眠りと目覚め
『そこの人危ない!!』
誰に言っているのだろうか。
仕事に忙殺された私はその声の行先が私だということに気づいていなかった。
私はただの企業に務めている。
適度に頑張ろう。と思い入った会社はブラックだった。今となっては ただの企業 でしかないが。
誰に話しているのかももう分からない。ただ誰かが聞いてくれているような気がして。多分そんなことは無い。
キキーッ!!
え っ ?
バッと振り向くとそこにはトラックが。
瞬きをする間に体が吹っ飛んだ。
『そこの人危ない!!』って私のことだったの?
どうせなら転生したい。仕事なんてしなくてもなんとか生きていけるようなサバイバル。
自然の恵みを感じてみたい。
仕事ばかりだった私には馴染みがなかった。
強さとかは欲しいな、なんて思うのは傲慢だろうか。
熱い。熱い熱い熱い……声は出なかった。走馬灯のように駆け巡る思い出。
小さい時は鮮やかな思い出しか無かった。今となっては同じようなことしかしてないから走馬灯にも出てこない。今から得られない物の為に生きようと必死になるのは御免だ。
「だからって 怖いわけないんだけどな……」
悲鳴は聞こえる。死ぬ直前まで耳は聞こえるって本当だったんだ。
目も見えない、叫べない。先程まで感じていた熱さはいつのまにやら寒さに変わった。
そこから視界が暗転し、私は民家に居た。
と、まあ振り返ってみた訳だが。何度見ても「死ぬ前と変わらないような部屋だな…」
と思う。あまり驚いていない。転生するって直前まで思っていたからかな。寧ろ心做しか落ち着いている。
恐らく村人的な立ち位置。なぜなら……
『勇者様ーっ!!』
という可愛らしい女の子達の声が聞こえるから。
もし私が主人公なら私はこんな民家に居ないはず。
どうでもいい。スローライフがしたい。
まあ今はいいんだ。服探そ。パジャマ姿でうろつくとか以ての外だしね。
この服かわいい。
そう思った私はその服に着替えて鏡を見てみる。
「私の顔面神がかってる。」
藍色の髪に小さな黄色が沢山散りばめられてる感じ。……いうなら星空?
目も似たようなもんだ。
見た目が変わるってのはいいね。第二の人生って感じがする。
「やっぱ魔法。魔法だよな。」
手を掲げて『メラ!!』なんて言ってみたりもする。出来るんだなこれが!!やった…
って、親は?私の親は?
家中探索したが居ない。
「まあいいか。どうせ目的はスローライフだから。」
魔法の範囲の鑑定とか、武器とかはどうでもいい。何も持たずに旅に出るのはアリだ。
一新して名前も変えてみようかな。
この街の声に耳を傾ける。
『カイルくん!』
『何?』
『な、なんでもない!』
なんて可愛らしい……?会話が聞こえてくる。
ふむ。カイルとかカタカナが多いのね。
アリシアなんてどうだろう。よく聞くカワイイ名前だ。
さ、外に出ようかな。
外に出てすぐ目に入ったのは女の子たちに囲まれた勇者の姿。おお、定番。
いいと思うよ。私は。
出来るだけ無視しつつ森から外に出ようとする。
『お嬢さん名前は?何ランク?』
「アリシアです。ランクはありません。」
『じゃあこっちは通せないな。反対側から出るといい。』
「なんでですか?」
『こっちの道は魔物が出るからだよ。強いからね。』
「教えていただきありがとうございます。」
人が怪我でもするような場所なのだろうか。
出来れば怪我はしたくないからね。
言われた通りの道に進んでも特に目に入るものは無い。
勇者があとから歩いてきた。
うわあ、ヤダな。
…そういえばステータスとかってあるのかな
と思った途端に目の前に自分のステータスが出る。
アリシア・????
スキル 幻想の楽園 このスキルを持つ限り想像した事が必ず実現する。本人の想像力にかかっており、ダメージが聞かない相手に攻撃をする…などの技を不得意とすることが多い。
えっ??もしかして︰最強
ってことは……宙をあんな風に飛べたら……
「うおっ!?」
嘘でしょ…文章通り本当に想像力にかかってる感じか。
「って、嘘でしょ!?」
木に激突する!
転生してすぐ死ぬのは勘弁して欲しいなって思います!神さま仏さま……
木を足で跳ね返すイメージで…
「ほっ」
行けた。…あー。勇者が後ろにいるの普通に忘れてたんですけど。開いた口が塞がらないって感じの顔してるけど顎外れてない?大丈夫か?
こういう時は逃げるに限る。さっ、逃げちゃお。
よくあるよね。こういうアニメ。
転生したら天才でした〜…みたいな感じの。
私が想像してたのはまったりスローライフ。殺伐としたくない。とは言っても。目の前にケルベロスちゃんがいるんだよな。こんな状況でも出るんだよ。ケルベロス的なのって。
急所どこだろう。そもそもどうやって倒す?逃げる?
こういう時ってイメージすら出来ないもんなんだね。
「ケルベロスに勝つなら剣でしょ。」
いや、最悪勝たなくてもいいんだけどやるなら最後までやりたい。
体の動きをイメージして行動に移す。
スキルのおかげでサポートがかかって動きやすい。
ラノベとかアニメのイメージで頭を切り落とす。現実であるイメージが湧いていなかったからか怖気付かなかった。
正直な所乗り気だったけれど、今振り返ってケルベロスを見るとグロい。2つ頭がある時点で吐き気を催すが、今回ばっかりはそれに血というブーストがかかって目眩がしてきた。
まず生きていく上でこういうの慣れないとな。
多分慣れるまで数ヶ月かかるかもしれないけれど、数ヶ月かかると実感湧きすぎてダメになる気もする。
いい感じに頑張ろう。




