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ニート撲滅戦士  作者: 勇氣
第三章女神編

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第五十六話 飽和する記憶領域(アウト・オブ・メモリ)と巨獣(ガベージ・コレクタ)『ポチ』の帰還「絵」

 黒き天使アンゲルス・ニゲルが「風紀委員」から「コードレビュアー」へと転身したことで、ウルクの仮想空間はさらなる繁栄を迎えていた。厳格ながらも情熱を許容する新たなルールの下、ユーザーたちは安心して建築や魔法の開発に没頭し、街はかつてないほどの熱気と多様性に満ち溢れていた。


 しかし、その平和な風景に、突如として「異変」が生じた。


魔法使いマーリン

 「た、太郎よ……! なんだか身体が……重いぞ……? 腕を上げるのにも、ひどく時間がかかるんじゃが……!」


 マーリンの言葉通り、ウルクの物理法則(物理演算エンジン)が明らかに異常をきたしていた。宙を舞っていた鳥が空中でカクカクと不自然に静止し、噴水から吹き上がる水しぶきがスローモーションのように空中に滞空している。街全体を覆う深刻な「処理落ち(フレームレート低下)」現象であった。


♰闇男♰

 「マズいぞ管理者! システムのステータスを見ろ! 論理的なバグじゃない、物理的な記憶領域メインメモリの使用率が99.9%に到達しちまってる!」


 コンソールを展開した♰闇男♰の顔が青ざめる。


♰闇男♰

 「自律進化プロシージャル・ジェネレーションによる際限のない世界拡張に加えて、ユーザーたちの残した無数の失敗作(不要なオブジェクト)……誰からも参照されていない『迷子のデータ』が空間を埋め尽くしてるんだ! このままじゃメモリ不足(OOM)で、サーバー全体がクラッシュ(強制終了)する!」


佐藤太郎

 「……やはり来ましたか。どんなに優れたクラウド・アーキテクチャを組もうと、行き着く先は『物理ハードウェアの最大拡張限界』という壁です。無限のメモリなど、この世には存在しませんからね。」


 世界が静止しつつある中、佐藤太郎だけはコーヒーカップを片手に、全く慌てる様子もなく澄涼とした笑みを浮かべていた。


魔法使いマーリン

 「笑い事ではないぞ太郎! わ、わしの髭が空中でカクついておる! 早く何か魔法コマンドを……!」


佐藤太郎

 「焦らなくても大丈夫ですよ、マーリンさん。限界までメモリが膨れ上がったのなら、不要なゴミを『掃除』すればいいだけのこと……そろそろ、バックグラウンドでのスリープモードから彼を叩き起こす(ウェイクアップ)としましょう。」


 佐藤太郎は指先を口に当て、ウルクの空に向かって高く鋭い指笛を鳴らした。

 ――その直後。


 ズウゥゥゥンッ!!

 処理落ちで静止していた空間そのものが、物理的な質量を伴う強烈な咆哮によってビリビリと震え上がった。

 ジッグラトの背後に展開された巨大な魔法陣ポータルから姿を現したのは、山のように巨大な四つ足の獣だった。黄金の体毛のあちこちには神聖なデータラインが明滅し、鋭い牙と爪を備えたその姿は、神話に登場する魔獣そのものである。


魔法使いマーリン

 「ひ、ひぃぃっ!? またしても新しい悪魔か!? 今度のは東の魔王よりもデカいぞ!」


 何とポチは生きていたのだ。


佐藤太郎

 「悪魔ではありません。俺がこの世界を構築し始めた初日から共にいる、頼れる相棒コンパニオンです……おいで、ポチ。」


佐藤太郎が優しく声をかけると、その凶悪な容貌をした巨大獣は「バウッ!」と愛嬌のある短い鳴き声を上げ、太い尻尾を千切れそうになるほど振った。

挿絵(By みてみん)


 ポチは佐藤太郎の顔面を舐めまわした。


巨大獣『ポチ』

 『グルルルゥゥ……(待機状態解除スタンバイ・レディ。所有者オーナーの命令を受理)フンッ!』


♰闇男♰

 「おい管理者、まさかこの巨獣……! 溜まりに溜まった不要なインスタンスを喰わせるための……!」


佐藤太郎

 「その通りです。彼こそが、ウルクのメモリ管理を司る最強の自律型掃除屋ガベージ・コレクタ……さあポチ、食事の時間ガーベジ・コレクションだ。世界中の不要なキャッシュを残らず食い尽くせ!」


 佐藤太郎の号令と共に、ポチはウルクの空へと跳躍した。そして、巨大な顎をカッと開き、特殊スキル『標識と掃討マーク・アンド・スイープ』を発動する。ポチの鋭い嗅覚スキャンは、世界中に散らばる「どこからも参照されていない不要なデータ」だけを正確にマーキングしていく。そして、次の瞬間――ポチが息を大きく吸い込むと、宙に浮いたまま放置されていた魔法の残滓や、ボツになったテクスチャデータが、凄まじい勢いでポチの胃袋(/dev/null)へと吸い込まれていった。


♰闇男♰

 「す、すげえ……! メモリ使用率がみるみる下がっていく! 90%……70%……一気に30%まで落ちたぞ! なんだあの桁違いの処理能力スループットは! 迷子のデータを、まるでドッグフードみたいに丸呑みにしやがった!」


魔法使いマーリン

 「おおおっ! わしの髭の動きが滑らかに戻ったぞ! 風も吹いておる! 素晴らしい、世界が軽く(最適化)なったわい!」


 ものの数秒で世界中の不要なデータを平らげたポチは、満足げなゲップを一つすると、光に包まれながらみるみると縮んでいき、最終的には大型犬ほどのサイズになった。そのままトコトコと佐藤太郎の足元へ歩み寄り、顎を彼の膝に乗せて甘えるようにすり寄る。


佐藤太郎

 「よくやりました、ポチ。完璧なメモリ解放キャッシュ・クリアでしたよ。後で最高級の骨付きプレミアム・ストレージをマウントしてあげましょう。」


巨大獣『ポチ』

 『ワンッ!(尻尾を激しく振る)』


♰闇男♰

 「ははっ……参ったな。神聖ヨーロッパ帝国のレガシーコードも、世界を監査する天使も、あの番犬にとっちゃただの『おやつ』にすぎないってわけか。あんたのパーティ、どうなってんだよ。」


 呆れたように笑いながら、♰闇男♰もポチの黄金の毛並みをそっと撫でた。肥大化という物理的な死のアウト・オブ・メモリからウルクを救ったのは、管理者の最も古く、最も忠実な巨大獣の相棒であった。すっきりと最適化された世界で、ウルクの住人たちは再び新たなる創造のステップを踏み出していく。

 急激な拡張による「物理メモリ不足(OOM)」というハードウェアの限界危機に対し、佐藤太郎の頼れる巨大獣の相棒『ポチ』が帰還しました。ポチの正体は、不要なデータ(ゴミ)を貪り食らい、世界を最適化する「ガベージ・コレクタ」でした。『標識と掃討マーク・アンド・スイープ』という圧倒的な食事によってウルクは再び軽快な動作を取り戻し、次なる冒険への準備が整いました。次回もどうぞお楽しみに!

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