表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/19

王の宣言

第14話 


部屋に入ると、ヒフングは二歩前へ進み、深く頭を下げた。

「陛下がお呼びでしょうか?」と、慎重に問いかける。


ミルティ王はうなずき、「ああ。まずは座りなさい」と促した。


「は、はい…」少し緊張した声で答えると、ヒフングは前へ進み、王の正面にあるソファに腰を下ろした。


王はしばらく左手を見つめたあと、口を開いた。

「その手の傷はどうだ?」


ヒフングは小さく息を吸う。

「軽い麻痺が残っています。治療を続ければ治るそうですが……三年ほどかかると」


王は低くため息をついた。

「右手だけで生きるのは大変だろう」


ヒフングはかすかに笑みを浮かべる。

「もう慣れてきましたから、大丈夫です」


王は咳払いし、立ち上がった。部屋の隅にある大きな棚へ歩み寄り、扉を開け、数枚の紙を取り出す。それをヒフングの前の机に置き、再び腰を下ろした。


ヒフングは紙を見て首をかしげる。

「紙? 書類? 文書? ……まあ、全部紙には変わりないけど」心の中でつぶやく。


「これが何かわかるか?」と王が尋ねた。


ヒフングは顔を近づけ、目を凝らす。

「えっと……紙です?」


王は自分の額を軽く叩いた。

「……そうだな。では一枚取って、読んでみろ」


「は、はい……」ヒフングは一枚を手に取り、ゆっくり読み上げた。


「データ記録……ステファヌス・ヘリー!?」思わず声を上げる。


王はじっと彼を見据える。

「やはりな」


王の傍らに立っていたフェッズも目を見開いた。


ヒフングの心臓は早鐘のように鳴り、混乱が押し寄せる。そのとき突然、扉が開き、ミシル、レイ、ヴリン、そして軍服を纏った厳しい顔立ちの男が姿を現した。


「扉の前で盗み聞きするくらいなら、最初から入ってくればいいだろう」

男は落ち着いた声で言った。


レイ、ミシル、ヴリンは互いに視線を交わし、気まずそうに笑った。

「へへ……」


彼らは中に入り、部屋の隅のソファに腰を下ろした。軍服の男は王の隣に進み出て座る。


「私はダリウス。この王国の防衛将軍だ」男は手を差し出した。


ヒフングは慌ててそれに応じた。

「ぼ、僕はヒフング。レフォルト学園の普通の生徒です」


「普通の生徒?」ダリウスは意味深に笑みを浮かべる。


「え?」ヒフングは戸惑った表情を見せる。


王が再び口を開いた。

「ステファヌス・ヘリー――彼はかつて十六層の世界に到達した者だ」


部屋の空気が一気に重くなる。誰も言葉を発せず、王の声だけが響いた。


「その名は数十年もの間、封印されてきた。理由は単純だ。もし人々が彼の存在を知れば、必ず子孫を探し出そうとするからだ。より高き世界への道をこじ開けるためにな」


王はヒフングを鋭く見つめ、続ける。

「王国の記録によれば、ステファヌス・ヘリーはミルティに生まれた。魔法とオーラを修め、ある日、家に侵入した盗賊を殺したことで“眼”の力を得た。だがそれは、魂を蝕む呪われた眼だった」


王の声は低く、重くなる。

「その眼を手に入れた彼は、この国で最強となった。だが……やがて制御を失い、暴走した。ステファヌス・ヘリーは第二代国王を殺し、この王国の半分を滅ぼした。そしてより高き世界へと旅立ち、姿を消したのだ」


レイもミシルもヴリンも、息を呑む。


「六十年前、再び彼はミルティに現れた。人々の前で“上の世界”について語った。神話とされてきたその世界を。だが、程なくして再び姿を消した」


ヒフングは唇を噛みしめる。

「……本で読んだことはある。でもここで話せば危険だ。フェッズもダリウスもいる。下手なことを言えば……黙っておいたほうがいい」


「それで?」ヒフングは王を見て問いかける。「それが僕と何の関係が?」


「お前はステファヌス・ヘリーの名を知っていた」


「しまった……」ヒフングはうつむき、胸の鼓動が早まる。


レイ、ミシル、ヴリンは不安そうに彼を見つめる。


「……ただ、本に載っていただけです。園芸の本に」しどろもどろに答えた。


王は心の中でつぶやいた。

「隠しているな」


だが表情には出さず、薄く笑った。

「そうか」


「陛下……それにしても、なぜその名を?」ヒフングが問う。


王は立ち上がった。

「フェッズとお前の師エルリックから聞いた。お前は橙の炎を使い、赤のオーラを持っていると」


「え、ええ……」


「記録によれば、ステファヌス・ヘリーのオーラも赤だった。そしてミルティの歴史で、赤のオーラを持ったのは彼だけだ。今まではな」


ヒフングの目が見開かれる。レイもヴリンもミシルも、思わず息をのんだ。


「さらに、橙の炎――それはステファヌス・ヘリーが“眼”を得る前に作り出した魔法だ」


王はフェッズを振り返る。

「彼はその魔法を、通常の五倍の氣を流して使ったと言ったな?」


フェッズはうなずく。


「だが、記録にはこうある。橙の炎は、通常の二十倍の氣を注ぎ込まなければならないと」


「な、何ですって!?」ヒフングは椅子から飛び上がりそうになる。


王は再び腰を下ろし、真剣な眼差しを向けた。

「だからこそ、お前を呼んだのだ。私はようやく気づいた。オーラの色ごとに特性や強み、弱点がある。私はお前の赤のオーラを研究したい」


ヒフングはようやく安堵の息をついた。

「それが目的だったんですね」


王はうなずいた。

「それと……お前の両親は王国の兵士だったな?」


「はい」


「兵士たちは帰還を禁じられた。ハカオ王国との衝突のため、最低でも一か月は国境に詰めねばならん。私自身も各国王の会議に出席する予定だ」


「……じゃあ、両親は一か月帰れないんですね」


「ああ」


「わかりました」


王はフェッズを見やり、言葉を続けた。

「彼には特別な魔法の訓練を受けさせたい。どう思う?」


ヒフングは慌てて首を横に振った。

「僕は……レフォルト学園で学びたいです」


王は小さく笑った。

「そうか。だがもし、さらなる修練を望むときが来れば、ここへ来るといい。フェッズを訪ねなさい。――今日はこれでよい。下がれ」


「ありがとうございます、陛下」ヒフングは深々と礼をし、立ち上がった。


レイ、ミシル、ヴリンも続いて部屋を出る。


廊下に出ると、レイが心配そうに尋ねた。

「ヒフング、その手は本当に大丈夫?」


「痛みはないよ。でも動かしすぎないようにしないと」


ヴリンがやわらかく笑う。

「もう夜ね。晩ご飯、母さんがおごってあげるわ」


「やったー!ありがとう!」レイもミシルもヒフングも、声を揃えてはしゃぐ。


「で、どこに行く?」とヴリンが問う。


レイが手を挙げた。

「美味しいラーメン屋、知ってるよ!」


「ラーメン?」ヒフングの目が輝く。「いいね!」


「僕も賛成!」とミシル。


「決まりね」ヴリンはくすくす笑った。「それじゃあ、行きましょう」


四人は連れ立って王城を後にし、夜の街の小さなラーメン屋へ向かった。



---



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ