-7-「良い匂いがするね。
今日は朝から異世界に来ている。
実は転移するのに少しだけ迷いがあった。前回地球に戻った時、殆ど時間が経過していなかったからだ。
異世界での1日が地球での数分になるなら・・・。あれから既に3日が経過している。異世界ではどれだけの時間が経過してるか想像出来なかった。
転移した先は、前回地球に帰る直前まで居た場所だった。街の外で森の近くだ。周りを見渡すが特に変わった様子はない。
正門で木札を見せると、すんなり入れた。まだ、この木札は有効のようだ。
最初に宿屋に行く事にした。あのおばさんはまだ生きてるだろうか・・・
「あら。今戻って来たのかい」
宿屋のおばさんだ。年を取った感じもない。世代交代していて、本当は娘だった!というオチでも無さそうだ。
「どのくらい、来てませんでしたか?」
「3日前の朝にギルドに行ったきりだよ。部屋はそのままだから、その分の金を返せって言ってもダメだよ」
地球での3日は、異世界でも3日なのか。時間の流れに不均衡がある・・・どういう原理だ?
異世界に来れる事がオカシイのだ。原理なんか考えても意味は無いか。
とにかく、浦島太郎になら無くて良かった。
「そんなケチくさい事は言いませんよ。俺が居ない間に変わった事は有りましたか」
「何も無いよ。そういう事はここじゃなく、ギルドで聞きな」
そりゃそうだ。俺は宿をあとにした。
ギルドで討伐依頼書を見ているが、残っているのはゴブリンとオーク、ドラゴンだけだ。
朝一で、割の良い依頼は無くなるのだろう。
オーク討伐の依頼書を剥がしてカウンターに持って行った。
「おぉ。久しぶりに来たか。これがギルド証だ。無くすなよ」
そう言って渡されたのは金属のプレートだった。街の名前と番号だけが彫ってある。
名前などは書いてない。番号で個人を特定する仕組みのようだ。
「この依頼は受けれますか?」
「ああ。問題ない。受けれるぜ」
ギルド証を渡すと、依頼書にサインをして俺のギルド証の番号と依頼書の番号を書き写した。
「この依頼は10日以内にオークを10匹だ。右耳を持って来い。期日までに戻らないと失敗になるから気を付けろ」
依頼書には、討伐する場所も書かれていた。
俺が転移して来た場所から、更に森に入った所のようだ。
森に入ると、画面に矢印が表示された。
茂みに隠れて近づくと、オークが3匹見えた。
ブヒブヒ良いながら、何かを喰ってる。
【オーク】
防御力が高い
力は凄く強い
見た目通りの鑑定で、少しガッカリだ。
この場所から隠れて雷魔法を使った方が安全だが、闇黒刀でオークの能力を奪いたい。
隠れて近づいて行き、走って一気に距離を詰める。
俺の気配に気づいて立ち上がったが、遅い。
振り向く前に、2匹の首を斬り落とした。残りの1匹が俺に振り向いた所を、腹を斬り裂いてやった。
3匹のオークはそのまま崩れるように倒れた。
討伐部位の右耳を切り取る。魔石を取るのに、胸を切り開く。
ゴブリンでも行ったが全く慣れない。日本人にはキツイ作業だ。
オークの肉って、テレビで食べれると言ってたな。一応回収しておくか。
これ以上さばきたくないので、そのまま時空間魔法に収納した。
すぐに画面の矢印が反応した。オークが近付いて来てる。
血の臭いを嗅ぎつけたのだろう。5匹が駆け寄って来るのが見えた。
囲まれて背後を取られると厄介だ。先頭のオークに向かって走る。
足を斬って、文字通り足止めする。狙うのは首か足だ。次々と斬り捨てて4匹目の首を斬った時、5匹目が逃げ出した。
俺はその背中を追って走り、うしろから首をはねた。
だが、まだ矢印に反応がある。遠くから駆け寄って来るのが見えた。4匹追加のようだ。
同じように1匹、2匹と斬り捨てると残り2匹が別々の方向に逃げ出した。
俺は片方を追い、首をはねた。残る1匹は離れ過ぎたので雷魔法を放った。
感電したオークはフラつきながら倒れた。即死はしなかったようだ。
この程度の相手なら楽勝だ。地球のダンジョンで21層がオークと言ってたな。俺もそのくらいまでなら行けるって事か。
戦場が思ったよりも広くなった。1匹1匹右耳を切り取り、胸を開いて魔石を取っていく。
戦闘よりも、あとの作業の方が時間がかかる。冒険者がパーティーを組む理由がわかった気がするな。
まだ夕方前なのに、ギルドのカウンターには結構な人の数が並んでいた。
大きな荷物を持ってる人が多いから、数日かけて行った依頼を終えた人達なのだろう。
ようやく俺の順番になった。
「なんだ。もう帰ってきたのか。忘れ物か」
オークの右耳をカウンターに乗せた。
「12枚か。もう倒したのか・・・噂通りの新人って事か。明日、ドラゴン討伐があるから参加するか」
「ドラゴンか・・・強いのか?」
「当たり前だろ。既に20人以上の参加が決まってるし、ギルドマスターも行く」
「わかった。参加する」
「明日の朝、正門に集合だ」
俺は金を受け取ってギルドをあとにした。
宿屋に戻ったら開口一番「食堂はまだだよ!」と、おばさんに言われた。
まだとかじゃなくて、最初っから食堂のメシは期待してないよ。
「グラグラ煮だったお湯だけ欲しいんだけど、用意出来るかい?」
相場がわからないけど、銅貨2枚を渡した。
「・・・少し待ってな」
俺は時空間魔法からカップ麺と割り箸を出して、お湯を入れる準備をして待つ事にした。
おばさんが鍋を持って来たが、鍋から直接注ぐのは難しそうなのでカップ麺のフタを大きく開けて注いだ。
多少こぼれたが、仕方が無いだろう。
腕時計も携帯電話も止まっている。なんとなく3分が過ぎるのを待った。
フー、フー、フー、ズズズズズー。
たぶん気のせいだが、異世界で食べるカップ麺は旨い!
「良い匂いがするね。なんだい、それは?」
いつの間にか、おばさんが側に立っていた。
調味料などが小袋になってない、お湯だけ入れるタイプのカップ麺を透明シートを剥がして渡す事にした。
「形も味も違うけど、食べ方は同じだよ」
「くれるのかい。食べさせてもらうよ」
おばさんは興味津々な顔で厨房の奥に戻って行った。
この物語はフィクションです。
実在の人物・団体・地名とは一切関係が無いとは限りません。