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検死役の娘は、死体に嘘をつかせない。  作者: 雨音 穹
第一章 検死役の娘

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第一章 検死役の娘 第六話



検死室に行くまでの廊下は、朝でもひんやりしていた。

石床に響く足音は、父さんと私の二人分だけ。






「.....怖くないのか」






歩きながら、父さんが聞いた。






「怖いよ」






即答した。






「でも、父さんのやってることちゃんと知りたい」






父さんはそれ以上何も言わなかった。

ただ、歩幅を少しだけ落としたような気がした。











検死室の扉の前。

鍵を回す音が、やけに大きく響く。

扉を開けると、昨日と同じ冷たい空気が流れ出した。






白布のかかった解剖台。器具棚。薬草と酒精の匂い。

そして_____






「来ましたか」






(あや)がいた。

解剖台の前で、手袋をはめながらこちらを見たのは一瞬だけ。

父さんが淡々と言う。






「昨日と同じだ。紗詠は後ろで見てるだけ」

「.....そうですか」






(あや)は特に興味を示さず、手元に視線を戻した。






「まあ、邪魔しないなら好きにすれば」






私は軽く頭を下げる。






「.....よろしく」

「何も教えないよ」

「分かってます」






(あや)はそれだけ聞いて、もう関心を失ったように器具を並べ始める。

父さんが低く言う。






「昨日と同じだ。触るな。近づくな。口出すな。俺の後ろにいろ」

「うん」






(あや)はメスを手に取りながら、ぼそっと言った。






「黙って見ていられるなら、向いてるかもね」






それは評価というより、ただの事実確認みたいな口調だった。

父さんは反応しない。

私だけが小さく息を飲む。






(.....ここが、父さんの世界)






昨日よりも少しだけ、現実味が増した。

冷たくて、静かで、感情が仕事の外に置き去りにされる場所。

それでも_____

私は父さんの背中を見つめ、拳を握り直した。






(ここに、立ち続けたい)






昨日は「見学」。今日は「継続」。

それだけで、私には十分だった。



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