-6-「そんなつもりはねーよ。
どうやらトップランカーの探索者でも、魔法を使っている者はいないようだ。
昨日、1時間パソコンで調べたが何の情報も集まらなかった。
スライムを倒した方法は内緒にした方が良さそうだ。だが、スライムの魔石を渡しちゃったからな・・・問い詰められたら何て説明しよう。
そんな事を考えながら、山道を運転する。
木々の間を抜け、田畑を過ぎると町が見えてきた。
俺が住んでいる限界集落の最寄の町、八木乃原町だ。ここまで1時間半。信号は3つしか無い道だ。
何も無いような田舎町に、3階建ての建物がポツンと建っているのが八木乃原ギルド支部だ。
無駄に広い駐車場はガランとしている。時計を見ると5時54分だった。
大きな町のギルドでは24時間営業の所もあるが、田舎は6時から18時の12時間営業だ。
時間外は入口が閉鎖される。出口だけ内側から開けられる仕組みだ。ただし、魔石の換金は出来ない。
八木乃原ギルド支部をメインに活動している探索者は150人くらいだと聞いた事があるが、平日のこんな時間から入る人は稀だろう。
入口に向かうと、カウンターで年配の男性が箒で掃除をしていた。
ギルドカードを取り出し、受付しようとした時、うしろから声をかけられた。
「あんた誰だ?見ない顔だな」
振返えると5人組のパーティーが俺を見てた。
「いつもは、獅子乃原ダンジョンに入ってる。今日はたまたまだ」
俺に声をかけてきたのは、高校生くらいの男で、5人の中で一番チャライ見た目をしていた。
「へー。こんな朝早くに、あんな田舎から来るなんて物好きだな」
・・・少年よ。ブーメランを知っているか。その言葉はお前にも当てはまるんだぞ。
「エイジ、よしなさいよ。朝一からトラブルは嫌よ」
「そんなつもりはねーよ。ただ話してただけだろ」
「そんなつもりじゃなくても、毎回トラブルになるでしょ」
こんな時間に、からまれるとは思わなかった。
だが異世界のギルドカウンターに比べたら、実に平和だ。
痴話喧嘩が始まりそうだったので、他のメンバーに軽く会釈してダンジョンに入った。
5人組が追い付いて来る前に、1層の奥へ移動した。
バチンッ バチンッ
目に付いたスライムを倒しながら、スライムが集まった場所を探す。
暫く探索をして、それらしい部屋を見つけた。
獅子乃原ダンジョンのスライム部屋よりも広い空間に、所狭しとスライムが大量にいる。
バチッバチッバチッバチッバチッバチッバチッバチッバチッバチッバチッバチッ
大量のスライムが一斉に弾け飛ぶ。全てのスライムが姿を消し、魔石だけが残った。
時空間魔法で魔石を全部収納した。売れないとわかっていても、残して置いたら問題が起きそうだ。
部屋が急に明るくなった。
見上げると白く輝く玉が浮いてる。玉がゆっくりと降りて来て、手の届く高さになったところを右手でさわった。
その瞬間、玉は消え、画面に”光魔法取得”と表示された。
「光魔法か・・・」
異世界のギルドマスターから光魔法の特徴は聞いている。汎用性が高い反面とても珍しい魔法だ。
傷を癒せて、アンデット系に強く、暗い場所を明るく照らす事が出来る。
ようするに、傷薬と懐中電灯を足したような魔法らしい。
ダンジョンに入った目的は達したが、手ぶらでダンジョンから出たら怪しまれるだろう。
2層に行って少し魔石を集まてから帰ろう。
あっ!誰かが近付いて来た。俺は思わず隠れてしまった。
「スライムが居ないぞ」
「見ないだけで隠れてんだろ。警戒しろ。踏んづけてからじゃ遅い」
入口で会った5人組とは違うようだ。
「スライムも居ないなら居ないで、今日は居ませんって言ってくれれば良いのにな」
「どんなスライムだよ。もっと真剣に探せ」
訳のわからない事を、ごちゃごちゃ言いながら2層へ向かって行った。
田舎のダンジョンでも、俺が普段入ってるダンジョンと違って探索者がいるんだよな。魔法の練習は帰ってからにしよう。
「あんた、もう帰るのかい。まだ9時過ぎだよ・・・え!?」
ギルドのカウンターで魔石を換金して帰ろうとしたら、職員に声をかけられた。
実際にゴブリンを狩っていた時間は1時間くらいだが、57個の魔石を集めた。
「・・・記録じゃ、朝一に入ってるね。3時間でこんなに集めたのかい」
おばさん職員との話を、奥にいる美人な女性職員も聞き耳を立てて聞いているようだ。
「まぁ、そんな所です。結構楽勝でしたよ」
「だったら、なんでゴブリンを相手にしてるんだい。ゴブリンが減ったら初心者が困るんだよ」
おばさん職員の言う通りだ。初心者でもゴブリンを毎日10匹倒すだけで食べて行ける。初心者育成の為に、経験者は3層以降で活動するのが暗黙のルールになっている。
俺が普段入っているダンジョンは、俺以外の探索者がいないから忘れていた。
「忘れてた。次からは気を付けるよ」
「忘れるって、あんた普段はドコのダンジョンに入ってんだい」
「獅子乃原ダンジョンです」
「・・・あぁ。ここに入る時は気を付けなよ」
流石、ギルドの職員だ。獅子乃原ダンジョンは、俺1人しか入ってない事を知ってるようだ。
本日、2つ目の目的は食料などの大量購入だ。
近くのスーパーマーケットで、手当たりしだい買いまくる。
異世界の食事は不味い。味覚の違いとか、我慢とかのレベルではない。パンに至っては歯が折れそうだ。
買い物カートの上下にカゴを乗せて、まずは弁当の大人買いだ。
陳列されている弁当コーナーが、ほぼ空になったが気にしない。
会計を済ませて車まで運ぶ。車の荷台に乗せると見せかけて、時空間魔法に収納した。
弁当コーナーが空になったので、次は総菜コーナーだ。
その後も、カップ麺やパン、調味料と大量に購入する。
ついでに、お菓子やアイスなどの嗜好品や風邪薬なども購入した。
もし、じっくりと俺の行動を観察していたなら気付くだろう。俺が買った量は、どう考えても車に積める量ではない。
今日1日で50万円以上使ってしまった。買い過ぎたようにも思えるが、時空間魔法に収納していれば腐らないので、無駄にはならないだろう。
この物語はフィクションです。
実在の人物・団体・地名とは一切関係が無いとは限りません。