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第6話

 「どえぇぇ!? お前の職業『遊び人』なのかよッ!? ひゃははははー! 遊び人がこのエリート学園に何しに来たんだ!?」


 教室に戻った途端、僕は同級生たちに速攻で絡まれた。


 それはもう、ありとあらゆる悪口を浴びせられたが、僕の耳には“都合の悪い発言だけをシャットアウトする”アクティブノイズキャンセリング機能が備わっている。

 なので、罵声を右から左へ受け流しつつ聞こえてきたのが──


 「最弱職『遊び人』なのに、よくこの学校に入れたな…。入試、大丈夫だったのか?」

 「あーうん。ギリギリだったね!」


 ……実際には、母親のコネで入学したので、ほぼ裏口みたいなもんだ。

 真相は墓場まで持っていくと決めている。


 そんなことをぼんやり考えていると、横から視線を感じた。

 なんとなく横を向いてみると──申し訳なさそうな表情のノエルナとバッチリ目が合った。


 「なんだよ? 僕に何か用?」

 「あっ…いや、なんでもないよっ!?」


 ノエルナは慌てて視線を逸らしたが、声はしっかり裏返っていた。


 ……なんだコイツ? さっきからチラチラ見てきて鬱陶しいな。

 ま、僕がピリピリしてるからビビってるんだろうな。


 少し肩が凝ってきたので、姿勢を正してみると──


 「ビクッ!」


 それと同時に、ノエルナが謎のタイミングで飛び跳ねた。


 ん? 何だ今の反応は?


 試しに、腕を軽く振り上げてみたところ──


 「ひぃッ!? 生徒証を落としたのは謝るから! 殴らないでエリネルぅぅ!!」


 ……あー、なるほどね。僕がキレそうに見えたってことか。


 まあ、僕の体は“激怒すると勝手にタップダンスを踊り始める”という意味不明な仕様なので、ガチギレなんてできるはずがないんだけどね。


 はぁ……自分の体なのに、なんでこんなに不便なんだろう。


 と、そのとき──


 ノエルナの悲鳴がきっかけで、周りの生徒たちがざわつき始めた。


 「こ、コイツ! 正体をバラされたからって女子を殴ろうとしてるぞッ!?」

 「女を殴るなんて……鬼畜の所業じゃあないか!!」


 いやいや、どういう飛躍の仕方だよ!?


 「僕が女を殴るわけないだろ!? 確かに父さんは三人の母さんをよく殴ってたけど、僕はそんなことしないわ!」


 誤解を解こうとしたつもりが──


 「なッ!? DV家庭で育ったせいで暴力への抵抗がないんだなッ!? なんてやつだ!!」

 「違う! そういう意味じゃない!」

 「ごめんねエリネル!! 私が生徒手帳を落としたせいで、君の職業がバレちゃってごめんね!! 謝るから、私の眉毛は剃らないでぇ!!」

 「おい、余計なこと言うなよ! 変な誤解が増えるだろうが!!」


 ──もはや火に油である。


 訂正するのが面倒くさくなった僕は、騒ぎだすクラスメイト達を放っておくことにしたのだった。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 なんやかんやあって、教室はありもしない僕の悪行が挙げられ、ざわついていた。


 ──そのとき。


 バンッ。


 勢いよく教室のドアが開く。


 「静粛にしろ。ホームルームを始めるぞ」


 現れたのは、中年の男性教師だった。

 そのひと言で、騒がしかった教室が一瞬にして静まり返る。


 生徒たちがそれぞれの席についたのを確認すると、教師は口を開いた。


 「まずは、入学おめでとう。倍率六倍の狭き門をくぐり抜けた君たちは、優秀な資質を持つ者ばかりだ。すでに上級職についている生徒も多いだろう」


 その言葉に合わせて、クラス中の視線が一斉に『遊び人』である僕に向けられる。


 この空気、正直うんざりだ。

 仕方なく、原因の一端を担っている隣のノエルナを見ると、彼女は額にうっすらと汗をにじませていた。


 ……まあ、本人なりに気まずいんだろう。


 教師は話を続ける。


 「さて、入学初日からで悪いが、一つ課題を出す。内容は少々複雑だが……エリートな君たちになら問題ないだろう」


 またしても、教室内の視線が僕に向く。

 無視して、僕は教師の書く黒板に目を向けた。


 「来週の月曜日までに、最大五人のパーティーを組んでもらう」

 「……先生、それが課題ということでしょうか?」


 そう問いかけたのは、前列の男子生徒。清潔感のある髪型と整った制服姿。いかにも優等生という雰囲気だ。


 「そうだ。確か君は……王都騎士団長の息子、アンダーソン君だったな?」

 「ええ、そうです」

 「君の職業は『ソードマスター』。剣の技に優れ、パーティーの前線を担う存在だ。だが、それだけでは戦えない」

 「……どういう意味ですか?」


 教師は、少し口調を和らげた。


 「たとえば、君がワイバーンと戦うとしよう。どれほど剣技に秀でていても、一人では厳しい。補助魔法や回復、盾役や遠距離攻撃の仲間がいてこそ、戦いは成り立つ。私からのアドバイスとしてはそういった“役割のバランス”を考えてチームを編成することだ」


 黒板には、それぞれの職業の分類と特徴が書き出されていく。


 「これは、学年全体で出される最初の課題だ。自分の職業や能力、そして相手の適性をどう活かすか。仲良くなれそうな人と組むというより、職業の組み合わせと相性を見極める。さてエリートの諸君よ。幸運を祈っているぞ」


 教師はそういうと、「授業の準備をしろ」と言い捨てた後、ざわつく教室を後にしていった。


 果たして遊ぶことしかできないおふざけレベルの職業『遊び人』とパーティーを組みたい人間なんているのだろうか…。


 このままじゃ僕…絶対孤立するだろうなぁ…。


 僕は魔術基礎の教科書を取り出しながらそう考えた。 


 ……遊び人の僕には、いろいろと頭の痛い話だ。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 不可解な課題が出されたその日の昼休み。

 午前の授業を終え食堂に集まった新入生たちは、どこか落ち着かない雰囲気で周囲の動きをうかがっていた。


 因みに、この学校のカリキュラムは自信が選んだ学部によって変わるようだ。

 僕は魔術も剣術も両方学ぶ魔剣士学部を専攻している。


 当然、授業のカリキュラムは魔術関連や、剣術関連のものになってくるのだが…。


 全然うまくできない…。


 まぁ、『遊び人』に就職してステータスダウンしたのだから、今までとは比にならないほど弱体化しているのはわかってたよ?

 でもやっぱり、ちょっとはできると期待している自分がいて、初めの方はウキウキで授業を受けただけど…やっぱり駄目でした…。


 はぁ…。幾ら人一倍無神経な僕でも流石に凹みそうだ。

 『遊び人』に就職してからというものの、憂鬱になることが多くなった気がする。


 まぁそれもそうか…。いままでエリート家系に転生して手に入れた人一倍の才能が一瞬で枯れたんだもんな…。誰だって凹むに決まっている。


 僕がそんなことを考えていると、隣の席から生徒同士の会話が聞こえてきた。

 あれは同学年の生徒だろうか?


 「なあ、あれが本当に課題なのか? なんか引っかかるんだけど」


 列に並んでいる僕の真横で生服をラフに着崩した男子生徒が、隣に座る眼鏡の少年に話しかける。

 眼鏡の彼は、金貨を弄りながら面倒くさそうに答えた。


 「そんなことも知らねーのか。パーティーを組むのは、あくまで“試験に進むための条件”だよ」

 「……試験って、何の?」

 「上級魔物の討伐試験。先輩から聞いた話だと、実戦形式でやるらしい。しかも、結構ガチなやつ」


 眼鏡の男子生徒の言葉に周囲の生徒は目を見開いていた。

 

 本当かどうかはわからないが、パーティーを組むだけが課題ではないのは馬鹿でもわかるだろう。

 パーティーを組んだうえで何かをやらされる…。

 

 もしかしたら眼鏡の男子生徒が言っているように、実戦形式で魔物と戦闘を強いられるのかもしれない。


 僕はそんなことを考えながら、トレイを持って空いた席に腰を下ろす。


 僕が魔物と戦えるのかはさておき、先ずはパーティーを作ることに専念しよう。

 『遊び人』である僕が、パーティーに入れるかどうかは別として…。


 一気に憂鬱な気分になった僕は、食堂で頼んだサンドイッチを食べようとしたところ…。

 申し訳なさそうな顔をしたノンデリ女──ノエルナが、何食わぬ顔で僕の隣に座ってきた。


 「……なんでわざわざ隣に?」


 嫌味っぽく問いかけると、ノエルナはぎこちない笑みを浮かべながら言った。


 「食べる人がいなくて寂しいから、隣……いいかなって」


 ――どの口が言う。

 クラス全員に僕の最大の秘密をバラしておきながら、この距離感である。

 いくら空気の読めない僕でも、さすがに引く。

 おそらく、あのノンデリっぷりのせいでクラスメイトと溶け込めず、孤立してしまったのだろう。……同情は、しない。


 「お前、ノンデリすぎてクラスで浮いてるんだろ」


 僕は容赦なく本質を突いた。

 ノエルナは図星だったらしく、目を潤ませて反論する。


 「わぁぁぁっ!? 自分の性格くらい分かってるよっ! みんなと馴染めないって分かってるからぁ!」

 「誰も一緒に食べてくれないからって、よりによって僕のところに来たのか。悪いけど、一人で静かに食べたいんだ」


 今までの仕返しも込めて、僕は言葉のナイフで容赦なく刺しにかかった。

 ノエルナの表情はみるみるうちに歪んでいき――ついには大号泣。


 「うぁぁぁあああッ!! 分かってるよぉ、生徒証のことは謝るからぁッ! だから、ひとりにしないでよぉぉ……!」


 泣きじゃくるノエルナを、僕は少し引き気味に眺めていたのだが――


 「なぁ……アイツ、女子泣かせて楽しんでない?」  「もしかして、噂の“鬼畜変態”ってアイツのこと……?」


 気づけば、周囲からの視線が痛いほど突き刺さってくる。

 僕の評判は、底を突き破って地下深くまで落ちていた。


 「じょ、冗談だよ!? 僕も一人で寂しかったし……ほら、よければ隣、どうぞ!」


 微塵もそんなこと思ってないけど、これ以上のイメージ悪化は避けたい。

 観念して、僕はノエルナを受け入れることにした。


 「えっ、本当!? ありがとうッ!!」


 ぱっと表情を明るくしたノエルナは、袖で涙を拭いながらサンドイッチにかぶりつく。

 ……切り替え早すぎる。

 さっきまでの号泣が演技だったんじゃないかと疑いたくなるほどだ。


 その様子に呆れていると、背後から声をかけられた。


 「あの……私も隣に座っていいかな?」


 僕とノエルナは同時にそちらを振り向く。

 そこには、しおれた葉物野菜のように元気のない大きな狐耳が揺れていた。


 え。誰ですか?という言葉が喉の奥から出かけるが、すんでのところで押しとどまる。

 彼女が可哀想だし普通に失礼だろう。

 

 僕はモラルがない人間じゃないから、人には親切な気持ちで接するように心がけているのだ。


 というわけで、僕は隣に座っているノエルナに視線を送る。

 意図を察したのか、僕にこっそり耳打ちしてきた。


 ノンデリ野郎のくせにやるじゃないか。


 「ひょっとしてあの子のこと思い出せないの?」

 「うん」

 「もー。忘れん坊さんなんだから。私に感謝してね?私がいなかったら今頃君は…」

 「いいから早く言え」


 僕の言葉にむすっとしていたノエルナだったが、一瞬で気を取した彼女は何事もなかったかのように、僕に言伝した。


 「ついさっきエリネルが助けた女子じゃない?」

 「あー、そういえばそうだったわ」


 ノエルナの一言で、僕の記憶がつながる。

 そうだ、校舎裏で上級生に絡まれていた彼女を、ハッタリの魔方陣で助けたんだった。

 たしか名前は――


 「エリネルに何か用なの? ルフォちゃん、よければ私の隣に座ってよ!」


 そう、ルフォだ。

 ノエルナに促されて席に座ったルフォは、少し緊張した面持ちで僕の顔をじっと見つめてくる。

 内緒話をしていた僕たちを見て不安になったのだろうか?それとも僕の顔に何かついてるとか?


 「実は……エリネル君にお願いがあって来たの」


 ノエルナに進められて席に座ったルフォは、真剣な表情で僕の顔を見つめて来る。 一体全体なんの用だろう? 疑問に思いながらも、ルフォの言葉を待っていると…。


 「私と、パーティーを組んでくれませんか?」


 一瞬の間、周囲に静寂が訪れた。


 ルフォの口から告げられた内容を僕の脳は高速で処理し、一つの最適解を生み出す。


 「いいよ!」


 なんのためらいもなく、僕は即答した。


 コイツには僕の正体を知られていないようだし、これは大チャンスだ。

 おそらく、今後僕とパーティー組みたがる人間なんて一生現れないだろう。


 なぜかって?


 僕が今抑えているこのノンデリ野郎が、クラスメイト全員の前で僕の生徒証を落としたからに決まっているだろ。

 こいつのせいで、僕の正体がネタレベルの職業ある『遊び人』とバレた。

 そんなお遊び職業の人間とパーティーを組みたい人間なんているわけがない。

 チンパンジーでもわかる常識だ。

 


 つまり僕の正体を知らないであろうコイツとパーティーさえ組んでしまえば、とりあえず課題はクリアである。


 姑息にもそんなことを考えていると、ノエルナは声を上げて驚いた。


 「ええッ!?」

 「……なんでお前が驚いてるんだよ」  

 「だ、だって、エリネルって『遊びni――」 


 あっ。


 慌てて僕はノエルナの口を塞ぐ。

 これ以上の失言を防ぐために、口から鼻の穴までを完全に密閉する。


 彼女が苦しそうに悶えているようにも見えるんだけど…多分気のせいだね。


 ふぅ。まったく油断も隙もない奴だ。

 今更止めたところで遅いかもしれないが、自分の職業を軽々しくバラされるのは勘弁してほしい。


 「ど、どうしたの……? やっぱり、私と組むのイヤ……?」


 ルフォが不安そうに目を伏せる。

 いや、そうじゃない。

 『遊び人』である僕は今後誰にも誘われなさそうだから、むしろ大歓迎だ。

 ルフォは何も知らないようだし、ここは利用させて貰おうじゃあないか。


 「でも、なんで僕とパーティーを組もうと思ったんだ?」


 これが最大の疑問だな。

 ハッキリ言って、ルフォと関りがあったのはカツアゲされているところを救った場面だけだ。

 その一瞬の出来事だけで僕とパーティーを組む判断をするのは少し変だと思うのだが…。


 「だって……エリネル君、“崩壊雷閃アストラルライト”を使えるほどの実力者なんでしょ? 私の魔術と相性が良いと思って……一緒に組めたらって…」


 あー……なるほど。

 あの時のハッタリ魔方陣を見て、僕をすごい魔術師だと勘違いしてるのか。


 まぁ都合の良い勘違いをしてくれているみたいだし、訂正しないでそのままそっとしておこう。


 そんなことを考えていた矢先、右手に鋭い痛みが走った。


 「痛っ!?」


 反射的に、ノエルナの口を塞いでいた手を離す。


 「なにすんだよ!?」


 僕は涙目になりながら、噛み跡のついた右手を手袋越しにさすった。

 ノエルナは膨れっ面で睨み返してくる。


 「鼻まで塞いできたエリネルが悪いでしょ!? 危うく窒息死するところだったんだけど!?」

 「なんだよ……一生呼吸できない体になればよかったのに」


 つぶやいたつもりだった。

 本当に、ただの独り言のつもりだったのに――


 「はぁ!? なにそれ!? めっちゃムカつくんだけど!?エリネルの正体バラしちゃってもいいの!?」

 「…?ひょっとして僕のことを脅してるの?」

 「そうだよ!!今更後悔したって知らないからね」


 おっと。僕の職業を公然の前で叫ぶ気ですか。


 ノエルナが息を吸い込んだ次の瞬間、僕は無言で左手の手袋を外すと、封印していた力を解放。間髪いれず、困惑している二人の女子を片目にノエルナが履いている靴を素手で触る。


 『遊び人』である僕が素手で触ったものはどうなるのかというと…。


 「ひぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


 ノエルナの悲鳴と共に、彼女は履いている靴ごと逆さになった。


 彼女の悲鳴によって、周囲の視線が一斉に集まる。


 「ふ、二人ともッ、喧嘩はやめて!よくわからないけど、一回落ち着こうよ!」

 「何言ってるのルフォちゃん!この男に騙されちゃ駄目!こいつの正体は『遊びni..ふわぁぁぁあぁぁ!?」


 次の瞬間、ノエルナは空中で急旋回をし始める。


 「ハハハハハ!君は黙ってろノンデリ野郎!固有スキル【多動遊戯】(ハイパーモーション)も捨てたもんじゃないなぁ!アハハハハハァッ!!」


 僕の狂ったような笑い声にドン引きする周囲の生徒、それはルフォも例外ではなかった。


 「な、なんだ!?新学期早々喧嘩か!?」

 「おい見ろよ!男子生徒が、女子生徒を回して喜んでいるぞ!?なんて鬼畜野郎だ!」

 「鬼畜野郎って僕のこと?」


 笑いを止めた僕は、真顔で男子生徒を見つめる。

 鬼畜野郎とは心外な。僕はただノンデリ野郎を調教しているだけなのになんでそんなひどい名前で呼ばれなきゃいけないんだよ。


 「お、お前以外に誰がいるんだよッ!?こいつやべぇ奴だ!?」


 全くもって心外である。

 うーん。僕なんか悪いことしたかなぁ?


 呑気にそんなことを考えている間にも、ノエルナの靴更に激しく不規則な動きで空中を旋回する。

 

 そろそろ止めたほうがいいんだろうけど…あれ…どうやって止めればいいんだっけ?

 【多動遊戯】(ハイパーモーション)は僕でも制御不能だが、上手くいけば相手を翻弄することができる。

  バカみたいなスキルだが、使えないほどのゴミというわけではない。

 応用次第では、意外と戦えるかもしれない――そんな希望を胸に抱きつつ、僕があれこれ思考を巡らせていたそのとき。


 バチィン!!


 鈍い衝撃と共に、僕の頬に鮮烈な痛みが走った。

 なんだ!?と反射的に振り返るよりも早く、口の中に広がるのは鉄臭い味。――血の味だ。


 「あの女子生徒!逆さになりながらも強烈な一撃をお見舞いしたぞ!?」

 「お……オーバーヘッドキックだ!?起死回生の一撃じゃないかぁぁぁぁ!?!?」


 周りの生徒がざわめく中、僕は頬を押えて呆然としていた。


 ……そうだった。【多動遊戯】(ハイパーモーション)って、制御不能なうえに僕自身に突撃してくるんだったな……。

 期待した僕がバカだった。救いようのないゴミスキルじゃねぇか。

 

 僕がそんなことを考えていると、【多動遊戯】(ハイパーモーション)によって暴れているノエルナの靴が勢いよく迫ってきた。

 

 予想外の速度とこの距離…。予測不能で不規則な動きと相まって意表を突かれた僕は、避けられないものだと判断した。


 やっべこれ死んだわ。

 

 くだらない走馬灯が次々と脳内によぎったかと思いきや、僕の顔面にノエルナの靴がめり込んだ。

 

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