左折
片村教頭の車が校門を抜け右折し、国道十五号線に入って行く。この時間も渋滞は続いているが、比較的だが順調に車は流れていた。黒嶋社長とってこの通り慣れたこの国道は、自宅の庭を散歩するようなものだった。ナビを見なくても街並みが手に取るように解る。定足は車の免許は持っているが、専ら運転はしないペーパードライバーだ。都内の道路事情には疎く、もう何処を走っているか、まったく見当もついていない。だけれども、片村教頭の白いセダンだけは目でしっかり追っていた。人生で始めてのカーチェイスとあって、手には汗を握り緊張感はとんでもない。それでも教頭のゼダンは白色だが人気車種とあって、渋滞の国道でも目立っている。目ン玉にグッと力を入れて白いセダンから、まったく目を離さないでいた。
まだ追跡に気付かれてはないだろうが、白いセダンは渋滞を縫うように走り先を急いでいた。渋滞の国道にテールランプの赤い光が流れて行く。黒嶋社長もアクセルを踏み込み、この渋滞でもそのセダンを必死に追跡した。大井競馬場の前を通り、水族館を過ぎた。プロとして見失う訳はないと自信を深めていたが、そこで一瞬だが油断したのか、黒嶋社長は白いセダンをあろう事か、視界から見失ってしまっていた。
そして慌てて周りを見廻すが、教頭らしき車はまったく見当たらない。
項垂れてしまった、そのとき―、定足が声を荒げて云った。
「社長、その先の駐車場に左折して教頭のセダンは入りました」