でこんな事になっているのか全く理解出来なかった。
初めて触れられた手はあったかくておっきくて、こんな状況だけどドキドキしてしまい苦しい。
倉庫に着くとガイさんは腕を掴んだままこちらを向き話し始める。
「なんで時間帯変えたんだ。」
「え?えっとなんでと言われましても。」
「うちは交代制だからな、変えたら会わなくなる。何でだ?」
「その、ご、ご迷惑かなと思って…。指名依頼も来るようになったし丁度いいかなって。」
「お前はそれでいいのか。」
「寂しいですけど、でもしょうがないです。(付き合うのは)もう諦めようと思って。」
「…諦められんのかよ。」
「……。でもガイさんにずっと不快な思いをさせる訳にはいかないし…。」
「……不快だなんて思ったことねぇけど。」
「……え?」
驚いて、俯きながら話していた顔を上げる。ガイさんの顔を見て、すごく真剣で真っ直ぐにこちらを見る瞳に更に驚く。
(ガイさん…いつもあんまり目が合わないのに。…やだカッコいい。なんか恥ずかしくなってきた。)
いつもは少し気だるげなガイさんが真剣な表情をしている。レアなガイさんに胸がときめくし、ガイさんの新たな表情にまた改めて惚れ直してしまう。
ほてっていく顔を背けることも出来ずにガイさんを見つめる。
「…なんだ。まだ大丈夫じゃねぇか。」
「え?なんて?」
少し雰囲気が柔らかくなって、何かを呟くガイさん。声が小さかったので何を言っているか聞こえなかった。
「顔赤いぞ。」
「あ、すみません。なんかガイさんに見つめられて恥ずかしくなっちゃって。」
「…くそ、可愛すぎだろうが。」
「え?ごめんなさい、よく聞こえなかったです。何ですか?」
「いや…。この後時間あるか?」
「はい。特に予定はないですけど…。」
「じゃあ報告終わったら来い。解体は明日にしろ。外で待ってる。」
「え?」
「行ってこい。」
訳もわからず受付に向かわされる。収納スキルは時間経過がないし、解体は明日でもいいけど。まだ何か話があるのかも知れない。とりあえず受付に指名依頼達成の報告をして、ギルドを出た。
するとさっき立っていた場所にガイさんがいた。
「おう、終わったか。」
「はい、お待たせしました。」
「ん。行くぞ。」
「どこに?」
「俺んち。」
「ええっ?!」
「嫌か?」
「いえ、行きます。行きましょう。」
(ガイさん家?!絶対行くでしょ!)
普段滅多に入れないレアな場所に、食い気味早口で答えてしまった。するとガイさんはフッと笑って私を先導するように歩き出した。
(わ、笑った?!何?!さっきから何が起きてるの?!)
業務時間外に話せて、ガイさん家に行けて、ガイさんが微笑んだ。何?私死ぬの?と異常事態に怯えながらガイさんについて行く。
十分ほど会話もなく歩いていると、一軒家が並ぶ区域に入った。ギルドの解体カウンターリーダーともなると平民の中でもしっかりした場所に住めるようだ。
更に五分ほど歩いてガイさんが歩みを止めた。到着したようだ。
「ここがガイさんの家ですか?」
「ああ。」
鍵を開けて中に入るガイさんに続いて家に入る。
「お邪魔します。」
入って正面は飾り棚になっていて見たことのない何か、魔物のような物が飾ってある。無骨な雰囲気がガイさんっぽい。
左に進むとそこがリビングになっていて、大きなソファとローテーブルが真ん中にドンと置かれている。
壁際に棚などもあるが装飾が殆どなく、実用的なのが解釈一致だ。
「わぁ。ガイさん家って感じ。」
「なんだそりゃ。」
「ガイさんがそのソファでお酒飲んでるの、めちゃめちゃ想像つきます。」
「……。まぁ取り敢えず座れ。」
「はい、失礼します。」
ガイさんは言い終えるとリビングを出ていった。
ソファに座ろうとすると、L字に配置された片方のソファが少し使い込まれた感じがある。
(絶対ガイさん普段こっちに座ってるでしょ。…こっち座っちゃお。)
ガイさんが普段座ってるところに座りたくて欲望のままに座ると、ふわっとガイさんの匂いがする。
(あ、ヤバ。めっちゃいい匂い。寝っ転がりたい。寝っ転がって思いっきり吸いたい。)
内心と葛藤しながらしっかり座って待っていると、ガイさんがお茶を持って戻ってきた。
「あ。」
「え。」
「いや、何でもねぇ。大したもんなくてすまんな。」
「いえ、お構いなく。」
「前から思ってたが、お前若ぇのにしっかりした話し方するな。」
「そうですか?皆こんな感じじゃないんですか?」
「冒険者なんざそれなりの依頼受けるようになるまで敬語は使わねぇ。」
「そうなんですか。」
「だから俺はお前がいいとこの娘なんじゃないかと思っていたんだが。違ぇのか?」
「全然違います!普通の平民ですよ。それどころか孤児院出身なんで親もいません。」
「そうだったのか。俺が勘違いしてたんだな…。」
「私あんまり他の冒険者の人と話さないから気づきませんでした。受付の人たち結構気安いなーと思ってたんですけど、だからかな。」
「敬語使っていると逆にお高く止まってるって難癖付けられることもあるからな。敢えて指導してるぞ。」
「へぇ〜大変なんですね。」
どこかのお嬢様と勘違いされていたようだ。仕草なんかも気をつけていないし、お嬢様にしては粗野だと思うんだけどと思いつつ話をする。
「…。それでだ。まだ俺の事好きだな?」
「はい。もちろん。」
「即答なのかよ。諦めるんじゃなかったのか?」
「いえ、好きなのって諦めるとか無理では?勝手にときめいちゃうんで。諦めるって言ったのは付き合おうと頑張るのを諦めようかと思ったんです。」
「…はぁ。お前のその明け透けなのは何なんだ。疲れる。」
「あ、ごめんなさい…。」
「謝んな。ああ、これか。…疲れるってのは、何つうか嫌な意味で言ってるんじゃねぇから。そこは俺の言い方が悪かった。すまん。」
「いえ!いいんです。」
(嫌な意味じゃない疲れるってどうゆうこと?分からん。)
少しバツが悪そうに謝罪するガイさんに、謝らないで欲しいと伝える。なんだか少し話しただけだけど、どうもすれ違っている部分がありそうだと思う。
ガイさんもそう感じているのか、こうして話す機会を作ってくれたのかも知れない。
「最後に会った日にキツイ言い方しちまっただろう。それで傷つけたから時間帯を変えて俺と会わないようにしたんだと思ったんだ。ちょっと調べたらそもそもギルドに全く顔出してねぇって知って心配した。」
「心配してくれてたんですか?」
「ああ。怪我したって聞いてたしな。仕事が疎かになるくらいには心配した。俺自身、そんな自分にかなり驚いたがな。」
「ガイさん…。ちょっと待って。嬉し過ぎて苦しい。」
「ふっ、俺は言葉が足りねぇらしい。それにお前、俺にガンガン来るくせに自分に向けられる感情には鈍感だからな。俺もはっきり言う事にしたんだ。」
「はぁ。やだ微笑むのやめてぇ。かっこいいぃ〜…。」
「ククク。おい声に出てるぞ。」
「分かってますぅ。でも吐き出さないと。爆発しそう。」
「ククっ。それでまぁしばらくしたら何事もない様子で夜番の時間に来るようになって、ギルドがざわついたの気づいてたか?」
「…ああ、そういえばちょっとざわっとしたような?」
「ちょっとどころじゃねぇぞ。あのガイ狂いがついに諦めたって噂になってる。んで俺もちょっと顔見ようと思って交代後に奥で待ってたんだが、お前はサイモンと仲良さそうに話してるし「また明日」ってアイツに言ってやがるし…。」
「……。」
「それ聞いてムカついてしょうがなかった。あんだけ俺に懐いてたやつが、他でもいいのかってな。しょうもねぇ野郎だろ?俺は。」
「…そんな事ないです。」
ガイさんが語るのを聞くうちに期待で胸がドキドキしておかしくなりそうだった。胸に手を当てると心臓の鼓動が手に伝わってくる。
(私の事、憎からず思ってくれてるの…?)
「俺は40過ぎのおっさんだ。それを10代のお前とどうこうなろうとするのはおかしいだろ?だからお前の気持ちも一時の気の迷いだろうと考えて、なるべく本気にしないようにしてた。だが実際突き放されてみたら未練たらしくお前を探してるのは俺だった。とっくにお前に絆されてた。」
「ガイさんっ。」
「俺はお前が好きだ。だからお前を手に入れる。いいな?」
「っ!…も、もちろんですっ。」
「俺はどうも執着するタイプだったらしい。お前の対応は俺がする。他のやつの所には行かせねぇ。分かったな?」
「っはい、わ、わかりました!」
「いい子だ。」
「やあああぁ〜!無理無理無理無理っ!ガイさんちょっと待って!」
「ククク、顔真っ赤だぞ。」
「ガイさんがカッコ良過ぎるっ!!」
話始めてからずっと、ガイさんは私を見つめている。真剣でその上愛しい者を見るような瞳で見られて、これ以上耐えれらない。
ガバッと顔を腕で隠して膝に突っ伏す。心臓が口から飛び出そうとはこのことだ。
するとソファがギシっと沈む。ハッとその方向を見るとガイさんが横に座っていた。
「俺たちは両想いな訳だ。愛しいお前を抱きしめさせてくれ。」
太く逞しい両腕を広げてガイさんがこちらを向いている。
(…え?あのパンパンの胸筋に包まれるの?は?ご褒美過ぎるだろ。しかもこの最高にかっこいい人が私のこと好きなの?え?マジで明日死なないよね?)
そんな事を考えて固まる私を楽しそうに見つめたガイさんは、私が動き出す前に私を強く抱きしめた。
ガイさんの筋肉と匂いに包まれてくらっとする。
「はぁ。ガイさん…。」
「ああ。」
「大好き。」
「ふ、ああ。」
そのまましばらく抱き合ってガイさんの胸で深呼吸を繰り返していると、ガイさんの腕の力が少し緩んだ。
そのままガイさんを見上げると、ガイさんが真剣な表情でこちらを見ている。
(あ。キスされるかも。)
これからされるかもしなれい事を想像して、恥ずかしさに顔が真っ赤になるのが分かった。
「リン、マジで可愛過ぎだ。」
「え?」
「その真っ赤になるやつ最高。そん時のリンは瞳がちょっと潤んで最高に色っぽいんだぞ。知ってたか?」
「知らないよ!ちょっと。恥ずかしくて死ぬ。」
「くははっ!ほらお望み通りキスしてやる。」
そう言って私の顎を持って顔を上向かせると優しく触れるだけのキスをしてくれた。
「〜〜〜っ!はぁっ、もう胸がっ、ドキドキし過ぎて痛い。」
「ふっ。それ疲れるだろ?」
「え?…あ、ガイさんがいつも言ってた疲れるって…。」
「お前に何か言われるたび気持ちが揺れまくって、それを必死に抑えるの、疲れるんだよ。」
「そうゆう事だったんだ…。」
「あん時は気づいてなかったが、もうずっと好きだったんだろうな。」
そう言いながら私の頭を優しく撫でてくれる。
「ガイさんのその体に似合わない手つき本当にヤバい。」
「?何だそれ?」
「えぇ〜、無意識なんですか?」
「何か変な触り方してるか?」
「違いますよ。いつもめちゃめちゃ優しくて丁寧なんですよ。ギルドの倉庫で魔物触ってる時も、話し方とか体つきに似合わないくらい優しくて。…めっちゃエロいなって思ってました。」
「……は?お前俺の後ろで毎回そんな事考えてたのか?」
「そうですよ。」
「…勘弁してくれ。これから毎回思い出しちまうじゃねぇか。」
「ガイさんはそのまま何も気にしないでいいんですよ。」
「リンが近くにいて、リンがエロい事考えてるのに平常心でいろってのが無理過ぎるだろ。…はぁ。耐えるしかねぇか…。」
「すみません。なるべく自重します。」
「そうしてくれ。」
そう言うとガイさんは私をひょいっと持ち上げて自分の膝の上に向かい合わせで座らせた。
あまりにも軽く持ち上げるので全然怖くなかった。
「リン、ここで一緒に暮らすか?」
「う〜ん、どうしようかな。」
「即答じゃねぇんだな。何が気に食わないんだ?」
「嫌とかじゃなくて、今日お付き合い始めたのに早くないですか?もうちょっと後でもいいかなと思って。泊まるのはありですけど。」
「ふ〜ん、そんなもんか。じゃあ今日は泊まってけ。この後もたっぷり可愛がってやる。」
「っちょ、ちょっと!恥ずかしいからやめてってば。そういうの言わなくていいから!」
「ふっ、毎日楽しくなりそうだな。」
その日私が体験した事は、今までの人生で一番ヤバかったとだけ言っておこう。
その後、私は通常通り冒険者生活を送っている。朝六時に起きて、魔物を狩ったり薬草を採取したり、指名依頼をこなしたりしている。今までと違うのは、ガイさんの横で寝起きする日がある事と、何日分か収納に貯めてから、夕方にガイさんのいるカウンターに持ち込むようになった事だ。
勤務を終えたガイさんを待ってそのまま一緒に帰るようになった日、冒険者ギルドは今までで一番うるさかった。皆が大声で叫んでたし、直接「よかったな!」と話しかけられたりした。一番驚いたのは、その場にいたほぼ全ての人が反応していた事。私そんなに注目されてたの?とちょっと恥ずかしかった。
その日をきっかけに今まで話していなかった他の冒険者の人達とも挨拶をするようになった。一番話題になるのはガイさんの変わりっぷりで、私の前ではよく笑うようになったので、「あいつのあんな顔初めて見た。」とか「あの堅物を落とした技が知りたい。」とか言われる。「今狙っている子がいるんだけど、どうすればいいか」なんて相談もされるようになった。もちろん私にはなんのテクニックもないので、ただ毎日好きだと伝え続けただけだと言ったら何だか納得したような顔をしていた。いい知らせが聞けるように願うばかりだ。
ギルドには冒険者が自由に使っていい休憩スペースがある。そこでガイさんを待つのが日課だが、その時間は誰かしらが話しかけてくれるので退屈はしない。
今日は、前に恋愛相談をしてくれた若い男性冒険者が近況報告をしてくれていた。先日意中の相手とデートをしたようで、その日の彼女がいかに可愛かったかと大変惚気ていた。私より少し年上だと思うが、その夢中っぷりに私もこんな感じ何だろうなと親近感が湧いたし、恋する人間はこんなに可愛いんだなとしみじみ思った。
(私もガイさんにこんな風に見えていたら嬉しいな。)
笑いながら話を聞いていると、仕事を終えたガイさんがやってきた。
「…待たせたな。」
「お疲れ様、ガイさん。」
「お疲れっす。」
「それじゃあ私行きますね。頑張って下さい。」
「ああ、ありがとう。またな。」
手を振ってギルドを後にする。
今日はご飯を食べたらお泊まりせずに帰る予定だ。行きつけのお店に向かっているとガイさんがいつもより低い声で話しかけてくる。
「あいつと仲良いのか?」
「え?誰?」
「さっきの若いやつ。」
「ああ〜、あの人ね。最近話すようになったんだけど、なんか可愛いよね〜あの人。年上に失礼かもだけど。」
「……。」
「?ガイさん?」
「……。」
「なんか怒ってる?どうしたの?」
「…イラつく。」
「?…あっ!違う違う!あの人は前に恋愛相談してくれてて、こないだのデートの報告してくれたの。好きな子にベタ惚れだから、変な意味ないよ。」
「それにしては楽しげだったじゃねぇか。」
「あんまりにも好きな子に夢中で、ガイさんに夢中な私と重なって見えちゃってさぁ。応援したくなるんだよ。私がどれだけガイさんを好きか知ってるでしょ?」
「…ふん。そういう事ならいいがな。あんまり可愛い顔他の男に見せんな。」
「ふふふ、分かった。でもガイさんを見てる時と他の人といる時、私全然違う自信あるな。ガイさんを見る時は好き好きって顔してるでしょ?」
「ふっ、まぁな。リンは人前でも隠さねぇからな。ずっと俺だけ見てろ。」
「うん。ガイさんだけを一生好きだよ。自信ある。」
「ははは!」
私はガイさんの太い腕に抱きつきながら歩く。ガイさんは目的地のご飯屋さんじゃなくて、違う方向に向かい出した。そっちはガイさんの家のある方向。今日はお泊まりコースだなと覚悟した。
End.




