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検死役の娘は、死体に嘘をつかせない。  作者: 雨音 穹


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1/6

Prologue


死体は、嘘をつかない。






それが、この国ではあまりにも不都合な真実だということを、紗詠さえは知っていた。






白布の下に横たわるそれは、生きていた頃の身分も、立場も、もう持ってはいない。

あるのは、暴力の痕と、毒の名残と、死に至るまでの沈黙だけだ。






「.....確認を」






検死室に、低い声が落ちる。

正式な検死役、"あや"。






感情を削ぎ落としたその声に、紗詠は小さく息を吸い、布をめくった。

瞬間、時間が止まったように感じた。

そこにあった顔を、紗詠はよく知っている。






この仕事を教えてくれた人。

死体を見る時、決して目を逸らすなと教えてくれた人。

そして_____






『真実はな、いつ出すかを間違えると、人を殺す』






そう言って、何度も彼女の手を止めた人。






その身体は国家の記録上、すでに「事故死」として処理されていた。






「紗詠」






斑の声が、わずかに硬くなる。






「君は_____下がれ」






だが、紗詠は首を横に振った。

震える指で、その人の手首に残る痕をなぞる。

それは、事故でできるものではなかった。






「.....いいえ」






声は不思議と落ち着いていた。






「私は、検死役の娘です」






そして、顔を上げる。






「この人に、嘘をつかせるわけにはいきません」






斑は、何も言わなかった。

ただ一瞬だけ、彼女を見る目が変わった。






死体は、嘘をつかない。

嘘をつくのは、生きている人間だ。






_____だからこそ。






検死役の娘は、死体に嘘をつかせない。



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