ハカオ王国とミルティ王国の初戦
第18章
将軍と王は緊張に包まれた沈黙の中で互いを見据えていた。空気そのものが息を潜めるようだった。
敵軍の中から一人の司令官が進み出て、不安げに問う。
「どうなさいますか?」
「次の合図を待て。」と将軍は冷たく言い放ち、視線を王から外さなかった。
「はっ。」司令官は数歩下がり、頭を下げる。
将軍は王を睨み据え、低い声で告げる。
「ミルティ王。」
「……ああ。」と王は静かに応じる。その瞳にはわずかな憂いが宿っていた。
「我が目的はただ一つ――戦を告げに来ただけだ。」
「すでにお前たちはミルティの子どもたちを襲った。その時点で戦は始まっている。いまさら告げに来ても意味はない。」王は怒りを抑えた声で言う。
将軍は一度うなずき、短く息を吐く。
「では、これで失礼する。」
王は背を向け、城へ戻ろうとした。その刹那、将軍の眉間が寄る。
「部隊を率いて攻撃せよ。」と司令官に命じる。
「はっ。」
次の瞬間、将軍は剣を振りかざし、王へと突進した。
「うおおおお!」
王は即座に振り返り、足にオーラをまとわせると将軍の顎を蹴り上げた。将軍は吹き飛ばされ、苦悶の声をあげながら顎を押さえる。
「これでお前たちの真意は明らかになったな。」と王は怒りを滲ませて言い放つ。
将軍は嘲笑した。
「ハハハハ……王よ、お前ごときではハカオの力を理解できまい。」
「どういう意味だ。」王の目が鋭く光る。
「もう遅い。お前の王国はすでに囲まれているのだ。五つの大部隊――三千を超える兵が今この瞬間、王国を包囲している。」
王は遠くに立ち昇る黒煙を見て、顔を強張らせた。
「まさか……」
葛藤を胸に抱えながらも、王は剣を構え直した。
「まずはお前たちを倒す。」
激しい戦いが始まった。王は風と炎の魔法を駆使し、将軍たちを嵐に巻き込み、急ぎ王都へと戻っていく。
一方、王都はすでに炎と悲鳴に包まれていた。フェズやダリウスらが必死に防衛するも、敵は止まらない。
屋上からその光景を見たレイが息を呑む。
「なんてことだ……!」
「ハカオ軍が攻め込んでる……!」とミシルが顔を蒼白にして答える。
やがて王が帰還し、声を張り上げる。
「反撃せよ!」
――混乱のただ中。レイは老女を助け起こし、ヒフンがその隣に降り立つ。
「彼らを殺したのか?」とヒフンが問う。
「誰かを守るためだ。」とレイは短く返す。
「よし、俺も加わる。」ヒフンの瞳には決意が宿っていた。
そこへミシルも現れ、肩を怒らせる。
「やっぱり、勝手に病院を抜け出したのね。」
「はは、ごめん。」ヒフンは苦笑する。
三人は再び空へ舞い上がり、戦況を見下ろした。やがて――敵兵の一団が人質を連れているのを目にする。そこにはヒフンの両親と三人のミルティ兵の姿があった。
「……!」ヒフンの顔が凍りつく。思わず声を漏らそうとした瞬間、レイが素早くその口を塞いだ。
「静かに。お前の両親だと知られたら利用される。」
「……すまない。」ヒフンは悔しさに歯を食いしばり、深く息を吸った。
恐怖と怒りが胸を渦巻く。だがその瞳は揺るがぬ光を宿す。
「もし両親に指一本でも触れたら……絶対に許さない。」
その声は震えず、揺るぎなく、まるで命を懸けた誓いのように敵を射抜いた。
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