気の容量を高める
第16章
翌朝、まだ陽が昇ったばかりの頃。
ヒフングは布団から起き上がった。瞼は重く、意識は半分夢の中にいるようだった。だが、扉を叩く音が彼を現実へと引き戻す。
髪を軽く整えながら玄関へ向かう。再び「コン、コン」と戸を叩く音。扉を開けると、そこにはレイとミシルが立っていた。
「おはよう」ミシルが柔らかく微笑みながら声をかけた。
その瞬間、ヒフングの瞳から眠気が消え、朝の光を取り込んだように冴えわたる。
「えっ?どうしたの?」とヒフングは戸惑い気味に尋ねる。
「王立図書館に誘いたくてね」レイが瞳を輝かせながら言う。
「そう、一緒に行かない?」ミシルも穏やかな声で続ける。
「もちろん。ちょっとだけ準備させて」ヒフングは口元に小さな笑みを浮かべた。
頷くレイを残し、ヒフングは部屋に戻り着替える。支度を終えると、ふたりのもとへ戻った。
「行こう」その声は短くも力強かった。
こうして三人は、王国の中心にある王立図書館へ向かって歩き出した。
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巨大な建物は、まるで時の秘密を守る番人のようにそびえていた。
「大きいな……」レイが感嘆の息を漏らす。
「え?ここに来たことないの?」ヒフングは意外そうに聞き返した。
「うん、ないよ。でも父が家に本を集めててね。それで色々読んできたんだ」レイは微笑みながら答える。
「そうか……」ヒフングは小さくうなずいた。
「ヒフングはどうなの?来たことある?」ミシルが優しく問いかける。
「俺?うん、数日前に一度来たよ」ヒフングはあっさりと返す。
ミシルは静かに笑みを浮かべた。
「じゃあ、入ろうか」レイが前へ進む。
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中へ入ると、古い紙の匂いが彼らを迎えた。本棚が森のように並び、知識の海が広がっている。レイの瞳は驚きと興奮に輝き、三人はそれぞれ本を探しに散っていった。
レイは〈オーラ〉の棚へ、ミシルは〈魔法〉の棚へ。そしてヒフングは、以前「魔法と世界の秘密」を見つけた場所へ向かう。しかし、その本はどこにもなかった。
(心の声)「おかしいな……確かにこの辺りにあったはずなのに」
ヒフングは肩を落とし、別の本を手に取った。
やがて三人は机を囲んで座り、それぞれの本を読みふけった。静寂の中、ページをめくる音だけが流れ、時は正午へと移ろう。読み終えると、彼らは本を棚に戻した。
「腹減ったな」ヒフングが子供のように呟く。
「俺も。お腹がうるさいよ」レイが苦笑しながら腹を叩いた。
「じゃあ、うちに来る?ご飯作るから」ミシルが温かな笑みを見せる。
「行きたい」ヒフングの声は素直だった。
レイは小さく笑い、三人はミシルの家へと向かった。
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ミシルの家は広々としており、畑や広場、小さな池まであった。
「大きな家だな」ヒフングが感嘆する。
「そんなに大きくはないよ」ミシルは控えめに答えた。
ポケットから鍵を取り出し、扉を開ける。
「ご両親は留守?」とレイが尋ねる。
「ううん……私が十歳の時に亡くなったの」ミシルは淡々と語った。
レイとヒフングは驚き、言葉を失う。
「……ごめん」レイが小さな声で謝る。
「大丈夫。さぁ、入って」ミシルは首を振り、優しく招き入れた。
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食堂でミシルは言った。
「私が作るから、二人は五分だけ待ってて」
「手伝おうか?」ヒフングが少し立ち上がる。
「大丈夫、一人でできるから」ミシルが微笑む。
「そうか。じゃあお願い」ヒフングは腰を下ろした。
二人が談笑していると、やがてミシルが料理を運んできた。
「できたよ」その声はどこか誇らしげだった。
「やった!」ヒフングは嬉しそうに言う。
三人は「いただきます」と声をそろえ、笑顔で食事を始めた。
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食後、三人は森へと向かい、魔法の訓練を始めた。
「魔法の強さは、使う気の量で決まる。だから俺は容量を増やしたい」ヒフングの瞳は炎のように輝いていた。
「どうやって?」レイが興味深そうに問う。
「こうだよ」
ヒフングは炎を放ち、空へと解き放った。火は高く舞い上がり、やがて小さくなり消えていった。
「これなら周りを壊さずに魔法を続けられる」
レイはうなずくが、その表情は淡々としている。
「驚かないのか?」ヒフングが眉をひそめる。
ミシルは静かに補足し、理屈を語った。
やがて三人は作戦を立て、協力して魔法を試し続けた。炎は空へ、光は砕け、水がそれを鎮める。何度も繰り返すうち、夕暮れが訪れた。
汗に濡れた顔に疲労と満足が同居していた。
「もう夜だな」レイが息を整えながら言う。
「今日はここまでにしよう」ヒフングが頷いた。
「うん」ミシルも同意する。
「帰ろう」レイが立ち上がる。
三人は互いに笑みを交わし、それぞれの家へと帰っていった。
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その夜。
ヒフングは簡単な夕食を作り、静かに食べながら心の中でつぶやく。
(心の声)「今日で気の容量を広げられた。明日は上級属性を試そう……まずはマグマだな」
(心の声)「いや、雷も気になる。時間があればやってみよう」
胸の奥に湧き上がる期待と昂ぶり。星空を見上げながら、ヒフングはそっと笑みをこぼした。
(心の声)「小さな一歩はやがて炎になる……俺もきっと、そう成長していく」
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