クライスラン家でのお茶会とピアノ披露
シャルロットはクライスラン家のお茶会に招待されていた。招待された理由は勿論先日のエルタの件だった。
「ありがとうね、うちのエルタを助けていただいて」
エルタの母親がそうシャルロットに言ってくる。シャルロットはカーテシーをした後にこう言葉を返した。
「私のしたことがエルタ様の心の支えになったのであれば光栄なことですわ」
「いや、できた娘さんですな、フラン侯爵」
「とんでもない、まだまだおてんばで困っているぐらいで」
大人達は早々に大人の会話に突入している。そんな中一人の少年がシャルロットに近づいてきて、華麗な動作で挨拶をしてくる。
「初めまして、僕の名前はダニエル・クライスランと申します。よろしくお願いします」
「私はシャルロット・ラ・フランと申しますわ」
「姉のエルタを助けて頂いてありがとうございます」
「とんでもない言葉でございますわ」
少し会話をしていくと、どうやらエルタとダニエルは双子のようだった。シャルロットはダニエルに聞いてみることにした。
「ダニエルさんは、将来どういう職業に就くつもりなんですの」
「僕は学者になりたいと思っています」
やはりここでも運命は変わらないようだ。ダニエルに頑張って下さいというとシャルロットはビュッフェを楽しみことにした。
どうやらこの家のビュッフェはロランの家と違い、野菜と肉がふんだんに使われているようだった。味も美味しい。
嫌なことを忘れてビュッフェを楽しんでいると一人の少年がシャルロットに近づいてくる。少年はシャルロットに声を掛けてくる。
「シャルロット様ですか」
シャルロットはビュッフェを取るの止めて少年の方に向き直る。
とても美しい少年だった。ブルーの髪に金色の瞳がとても魅力的だった。少年は華麗な挨拶をした後に名を名乗る。
「私の名前はヴィルヘルム・クラスラインと申します。この度は妹を助けて頂いて感謝の言葉しかありません」
「とんでもないお言葉ですわ。私は当然のことをしたまでですわ」
「いえ、なかなかできることではありませんよ。肩車までして助けて頂くなんて」
やはりエルタは木登りの件は黙っていてくれているようだった。シャルロットはエルタに深く感謝する。
ヴィルヘルムはシャルロットに聞いてきた。
「シャルロット様はピアノに興味はございますか?」
そうだったとシャルロットは思った。ヴィルヘルムは将来ピアニストになるのだったと。ここでもやはり運命はなにも変わっていない。
これはお礼の誘いかなにかだと聡いシャルロットは考えるとヴィルヘルムに言った。
「はい、ピアノは好きですわ」
「それならば私のお礼と考えてもらって一曲どうでしょう」
「よろこんで」
暫くヴィルヘルムに先導されるようにして邸内を歩きピアノのある部屋までたどり着いた。
ヴィルヘルムに座る席に案内され、シャルロットはヴィルヘルムの曲を聴くことにした。華麗な旋律が室内に流れる。時には優しく、時には激しく、時には心の中に平安をもたらすような旋律だった。
聞き惚れるとはまさにこのことだったのかもしれない。暫く聞いているとヴィルヘルムの曲が終わる。
シャルロットは拍手をすると、ヴィルヘルムは一礼をする。シャルロットはヴィルヘルムに聞いた。
「とても感激しました。曲はなんというのですか?」
「ヨハン・シュベルトの神よ共にあれです」
聞いたこともない作曲者であり曲であった。そんなことを考えているシャルロットにヴィルヘルムはこう聞いてきた。
「シャルロット様はピアノは?」
「少々」
この世界には一つのルールがある。それはピアノが自分が弾ける場合、お返しとして弾かなければ家の恥になるということだ。
「聴いてみたいですね。シャルロット様のピアノ」
「そんなに素晴らしいものではありませんかも」
「それでも」
そこまで聴くとシャルロットはピアノの方に向かってピアノを弾き始めた。前世でなんでもやれた方がいいと、母にピアノ教育をされてきたシャルロットはピアノの腕もそこそこいけた。
時は優しく、時にはゆっくりで、時には感激を誘うような音色だった。シャルロットは弾き終えるとヴィルヘルムが拍手をしてきたのでシャルロットはカーテシーをする。
ヴィルヘルムはシャルロットに訊いてくる。
「なんという曲なんですか」
「ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンの月光という曲です」
「訊いたことない作曲家と曲ですね」
「む、むかしに活躍したかもしれない作曲家ですわ」
「かもとは……」
地球では偉大な作曲家でもこの世界では無名だ。でもヴィルヘルムはその後に言葉を続けてきた。
「それでもとても素敵な曲でした」
「いえ、ヴィルヘルム様からみるとまだまだですわ」
二人で他愛のない会話をした後にお茶会の会場に戻ると少し遅れてやってきたエルタが挨拶をしてきた。不慣れなカーテシーだがそこがとても可愛かった。
「先日はありがとうございますシャルロットお姉様」
「いいえ、当たり前のことをしたまでですわ」
エルタとシャルロットは少し社交辞令の会話をした後にエルタが聞いてきた
「ところでお二人でなにをしておいででしたの?」
「ピアノをお互いに披露をしていた」
「エルタも聴きたかったですわ」
「エルタまた今度の機会にな」
そんな兄妹をみて心が和む。もしかして甘い考えかもしれないが自分が悪役令嬢にならなければそんな未来は来ないのではないかとう気持ちにさえなってくる。
そこでシャルロットは考え直す。いや油断をすると命取りになるかもしれないと。
「どうかしましたかシャルロット様」
「いいえ、ヴィルヘルム様なんでもありませんわ」
シャルロットはヴィルヘルムに何でもないように装うと、こう思った。
今はとにかくビュッフェを頼みしましょう。今後のことはまた後で考えることにして。
シャルロットはお茶会を楽しむことにするのだった。こうしてつつがなくお茶会は終わるのだった。
こうしてまたシャルロットはまた一つ運命の輪に足を入れるのだった。