シャルロットの魔法練習 ロラン視点
ロランがシャルロットの家に行くと、今日も今日とてシャルロットは魔法練習をしていた。
先日、なぜ魔法練習を早くするのかという問いにはぐらかされたような気もするけど、それでも勉強のためのためと言っているのなら本当のことだろう。
噂ではシャルロット様はとんでもない娘で手がつけられないとのことだったが、会ったら全然違うのでロランは噂とは当てにならないものだと思っている。
ロランは魔法練習をしているシャルロットの近くに近づくと声を掛けた。
「今日も練習をしておいでなのですか?」
シャルロットがロランの姿を確認するとやや顔が引き攣る。ロランはそれをみてそういう癖のある人なのかなと思ってしまう。
どうやら今日のシャルロットは風魔法のウィンドの練習をしているようだった。
「どうにもうまくいきませんわ」
シャルロットが念じ、風魔法でどうやら木になっている果物を落とそうとしてるようだがうまくいかないらしい。
シャルロットの魔法は固くなりすぎなのだ。もう少し柔軟にすればうまくいくのだけれどもとロランは思うとシャルロットにいつもどおりに魔法を教えた。
魔法を教えるとシャルロットは真剣な顔で念じ、ウィンドを木に向かって放つ。真剣な顔も愛らしいとロランは思ってしまう。
ウィンドは木に当たり、果物を落とした。それをみたシャルロットは喜び、天使とも言える笑顔をロランに向ける。正直ロランにとってその笑顔は眩しすぎて直視に耐えがたいものがあった。
シャルロットの顔を見ているだけで、近くにいるだけで幸せで、そしてその笑顔を見ていると心臓が早鐘を打つのを止められない。
言うべきか、言わざるべきかロランは迷った。まだ自分たちは子供だ。そうしたプロポーズまがいのことを言うのはまだまだ早いのだろう。でもノロノロしていると他の人にシャルロットを取られそうで、ロランは焦ってシャルロットに言った。
「シャルロット様」
「なにかしら」
「シャルロット様は気になっている方などはおられるのでしょうか?」
そこで暫しの沈黙が訪れる。その沈黙に耐えがたくロランはゴクリと唾液を嚥下した。
暫くしてシャルロットの口から言葉が漏れた。
「気になっている殿方はいませんわ……」
それを聞いて心の中でほっとしたロラン。だからロランは意を決して言ってみた。
「それでしたら、私と許嫁になってはもらえませんわ」
その時のシャルロットの顔は生涯忘れられないだろう。寂しげで、どこか後悔の漂う顔をしていた。そんなシャルロットの口から言葉が漏れる。
「わたくし、誰とも許嫁になる気もありませんわ」
「どうしてですか?」
「……」
そのロランの問いかけにシャルロットは沈黙を守った。ロランは食い下がることにした。
「是非、私と許嫁になってはいただけませんか?」
ロランにとってシャルロットに振られるということは人生で初の失恋ということになる。ロランの言葉にシャルロットは乾いた笑みを浮かべこう言ってきた。
「わたくし、平和に生きたいのですわ」
「平和に生きたい……」
シャルロットの言っている意味がわからなくてロランは問い返すが、シャルロットはただ悲しげな表情を浮かべてそう言う。ロランはどうしてこんな表情をするのかわからなかった。
「そう平和に生きたいのですわ……」
「それならば私とでも」
「できないものでできないのですわ」
そう言うとシャルロットは泣きそうな表情をして屋敷の中に逃げるようにして走って行ってしまった。
「お嬢様!」
エマもシャルロットの後を追いかけるようにして屋敷の中へと入っていってしまった。
ここに残ったのはロランだけ。ロランは呆然と屋敷を見つめ、溜息を出した。
「どうしてだろう……」
ロランは人生初の失恋で肩をガックリと落とし、フラン家の敷地から外に出る。外に出るときにロランは誓う。あのような悲しい表情をさせるなにかを自分は必ず排除してシャルロットを幸せにするのだと。
そう思うと手で作った拳を握りしめロランは自分の屋敷に戻るために歩を進ませるのであった。