上級元素魔法
第17章
翌朝。
ヒフンは家を出て扉に鍵をかけると、昨日の修練場である森へと駆け出した。
しかし森に着くと、まだレイもミシルも来ていなかった。
「まだ誰もいないか」
ヒフンは心の中でつぶやく。
「仕方ない、先に上級元素魔法を試してみるか」
彼は自分の右手を見つめた。
「上級元素魔法を放つには、通常の火の魔法の二十倍の気エネルギーが必要だ。その上で、その気の性質を変えなければならない」
心の中で自分に言い聞かせると、ヒフンは目を閉じて気を変質させようとした。
「ぐっ……やはり難しいな」
一度は失敗したが、再び深呼吸し、落ち着いて挑戦する。
何度も苦戦しながらも、彼は諦めなかった。
やがて、放出する気を凝縮させ、粘度を持たせることに成功する。
「……これだ」
右手から放たれた火炎がゆっくりと濃くなり、やがて炎はマグマのように変化していく。
「熱っ!」
右手に生じた魔法は、もはや炎ではなく赤黒く輝く溶岩そのものだった。
茂みの奥から、その様子をレイとミシルが見守っていた。
ヒフンは右手を構え、一本の大木に狙いを定める。
「いけっ!」
解き放たれたマグマ弾は大木を一撃でへし折り、その勢いのまま二本、三本と突き抜け、最後の木にぶつかって地面へと崩れ落ちた。
瞬く間に、木々は燃え上がる。
「……マグマか。ヒフンの気容量は相当大きいな」
レイは心の中でそう呟いた。
一方のヒフンは力を使い果たし、膝から崩れ落ちる。
「しまった……このままでは火が広がって森ごと燃えてしまう!」
焦るヒフンの前に、レイが現れた。
「ヒフン、下がって見ていろ」
驚くヒフンをよそに、レイが詠唱を放つ。
「ウォータードラゴン!」
彼の両手から生まれた水は、巨大な龍の姿となって咆哮し、燃え盛る木々へ突進した。
轟音と共に火は押し潰され、煙だけが残った。
「……助かった」
ヒフンもミシルも、胸を撫で下ろす。
二人はヒフンのもとへ駆け寄り、ミシルが彼を支える。
「ヒフン、今のは……マグマの魔法?」
「そうだ、さっきようやく発動できたんだ」
「っ……!」
ヒフンが苦痛に顔を歪めた。右手の皮膚が赤く焼けただれていたのだ。
「ヒフン!?」
ミシルは慌てて彼の手を取る。
「大丈夫……すぐに治る」
「いや、その火傷は浅くない」
レイが真剣な目で言った。
「マグマは炎以上に灼熱だ。制御できるようになるまでは、自らをも焼き尽くす。君はまだ完全に扱えていない」
「……わかってる」
ミシルは彼の掌を開かせ、その傷口を見て息を呑む。
「ひどい……どうすれば……」
「心配するな。今日は訓練を休む。先に帰るよ」
「病院に行った方が――」
「そうだ、ヒフン。今は無理をするな」
レイも同意するが、ヒフンは微笑んで首を振った。
「大丈夫だ、俺なら平気だ」
彼が歩き出したその時――
ドォンッ!
大地を震わせる爆音が響き渡った。
三人は同時に顔を上げ、音のした方角を睨む。木々に遮られてはいたが、ただならぬ気配が伝わってきた。
「……嫌な予感がする!」
ヒフンは駆け出した。
「行くぞ、レイ、ミシル!」
「わかった!」
二人も後を追う。
森を抜けると、視界に飛び込んできたのは凄惨な光景だった。
約二百のハカオ兵が、すでにミルティ王国の守備兵を蹂躙し尽くしていたのだ。
「そんな……!」
三人は絶句した。
敵兵たちはそのまま王都へ向かって進軍を始める。
「このままじゃ市街地で戦闘になって、民間人が巻き込まれる!」
レイの声が震える。
「どうする……!」
ミシルも顔を青ざめさせた。
「俺に考えがある」
ヒフンの瞳には決意が宿っていた。
「……考え?」
「俺を信じてくれるか?」
「もちろんだ!」
ミシルは即答する。
しかしレイの表情は険しい。
「まさか、お前……」
「二人は王都へ行って、今の状況を王に伝えてくれ。俺がここで足止めする」
「馬鹿を言うな! 一人で二百相手にできるわけがない!」
「大丈夫だ。死にはしない」
そう言い残すと、ヒフンは風の魔法でレイとミシルを王都の方角へと押し飛ばした。
「ヒフン!」
二人の叫びは、風にかき消された。
ヒフンは敵軍の前に立ちはだかり、深く息を吸う。
「……俺はただ、ここで時間を稼げばいい」
やがて王都では、レイとミシルが玉座の間へ駆け込み、必死に報告を始める――。
(中略:王とのやり取り、フェズへの命令などを含む場面が展開)
一方その頃、ヒフンは敵将との対峙に臨んでいた。
「貴様一人で、我らを止められると思うか!」
鋭い声を放つハカオの将軍。
ヒフンは笑みを浮かべる。
「止める? 違うな」
「……何だと?」
「俺は、お前たちを打ち倒す」
その言葉に将軍は怒りを露わにするが、次の瞬間ヒフンの掌にオレンジの炎が灯った。
「なっ……オレンジの炎だと!?」
将軍が剣を構え、青き気を纏わせて突進してくる。
炎と剣が激突し、轟音が森に響き渡った。
---