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2 不信の英雄

英雄ペルクレスに転生してしまったニートである主人公は、この世界について知ることとなる。

2 不信の英雄


俺は、親父の手により死亡し、いつのまにか異世界のペルクレス・デウスディアという英雄に転生していたことが発覚した。

正直、まだ英雄である自覚は無いし、これからどうしていけばいいかもハッキリと分かっていない。

そんな中、先程のユピテル王の命令通り、アン・ハヌマーンという赤毛の美女によって、人目のつかない個室に連れてこられた。

個室は、窓が無く狭いが、その分本や資料らしき紙束などがかなりあり、まるで押し入れのような素朴な場所だ。監視が通らない個室と言っていたから、このような場所になったのだろう……。

そして現在、そんな狭い個室でアンと2人きりでお互い向かい合っている状況だ。

こんな状況、エ〇ゲやエ〇同人なら最高のシュチュエーションだが、今の俺にはこの状況に興奮する余裕はない。

やはり女、特に可愛いやつに大して異様なほど拒否反応が出てしまうのだ。アンはこっちを悲しげな目で見つめてきているのがわかるが、俺はその目を見つめることは出来ず、先程からずっと下を向いて口を閉じている。喉も声を出そうとしても鍵のかかったドアのように、中々開かず、つっかえるような感覚を覚える。

「……ペルクレス…… ほんとに記憶が無くなっちゃったのよね?」

沈黙の気まづい空気が流れる中、甲高くもどこか悲壮感に溢れたアンの声が部屋に響いた。

いまさっきの怒涛の迫り来るような声がまるで嘘のようであり、正直驚いた。だが、あの迫り来る声の中にもどこか悲しげな雰囲気はあったため、悲しみに暮れている気持ちは以前変わりないのだろう。

「……そ……そうみたいです…………すいません、まだ俺もよくわかってなくて。」

暫く間が空いたあと、俺の弱々しい鰯のような情けない声が吃音気味になりながらも出た。

声帯自体は全然正常なはずだが、俺の拒否する心が、声帯を閉じてしまい、どうしても声が小さくなってしまう。

……きっとそこら辺の陰キャの方が大きな声を出すことが出来るだろう。最も、俺は陰キャよりもクズで情けなく、自分を持つことすらままならない陰キャ以下のニートだったため、ある意味必然なのかもしれない。

またもや沈黙が流れてしまった、と思った瞬間。

耳鳴りがするほどの耳を貫く声が部屋中に響いた。それはまるで口にスピーカーがついているのか、と錯覚してしまうほどだった。

「目をなんで逸らすのよ!!ペルクレスッいつも私の目をよく見て話してくれてたじゃないの!!」

一瞬、唐突な大きい声を聞いて、あの時、部屋に入り込んできた親父の怒鳴り声を思い出し、身を震わせた。そのため、やはり目を合わせることは出来ず、逆にその状態は悪化し完全にマネキンのようにフリーズ状態になってしまった。

……

人間というものは、なにか挑戦したり、行動しようとする時、そこに行き着くまでの思考の中で、自分自身が体験した過去の出来事から考えを編み出し、その考えにもとずいた行動をする。…

…いや、自分の意思で行動する、というよりは神に決められた法則のように、そうせざるおえないように出来ているのだ。

俺みたいなやつがまさにそのジンクスを体現している。

いじめられ、唯一信じていた女にすら裏切られ、最終的には親に憎まれながら殺される…………そんな過去が、今の目を合わせずに、ただただ硬直している状況を作り上げている。

人はどう足掻いても、過去のトラウマや出来事から逃げることは出来ないし、その過去を忘れることも許されない。まるで呪いのようで、きっとその呪いは呪術師でさえ、祓うことはできないほど、固く、強いものだろう。

そう俺の思考がただひたすら奈落に落ちていく中、

視界の片隅から、アンが拳を震わせながらだんだんと近づいてくるのが、顔を下に向けながらでも、うっすら見えてきた。

まさか、ここで俺がグダグダしてるからという理由で、殴られてしまうのだろうか。

その時、陽キャグループどもに殴られるリンチにあう、痛々しく苦しい感覚が、肌で感じられるほど鮮明に蘇ってきた。

「ヴっ…………」

……殴られてなんかいないはずなのにもかかわらず、腹を殴られた時のような悶絶する情けない声が閉じてる口からもれた。

……もし、ここでこのアンという女に殴られたのならば、俺の人間不信と女に対する恐怖は余計に増幅し、第2の人生を歩むには少し難しい状態になってしまうだろう。

……

その時、俯いていた俺の頭の両端は、アンによってガッシリと捕まれ、俺の抵抗する素振りをお構い無しと言った感じでなぎ払われてしまい、そのまま無理やり顔を正面に向けられてしまった。

顔が正面に向くと、同時にこちらを見つめるアンの目と目が合ってしまった。先程まで目を逸らしていたためあまりわからなかったが、アンの瞳は濁った色をしておらず、透き通った胡桃色をしていた。そのため、その綺麗な瞳につい、抵抗する気を失うほどに引き込まれてしまった。

「前のペルクレスはそんなんじゃなかったわッ!!

……前のペルクレスは……いつも勇気があって、強気で、でも笑顔で、とても優しかったわ!!

とってもかっこよかったのよ!!

今のペルクレスはどこかおかしいわよ!!」

そう、アンは、まるで幼児が言っているのかと思えるほどの単調な文を、部屋の外に漏れそうなほどの大きな声で俺にぶつけてきた。

…………だからなんだというのだろうか?と俺は思った。俺の転生する前の、本来のペルクレスことは俺はなにひとつとして知らない。

だが、みんなに慕われてて、その上、このアンという女がペルクレスをとてつもなく愛してたことはよくわかった。

……しかしそれを伝えられたところで俺になにをしてほしいのだろうか。まさか、そんな完璧な偉人のように漢らしくあれよ、とでもいいたいのだろうか?

そんな風に妙な怒りともいえぬ泥々とした気持ちが奥底から湧いてきた。

「…………だからどうしろっていうんですか……?」

俺はつい、反抗的な口調でアンに返事をしてしまった。

まずい、もしかすると今度こそ殴られてしまうかもしれない。そう俺が身構え、小動物のように怯えていると、その様子を見たアンは先程よりも小さな声でポツリと呟いた。

「…………はぁ……。ペルクレスがそんな情けなかったら……誰がみんなを引っ張っていくのよ……。」

その声は、先程の虚勢とも読み取れる張った声とは違い、まるで呟きサイトで呟く裏垢の如く、静かな心の叫びのようにきこえた。

………1度、改めて今の俺を客観視してみよう。

俺は、人族皆から慕われ、愛されている英雄であるペルクレスとは違い、誰からも慕われず、愛されもしないクズニートだ。

いや……まず周りが慕う以前に、自ら周りと関わらないように、思考をめぐらせ、行動し、発言し、ただひたすら"逃げ回っている"。

そして今、とある疑問が頭に浮かぶ。

……俺は、いつまで、周りの人を拒絶し、そうなるよう思考を巡らしているんだろうか?と。

この世界は、日本ではなく、この世界の俺は、クズニートではない。魔術が実在する全く異なる世界であり、俺は人族を導いてきた英雄なのだ。

ニートのままならばこのままでいいかもしれないが、今は英雄だ。英雄ならば、こんな、駄々こねるガキのようにウジウジとしていては、周りからも失望され、運命にすら失望されてしまうだろう。

……

ならば、さっき決意した覚悟を胸に、変わっていかなくてはならないんじゃあないだろうか。別に自分自身を押し殺し、一気に別人のようにならなくても良いのだ。

自分を出しながらも、コツコツ変わっていけばいい。

そして俺は決意の一環の動作として、自分自身の両頬を叩き、勇気をふりしぼりアンに声をかけた。

「アンさん、先程はすみませんでした。

……混乱していて弱気になっていたようです。」

そう、アンの目を見て言い放った。

やはり出てくるのは、英雄らしくない弱々しい声だが、決して人を拒否をするような情けない声ではなかった。

「いつもよりはまだ弱気だけど、いまさっきよりはマシになったわね……あと、敬語で話さなくていいし、私のことはアンと呼びなさい!」

アンは、やはりどこか俺に対する残念感を残しながらも、俺の中でなにかが変わったことを読み取ったらしく、先程よりは少しだけ嬉しそうだった。

「……じゃあいわれた通り、ある程度のことを簡単に教える……感じでいいわよね?」

「ぁあ、お願いしま…、お願いするよ…アン。」

少し、初対面の人に対して呼び捨てというのは抵抗感があったが、これもまた慣れだろう。

こうして、俺とアンの秘密の授業が始まったのであった…………と思ったが、その時、ちょうどいいタイミングで部屋のドアが空いた。

そのドアの先には、長身で緑の髪と褐色肌を持った美女おり、何故かこちらをニヤニヤしながら見つめてきていた。

「ダッキ!なんであんたがここにいるのよ……!」

どうやらこの美女はダッキというらしい。見た目を見るに年齢不詳の妖艶な美魔女と言った感じだが、別に人をハニートラップで騙すような詐欺の匂いは感じない。

よく見ると、軽装の鎧のようなものを来ているため、この聖王国の軍隊の隊員と言った感じだろうか?

にしては馴れ馴れしい気もする。

「いいじゃあないですのぉ……私もペルクレスに助けられた身なんですわよ?

2人だけでお話し合いなんて、ずるいですわ。」

そうすると、ダッキはアンを誑かすような返事を返した。見る分には面白いと感じるが、直接いわれる側は鼻につくようなセリフだろう。

その予想はやはりあたり、アンは顔を真っ赤になっており、キレる寸前であることが伺える。

だが、俺が会話においてけぼりになっている。とりあえず誰かをきかなくては。

「すまないが……どちら様で?」

そう質問するとダッキは、さっきの狐のような人を誑かす様子とは裏腹に、一瞬悲しそうな顔をした。

やはり、ペルクレスの親しい仲間だったのだろうか。

「噂通り……記憶……なくなってしまったんですのね……。……まぁ、、、、仕方ないですわ。」

そうするとダッキは目を力強く閉じ、目頭を抑えたあと、初対面のような様子で声をかけてきた。

これは、ダッキなりの切り替えのやり方なのだろう。

俺の場合は、両頬をたたいたがな。

「じゃあ、改めて自己紹介しますわ……。

私の名は、チョ・ダッキ。

見ての通り女で、出身は東人が住むあたりの東方地域で種族はムジャラですわ。

そして、ここポリマディア聖王国の軍隊であるガルガリン軍の中の、ザフキエル隊の隊長と、ガルガリン軍全体の軍長を兼任してますの。

…………どうぞ、よろしく………お願いしますわ。」

軍長……なるほどな、これほど俺とアンと親しげなのがよくわかる。

「あぁ……よろしく。」

ダッキは途中、悲しみをこらえるような動作をしながらも、俺に自己紹介をし、握手の手をさしのべてきたため、俺はそれに対し恐る恐る握手を返した。

(女子と触れることすら今までなかったからなぁ……)

先程まではふざけた様子だったが、やはり大切な人が記憶を無くしたとなれば、どんなヤツだとしても心苦しくなるものなのだろう。残念ながら俺にはまだ理解が難しいが、これから成長する中できっと理解出来るはずだ。

「……じゃあ、王様が言っていたとーり、色々教えましょうかね。」

「!!なんであんたが仕切ってんのよ!ユピテル王に命じられたのは私なのよ?!あんたは引っ込んどいてよ……!」

アンはどうやらダッキが嫌いらしい…………理由がきける空気でもないため、俺はただ苦笑いし眺めることしか出来ない。不甲斐ない、という気持ちが少しだけ残ってしまうが、仕方あるまい。

「いいじゃないですの………ペルクレスはどう思いますの?」

「え?」

唐突に、まるでエロゲのような選択ターンが始まった。

これはつまり、2人のどちらかを選べば、その分ムフフな展開が変わるみたいなタイプのシュミレーションゲームだろうか?ならばオラワクワクしてきたぞ!……と適当に考えていたが、別にそんな事じゃないだろう。

別に考えなくてもそんな事じゃないぐらいわかるが、心の片隅にいるニートの俺が「やっちゃえよぉ」囁いてくるため、なんとも厄介である。

「じゃあ……2人共に教えて欲しいな……と……思う。」

そう、滝のように冷や汗をかきながら返答すると、先程の激しい言い争いが嘘だったように静かになった。

「と、いうことらしいですわよ?アン。」

「…………仕方ないわね。」

アンは少し不満そうながらも、仕方なく承諾した。

申し訳ない気もするが、正直これが1番平和な選択だろう。人類皆平等ラブアンドピースと、前世の世界の神の子もそう言っていたからな、きっとそうに決まってる。

こうして、なんやかんやありながらも、美女二人と、童貞一人の、授業タイムが幕を開けた。


………あれから1週間、この個室と、王により特別に用意された、中々豪華な部屋を行き来しながら、アンとダッキの授業を受けた。一応、監視に英雄が復活したとバレぬよう、ダッキのムジャラ族に伝わる、「妖術」という、魔術とも呪術とも異なる特別な術で、目立たない姿を変えている。つまり、変装だな。

どうやらダッキのムジャラ族というのは、聖大陸から見た東の地域などに多く、よく妖などと呼ばれているらしい。つまりムジャラ族というのは俺たち日本人がとても愛してやまない妖怪だったということだ。だが、ムジャラ族でも、魔物としてのムジャラもいるため、混同してはならないとのことだった。

きっと、猿と人の違いぐらいに思えばいいだろう。

……話を戻し、授業で習ったことを整理しよう。

まずは簡単なこの世界の歴史ついてだ。

この世界の始まりは、何万年前かはわからないが、神話には、八百万の神々がこの世界を造り上げたとあり、その際に、神々が支配する善良な魂が死後向かうとされる天国、人族が支配する人界、魔族が支配する魔界、そして地獄と呼ばれる謎が多いが、悪の魂が死後に向かうとされる世界の、4つの世界ができた。

魔界での出来事はあまりわからないらしいが、人界では、しばらくすると、人々の住む村からそれぞれの大陸に国が出来上がり、その影響で様々な原因で戦争なんかもあったらしい。

まぁ、至極当然の流れだといえよう。だが、その戦争が起こっている戦国時代ともいえる時期に、突如として人界の山や森などに、人界にいるはずが無いエルフやドワーフやムジャラなどといった魔族や少数の魔物が現れた。原因はいまだに不明だが、ダッキの推測としては、おそらく、魔界と人界は、強力な結界のようなもので別れており、その中でも結界が緩かった場所があり、そこから魔族が迷い込んだのではないか、とのことだった。

そのせいで、魔族と人族との争いなども勃発し、その影響で魔族たちの多くは、人族が縄張りとしない、山などに住処を移した。だが、その山の中でさえ、魔族の民族間の縄張り争いが起こり、暫くは争いが耐えない時代が続いた。

だがその後、長きに渡った争いの時代は終わり、魔族や人族、どちらとも争いのない平和な時代が幕を開けた。ここまでで約数千年がたっている。

しかし、そんな平和な時代に、聖大陸からみて、海をこした東方向にある、現在の魔大陸の大陸にある、大きな火山であるベルグリ山から突如、魔界から軍隊を連れて人界に侵略にやってきた魔王三体が現れた。

魔王は、諸説あるが、おそらく天国に住まう神が堕落した存在らしく、そんな神のようなヤツら三体が一気に魔族の群生を連れて人界にやってきてしまったせいで、魔界と人界の境界線は崩壊し、大量の魔物や魔族が人界に大量発生してしまい、ベルグリ山一帯の大陸は大量の魔力により汚染され、魔大陸などの無法の地となった。

こうして魔王が人界に侵略する戦争、すなわち

「魔侵戦争」が約15年前にスタートした。

人族はそんな急な異常事態に対処することが出来ず、ただひたすら虐殺され、侵略されていってしまっていた。

なにせ人族は、軍事力はある程度もっていたものの、基本その他の術に関しては呪いを使う呪術を得意としていたが、魔族は人族以上の軍事力を持っていた上に、無詠唱で魔術を使うことが可能だったのだ。

単純な争いにおいては魔術のほうが圧倒的に有利であったため、気がつくと、数年で全大陸の半分を魔王軍により支配されていた。

侵略された土地あった人族国家は魔族により支配されてしまい、現在は魔大陸の北の極寒のエリバガル大陸にある大国カブディス国はセイレン族が、南の灼熱のスルト大陸にある大国カークス国にはアスラ族が支配している。

その時、古来から人界にいた魔族も人族側として戦争に参戦したが、残念ながら人族同様劣勢に終わった。

そんな風に人族が危機に瀕する中、神の救済の手がさしのべられた。

なんと、神と対話ができる預言者を通し、この下界に、半神である神の子。すなわちこの俺、ペルクレス・デウスディアが人族を救いにやってきたのだ。

ただ一人仲間が増えただけでなんだというのだ、と思うかもしれないが、それはちょっと違う。

ペルクレスは、魔族にしか使えなかった魔術を、人族にも使えるよう、呪文を詠唱し使う魔術として広め、軍事技術の技術力の向上を計ったのだ。

元々、呪文に関しては言霊を利用するものであるため、呪術のほうが発展しており、ペルクレスはそれを利用し魔術の呪文を教えることで、人族でも魔術が使えるようにした、ということらしい。

また、魔王軍と対決する際に、人族を導くリーダーとして計画や実際に実戦に参加したりもしたのだ。

このようにして、ただ侵略されるばかりの状況から一転し、なんとか現状、全ての大陸を支配されずに済んだ。

こうして人族と魔族の戦争はおわり、平和に暮らしましたとさ………といったような、甘い結末には残念ながらならない。

約5年前、魔王軍が魔王三体をつれて、上下の大陸の連なる山脈の中央を抜けるように、聖王国に直接向かってきたのだ。これはおそらく魔王が戦争を終わらせに来ていると踏んだペルクレスは、人族全ての勢力を合わせ、魔王軍との全面戦争に持ちかけた。

そうして大陸のほぼ中央で魔王軍と人族の軍隊がぶつかり合っていると、やはりどうしても人族が劣勢となってしまい、その場で戦っている多くの者は、撤退をすると考えていた。

だが、ペルクレスは違った。

「この場で、戦争を終わらせなくては、このままかならず人族が完全に支配されてしまうだろう。」

そう発言し硬い決意表明をすると、1人で魔王三体がいるところへ、まるで特攻兵のように突撃してしまったのだ。

この時、敵味方関係なく、周りの全員皆が、ペルクレスが血迷った。そう考えただろう。

だが、その途端。ペルクレスは、己に秘める生命エネルギー……つまりマナを全てを魔力に変換し、魔王立ちを地獄へと転移させてしまったのだ。

その影響により、魔王以外のその場にいた者は、聖大陸や魔大陸に転移してしまったが、奇跡的に人族は聖大陸、魔王軍は魔大陸へと転移することに成功した。

また、大陸の中央に転移魔術の影響によって、巨大な中央の海であるタルタラス海洋ができ、東西南北に独立するようにあった4つの海がタルタラス海洋と連なったため、上から見ると十字架のような形に変貌した。

魔王が封印されハッピーエンドかと思われたが、残念ながらマナを完全に使い切ったペルクレスは、聖王国で力尽き、城の中で仲間に見守られながら息を引き取った。それと同時に、10年にも及ぶ魔侵戦争は終戦した。

その数ヶ月後、魔王の残党である魔王幹部が、人族や魔族の王を、西の聖大陸、東の魔大陸のちょうど間の南あたりにあるオグル族(鬼族)の島である鬼ヶ島に集め、戦後の人族と魔族の関係を決める第一次人魔会議を開いた。

そこでは、魔王の残党が支配している、アルゴニア魔王国と、人族最大の国家であるポリマディア聖王国を中心とし、人族と魔族の平等条約である、

「人魔平等条約」が結ばれた。

だが、この条約。平等と称した、魔族側に有利な不平等条約であり、人族はこの条約により、現在かなり切羽詰まっているらしい。

条約の簡単な内容としては、

(1)魔族(魔王側魔族)の領事裁判権を認めること。

(2)関税自主権は、人族国家にはないこと。

(3)片務的な最恵国待遇を認めていること。

( 4 ) 人族国家は、常時魔王軍の監視下におかれること。

などで、明らかに魔族が有利となるものであった。

しかし、そんな中、預言者が神であるアルファルドにこんな予言を受け取った。

「今から5年後、神の子は復活し、この世界に和平なる王国を築くだろう。」

つまり、5年後にペルクレスが復活する、といった内容だった。

その時は奇跡的に既にペルクレスを崇拝する英雄教という新興宗教の信者たちが、魔術を駆使し、ペルクレスの死体を綺麗に保ち、教会に祭り上げていたため、死体を埋葬せず、その予言を信じ、ずっと復活を待ち望んでいたらしい。

………そうして現在。その皆が待望していたペルクレスの復活が起こったというわけだ。

あんなに騒いでいたのも頷ける。

…………だが俺が予想していたとおり、というかその予想以上にかなり暗黒期だったようだ。


また、歴史以外にも大陸のことも学んだ。

まず、戦後の大陸の様子としては中央のタルタラス海洋を中心とし、タルタラス海洋の西にある大陸が聖大陸。北西の大陸がニフル大陸、南西がムスペル大陸。

東には魔大陸があり、北東にはエリバガル大陸があり、南東にはスルト大陸があると言った感じだ。

また、大陸ではないがタルタラス海洋の南の海には、2つの港湾都市を挟むように巨大な島である鬼ヶ島がある。

魔王軍の魔族が支配している東方面の大陸は、魔力の影響により異常気象になっており、スルト大陸は体がとけるように暑く、エリバガル大陸は体が固まるほど寒い、とのことだ。

…………ほかにも教えてもらったことは山ほどあるが、今回はとりあえずこんなところだ。

歴史を見るに、やはり俺が人族のため、なにかをしなくてはならない運命にあるらしい。

だが、そのやるべき時がくるまでは、俺は真剣に勉学に取り組みたいと思った。

きっと知識はどこかで役に立つからな…………。


こうして俺はダッキとアンの授業により、この世界のことを少し知ることが出来た。

戦争後の条約の内容などについては、実際の現実の歴史などを参考にしました。

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