溶けたチョコ。はちみつ。
凛月は悪くない。
凛月は私に色々してくれるし、女装にハマるきっかけを与えてくれた人だったし。
実は昔から女装には少し興味があったし。
だから、凛月は悪くない。
食べたは食べたでいいものの。
すぐに戻してしまう時雨。
時雨ちゃんは寝ててと片付ける凛月。
あれから3時間は経っただろうか、もう外は暗くなっていた。
月の光がない新月の夜。
豆電球すら付いていない部屋に凛月は言う。
「ご飯の材料買ってくるから30分くらい家出るけど大丈夫?」
「うん……。」
暗闇の中から時雨の小さな小さな声が聞こえる。
そして凛月は新月の夜の街にご飯の材料を買いに出かけた。
時雨は1人で考えていた。
凛月は悪くないのに、悪いのは全部自分。
そう自分。
自分が女装なんかに興味を持たなければ、こんなことにはならなかった。
母親の言葉が脳裏によぎる。
「気持ち悪い。二度とこんな真似しないで。私は認めないわよ。人として気持ち悪い。あなた男の子でしょ??」
気持ち悪い、そうかもしれない。
凛月は可愛いって褒めてくれるかもしれないけど、凛月以外の人は気持ち悪いと思うかもしれない。
でもこれが本当の自分って思った。
初めて女装した時、あんなに心が踊ったのは初めだった。
言われた言葉が時雨の心に突き刺さる。
二度とこんな事しないでと言われても、自分らしく生きて何が悪いんだろうか…。自分の人生は…自分らしく生きたい…。
苦しい。けど…。
……私は認めないと言われても……凛月は…凛月は自分の事を…認めて……くれる…。
目が熱い…。胸が苦しい…。
…………人として…気持ち…悪い。か…。
……そうだよね…。
「あなた男の子でしょ??」
この言葉を思い出した。
時雨は、何を思い立ったか凛月の部屋に駆け込んだ。
凛月の机の引き出しを漁る。
時雨の息は荒く、目から涙が溢れていた。
そして薬が沢山入った箱を見つけた。
これを全部飲めば楽になれる。
「……死ねる…。」
時雨は、箱から薬を取りだし飲み始めた。
何の薬かは分からない。
でも、いいもう楽になれる……。
時雨は笑っていた。
もういいんだ。やっと楽になれる。
時雨は目を覚ました。
白いふわふわとしている。
ほんのり暖かい。
心地よい。
ここは天国だろうか。
「起きた!起きました!」
大きな声で喜んでいるのだろうか?
灰色のおおよそ人の形をした影が見える。
どこかで聞いたことある声。
「…凛月……。」
時雨は声になるか声にならないかの大きさで呟いた。
「そうだよ!凛月だよ!」
なんで凛月がいるんだ?
ここは天国のはず、凛月は健康だし天国にいるのはおかしい。
足音がする、コツコツコツと。
白色の影が視界に写った。
これが天使と言うやつなのだろうか。
ぼんやりとしか見えないが恐らくそうだろう。
「雨宮さん。あなたは1週間寝ていたんです。今から軽い検査をしますのでそのまま横になっていてください。」
時雨は気づいた。
視界がぼやけて見えるのは、天国だからじゃない。
目が悪くなってるからだ。
そしてここは、病院だった。
白い影は白衣を着た医者だった。
「やはり、目ですね。視力がかなり低下しております。」
「そんな…どうにかならないですか?」
凛月は医者に問う。
「難しいです。」
スパンと医者は言う。
ここからの話は時雨はあまり覚えていない。
あのあと沢山凛月に怒られたのだけは覚えている。
時雨が起きてこなかった1週間。
本当に凛月は心配していたらしい。
だから、凛月に心配は二度とかけたくないなって。
時雨には、凛月がいる。それだけでいい。
「凛月。ありがとう。」
時雨は、買ってもらった丸眼鏡を大事に拭きながらそんなことを考えていた。
そして、凛月が作ったホットケーキを一緒に食べる。
今日からまた日常に戻る。
不便な事が増えて凛月にまた迷惑をかけてしまうかもしれないけど、日常に戻る。
「おいしい?」
初めてのホットケーキの感想を聞いてみる凛月。
「めっちゃ美味しい!」
「おぉ、良かった!」
思ったより元気に返してきた時雨に少し驚きつつ、元気になって良かったと笑顔で返す。
隣同士で座っている凛月と時雨。
時雨は横を見て。
「ねぇ。凛月。」
まじまじと頬を赤らめた時雨が凛月を見る。
「どうしたの急に?」
パタン。
凛月は時雨に押し倒される。
ホットケーキの甘さなのか時雨の甘さかは分からなかった。
そして凛月は、時雨の手を握り返した。




