子供に戻ったからこそ今後のことを考えていこう
自分は悪役令嬢だ。いやだったという方が正しい。ということはこのまま大人になればまた断罪されかねない可能性もあるということなのか。
「でもわたくし、悪役令嬢のシェルロットと違いますしそうにはならない可能性はあるのではなくて?」
暫くそう考えて、胸中になんとなく嫌な予感が走る。本当に性格が変わっただけで断罪劇から逃れることはできるのか、そんな一抹の不安が心の中を駆け抜ける。
「考えが甘いのかもしれせんわ。そう簡単に運命から逃れることは本当にできて?」
逃れられるのかしれない。でも逃れられないかもしれないという考えが頭の中でぐるぐると回る。いやここは逃れられないと考えて慎重に今後の生き方について考えなければならないとシェルロットは思った。
「しくじりは死を招く……」
それだけはなんとしても避けなければならない。そう思うとシェルロットは自分の頬を両手で軽く叩いた。
「今度こそわたくし、なんとしても断罪から逃れて見せますわ。そうなんとしても……」
正直言って怖い。どんなに頑張っても逃れられないかもしれない。でもこうしてやり直せるチャンスが来た。それならば抗ってやろうとシャルロットは思う。
「こんなに辛気くさい顔ではいけませんわ」
シャルロットは鏡の前で笑顔を作ったり清楚な表情を作ったりしていると、自室のドアがノックされる。その音に驚いたシャルロットは飛び上がる。
「ひゃん!」
「おはようございます。お嬢様、セバスチャンでございます」
執事のセバスチャンの声だ。学園にも一緒に来てくれてこの悪役令嬢のシャルロットのわがままをよく聞いてくれた。ということはセバスチャンの隣には侍女のエマも居るはずだ。
「入ってもよろしくてよ」
シャルロットがそう言うと静かにドアが開き、執事服の長身の男性とメイド服の女性が入室してくる。
(セバスチャンとエマもまだ若いわ)
彼らが入ってきてシャルロットが抱いた感想はそうだった。エマは二十代前半、セバスチャンは三十代後半である。
「おはようございます、シャルロット様。よくお眠りになられましたか?」
「おはようセバスチャン、エマ。あまりいい眠りではなかったですわ」
セバスチャンの言葉にシャルロットは当たり前の朝の挨拶を返す。しかしその言葉を聞いたセバスチャンとエマは目を丸くする。
そこでシャルロットはふと考える。そう言えばこの悪役令嬢のシャルロットは彼らを下に見てまともに朝の挨拶すらしない人間だったと。非常に子供の頃から生意気な少女だ。
「お、おはようございます。シャルロット様」
やや遅れてエマが気を取り直すようにして朝の挨拶をする。それからシャルロットの朝の準備がスタートした。