少女の助け
今日の農業も一段落し、シャルロットはセバスチャンと共に散歩をしていた。
「今日もいい天気ね。セバスチャン」
「はい」
少し歩き疲れたところで、少し歩いた先に公園が見えてきた。
「あそこで少し休憩しましょう」
「畏まりました」
しばらく歩を進め、公園の中へシャルロット達は入っていく。公園の中に入ると、一人の少女の泣き声が聞こえてきた。
「なにかしら」
「なんでございましょうか?」
公園をぐるりと見渡すと木の下で一人の少女が泣いているのがわかった。少女は木の上を見上げ泣いている。
シャルロットは少女の下へ駆け寄ると声を掛けた。
「どうしたの?」
少女はしゃくりをあげて目からぽろぽろと涙を零している。
「お兄様からプレゼントしていただいた帽子が……ぐすり」
シャルロットは上を見上げると木の上の枝に帽子が引っかかっていた。恐らく風かなにかで飛ばされたのだろう。
シャルロットは少女の頭を撫でるとこう言った。
「大丈夫。帽子はなんとか取ってあげるから、泣かないで、ねえ」
「ぐすり……ありがとうございます……」
シャルロットはセバスチャンに頼むようにして言った。
「セバスチャン。肩車をしてくださらない」
「お嬢様がよろしければいくらでも」
シャルロットとセバスチャンは肩車をし、帽子を取ろうとするがなかなか手が届かない。そこでシャルロットとセバスチャンは肩車をやめて、シャルロットはしばらく真剣に考えた後にセバスチャンに言った。
「セバスチャン」
「はい、なんでございましょうか?」
「木登りをしてもいいかしら」
「そ、それは……」
「なんとかお願い。お父様達には黙っていて」
「お嬢様」
「お願い。セバスチャン!」
頼み込むシャルロットに折れたセバスチャンは首を縦に振った。
「これが最後にしてください」
「ありがとうセバスチャン!」
シャルロットは微笑みを浮かばせた後にセバスチャンにお礼を言うと、木登りを始める。
シャルロットはあっという間に木を登り、帽子を枝から取り、帽子を下にいるセバスチャンに渡す。そして木から下りようとしたが、スカートに枝の先端が絡まって降りられなくなってしまった。
「しまった……」
「お嬢様!」
焦るシャルロットとセバスチャン。セバスチャンは目を細め詠唱を始める。暫く詠唱をすると風魔法のウインドを木の枝にぶつけると木の枝が折れてシャルロットは自由の身になった。
シャルロットは木から下りてセバスチャンにお礼を言う。
「助かったわ、セバスチャン」
「今後、これっきりにしてくださいませ。心臓が止まるかと思いました」
「本当にごめんなさいセバスチャン」
セバスチャンにそう言った後に少女の方に向き直る。
「帽子は取れたわ」
「あ、ありがとうございますぐすり」
暫く少女を落ち着かせた後にシャルロットは自分の名前を言う。
「わたしくしはシャルロット・ラ・フランと言いますわ。あなたのお名前は?」
「ぐすり……、エルタ・クライスランと申します」
クライスランという名前を聞いた瞬間、シャルロットの気が遠くなる。クライスランと言えば自分を断罪しに来る、ヴィルヘルムとダニエルの名前だ。
関わりはロランだけでも十分だったのにまさかこんなことでまた関わりを持つとは思ってもいなかった。
だからシャルロットは少女に頼み込むようにして言った。
「今日のことは誰にも内緒にしてくださらないかしら」
そこで少女は困った表情のシャルロットを見て目を見開いた後に、こう言葉を返してきた。
「わたくし、嘘が下手なので隠せるかどうか……わかりません……」
「そこをなんとか。特に木登りをしたことも」
「できるかどうかわかりませんがなんとかお姉様を困らせないようにやってみますが、お兄様のヴィルヘルムは勘が鋭い方なので、隠し通せないかもしれません」
そこでシャルロットは肩をがっくりと落とし、やはり関わりになることになるのかと半分割りきった気持ちになってきた。
「もし、嘘がばれても、木登りをしたということだけは黙っておいてくださいまし」
「はい! 本当に今日はありがとうございました!」
そういうと少女は不慣れなカーテシーをした後に公園から出て行った。内心のドキドキを感じながらシャルロットもセバスチャンと共に公園から出て家に戻った。
その夜クライスラン家でエルタとヴィルヘルムが会話をしていた。どうにも妹の様子がおかしいのだ。不審に思ったヴィルヘルムはエルタに問いただす。
「今日はなにかあったかい。エルタ」
「え?」
やはりお兄様は勘が鋭いと思いつつ、エルタは隠し通せないということが瞬時に理解できた。なので木登りの部分は省略してなんとか説明をした。
(ごめんなさい、シャルロットお姉様やっぱり隠し通せませんでしたわ……)
「実は今日はシャルロット・ラ・フラン様に助けていただきまして……」
それからエルタは木登りの部分だけはなんとしても隠し通しながらヴィルヘルムに説明をするのであった。
それを聞いた後にヴィルヘルムは顎に手を置いて考える。
「お礼をしなければならないですね」
その足でヴィルヘルムは父の書斎に向かうのだった。こうしてまたシャルロットはまた一つ断罪する者の家と関わりを持つことになるのであった。