わたくし前世は技術者につき
エマがシャルロットの服を手早く着替えさせる。夜着からドレスへ、そして朝のブラッシングが始まる。エマはシャルロットの髪を丁寧にブラッシングしていく。痛くならないように恐れながら、前のシャルロットが如何にとんでもない性格だったのかここでもわかる。
「エマ」
「い、痛かったですかシャルロット様!」
「とんでもない気持ちがいいわ。ありがとう」
そのシャルロットの言葉にエマの指先がピクリと震え、再び目を丸くする。シャルロットは自分の思っていることを正直に口に出しているだけだがエマにとっては異常事態とも言えることだった。
とは言った物のお嬢様、頭の中は大丈夫ですかとは聞けない。今までの悪行が悪行だっただけにエマの胸中は複雑だろうとシャルロットは推測する。
気持ちのよいブラッシングの最中にシャルロットは少し考えてみる。自分の前世は技術者だ。各業種のプラントや工事現場などで活躍してきた。言うなればキャリアウーマンだった。ところが不慮の交通事故に遭い、こうしてゲームの世界に転生してきたわけだ。
なにか自分の知識を生かし、この断罪劇から脱却する方法はないものか考えてみたが、なかなか良い妙案は思いつかない。
逆にこう考えたらどうだろうかと思う。外でこの世界で出来る発明や作物なんかを育ててみたりして自由に人生を謳歌すれば、いい感じに断罪劇から遠のくことができるのではないかと。自分で言うのも何だが変な趣味なわけだし。自分に対する人の見方も当然変わるだろうと。
「それはそれで妙案かもしれませんわ」
「え?」
ブラッシングをしているエマの手が震えながら止まる。シャルロットはエマの手を触り別になんでもないのよと言葉を返すと、エマはほっとした表情を作った。
(とにもかくにも、ゲームのあの五人の攻略対象と関わらないようにしながら、この悪逆非道な性格のイメージをなんとかして変えないといけませんわ)
そう思うとシャルロットは力強く拳を作り、今後の生き方について更に考えていく。
◇◆◇
ブラッシングを終え、エマはシャルロットから一歩距離を取った。頭頂には可愛い紫のリボンが付けられている。
シャルロットはエマに近づき、近づくように促す。エマはなにか気に入らないことでもあったのかと思い、ビクリと体を震わせたのをシャルロットにはわかった。
「エマに頼みたいことがありますの」
なるべく柔和に穏やか物腰でシャルロットはエマに語りかける。エマはそれを聞くとシャルロットの顔を見る。
「な、なにをご所望でございますか?」
「ふふっ……」
そこでシャルロットは顔に微笑みを浮かべてエマに言うのだった。