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貴婦人
黒嶋探偵事務所には多くの依頼が舞い込み、日々忙しく調査に出掛けているが、この日はどうしてだか、調査が無く珍しく暇を持て余していた。
当然のように事務所の下にある、せんべろで昼から飲んでしまったのは云うまでもない。
黒嶋社長は事務所の冷蔵庫を更に開けて、手にした缶ビールを定足に放り投げた。
「まだ飲み足りなかったね。こうも陽が高く昇ってるうちから、酒は飲むものじゃないんだろうが、この赤羽地区にいて、暇なら昼からでも飲まない手は無いだろう」
「僕も昼から飲まないと何となく調子が出なくなったと云うか。昼飲みは癖になってしまいますね」
「まあ、我々の仕事は酒を飲むことじゃないだろうが、この赤羽地区の文化の継承も兼ねてると云うところだろう。バチが当たらない程度に飲めば良いさ」
そのときコンコンッと、黒嶋探偵事務所のドアをノックする音がした。定足は酒に酔って重い腰を上げて、事務所のドアを開けた。そこには清楚な装いの中年の貴婦人が立っていた。どうやら依頼者のようで、定足は丁寧に挨拶を交わして、パーテーションで仕切られた応接間に招き入れた。