-8-「逃げるな!戦え!!」
俺がカップ麺を食べ終わった頃、厨房の奥からドタバタと足音が近づいて来た。
「「どうやって作るんだ。教えてくれ」」
おっさんとおばさんが2人して、俺に詰め寄って来る。
カップ麺の作り方なんて知らないよ!
ラーメンの作り方なら・・・いや、俺が知ってる麺はタマゴ麺だ。異世界で卵を見た事が無い。有ったとしても貴重品だろう。
かん水も手に入るかわからない。パンが有るから小麦粉はあるだろう。麺が作れても、うどんっぽい麺になるな。
スープは・・・オークを使えば豚骨っぽく出来るだろう。味付けに、俺が持って来た醤油を使えばなんとか誤魔化せるか?
「今食べた物は貴重な食材が大量に使われているから、同じ物は作れない。似たような物なら教えられるが、それでも良いか?」
「ああ。それで良い。教えてくれ」
俺はポーチから2リットルの醤油を出した。勿論ポーチに入る大きさではない。実際には時空間魔法から出したのだが、おっさんもおばさんも特に驚いてない。
異世界には何でも入る袋が有るのだろうか?調子に乗った俺は、ポーチからオーク1匹も出してみた。今度は流石に驚いたようだ。
「あんた、こんな所にオークなんか出してどうすんだい」
どうやらポーチから出した事に驚いたのではなく、食堂の中に出されて邪魔だと思っただけのようだ。
「これが材料だ。その黒い液体、醤油とオークはあげるよ。あとは小麦粉と塩が必要だ」
「ああ。両方ともある。だが、ショーユ?は貴重なんだろう?それに1匹分のオークは結構な値段だぞ。良いのか?」
「この宿には世話になってるし、それに俺も食べてみたいからな」
いつもは気難しそうな顔をしているおばさんの表情がパーっと華やかになった。現金なものだ・・・
それから数時間・・・外が暗くなり始めた頃、それらしい物が出来た。
豚骨醤油味のうどん、トッピングはオーク肉を薄切りにして焼いた物だ。
試食してみる。
正直、日本でなら300円も払いたくない完成度だ。
「まぁまぁ、だな」
「そうかい。じゃあ銅貨8枚だよ」
え!俺からも金を取るのかよ!
外が明るくなり始めた頃、目が覚めた。
正門に行く準備をして1階の食堂に降りた。
「朝食のパンだよ。急いで行きな」
おばさんが、焼いた肉をパンで挟んだサンドイッチだか、ホットドッグだか良くわからないパンを渡してくれた。
「ありがとう、おばさん。行って来る」
集合は朝と言われたが、朝って日の出の事なのか?異世界の常識はわからないが、正門へ走った。
結構な人数が集まっていたが、出発はまだのようだ。
俺はおばさんから貰ったパンを食べながら待つ事にした。半分ほど食べた所で馬車がやってきた。
「ドラゴン討伐で集まった奴は乗れ。遅れた奴は置いて行く」
総勢30人ほどが4台の馬車に分乗して出発した。
馬車の乗り心地はとても悪い。スプリングなどが全くないようだ。
オマケに隣に座ってるおっさんは臭い。色んな意味で勘弁してほしい。
俺の尻が4つに割れる寸前で、馬車が止まった。
「飯だ!降りろ!」
ここで昼食のようだが、配られているのは固いパンだ。
俺はコッソリと1人離れて座り、光魔法で尻を癒した。
歯が折れそうなパンは食べたくないので、時空間魔法からチョコメロンパンを出して食べた。
大きさは違うけど、見た目が似ているからバレないかな・・・
缶コーヒーを飲みながらパンを食べ終わると、画面に矢印が表示された。
「オークだ!20体以上いるぞ!!」
誰からともなく声がかかった。
だらしないおっさん達だが、ドラゴン討伐に参加する手練れが30人だ。俺の出番は無かった。
「乗せる場所が無いから、良い部分だけ取れよ」
「わかってる。空のタルを持って来てくれ」
即席のチームのハズだが、それぞれ役割分担が出来て良いチームワークだ。
異世界では魔石の価値が無いようなので、誰も魔石を回収していない。俺はコッソリ魔石だけ回収したが、誰にも何も言われなかった。良いチームワークだ。
「出発するぞ!」
ギルドマスターからの号令がかかった。
日が沈む頃まで移動して、野営となった。
3カ所で火が焚かれ、オーク肉が焼かれて配られた。
みんな、固いパンは食べずにオーク肉だけを食べている。
俺は馬車の影でコッソリと幕の内弁当を食べた。ペットボトルの緑茶も旨い。
肉を食べ終わると、焚火の周りで寝転がって寝はじめた。
俺も焚火の近くに移動して横なろうとした時、画面に矢印が表示された。だが矢印の方向が上空を向いている。
矢印の先を見上げると、月明かりの中ドラゴンのような影が向かってくる。
「起きろ!ドラゴンだ!!」
俺は大声で叫んだ。
ドラゴンは野営地に最接近すると大きく羽ばたき、焚火を消して闇に紛れた。
どんなに隠れても、俺には矢印がある。
矢印の先を凝視すると、木々の間からドラゴンがこちらを覗き込んでいた。
ドラゴンの唸り声が聞こえる度に冒険者は恐怖し、1人、また1人と逃げ出した。
「逃げるな!戦え!!」
ギルドマスターは自分を鼓舞するように叫び、雷魔法をドラゴンに放った。
雷魔法が2回着弾したところで、ドラゴンが動き始めた。
姿を現したドラゴンを、俺は鑑定した。
【ドラゴン】
最強の生物
物理耐性
魔法耐性
ヤバい。マジで最強だ。
ギルドマスターは何度も雷魔法を放っているが、足止め程度の効果しかない。
だが感電はしているようで動きは鈍ってるように見える。
魔法で作った電気はある程度効果があるのか?
物理でも魔法でも無い攻撃なら防ぎ様が無いって事か?
俺はドラゴンの真横まで走って移動した。
光魔法で作った高出力レーザー光を火魔法の温度差で屈折を繰り返して増幅させ雷魔法の電磁力で収束させて発射すれば…。
頭で思いつくと同時にビームが発射された。
ビームはドラゴンの胴体を斬り裂きながら貫通し、遥か上空まで伸びている。
出来るだけ深手を負わせるようにビームを移動させるが、発射から5秒くらいで視界が暗くなり、俺は意識を手放した。
ドラゴンは内臓を焼かれ、背骨を絶たれて崩れるように倒れた。
逃げまどっていた冒険者は一斉に歓喜した。
「どうなった?誰が倒したんだ」
「今のは魔法だったのか?誰の魔法だ」
「あそこに倒れてる奴の魔法だ。俺は見てたぞ」
「戦えと言ったのは俺だが、やり過ぎだぞ新人」
そんなギルドマスターの声は俺には届かなかった・・・
この物語はフィクションです。
実在の人物・団体・地名とは一切関係が無いとは限りません。