-5-「これはロシア式修理法だよ
スライムは基本的には無害だ。攻撃しなければワザワザ襲って来ない。だが、移動中に踏んづけてしまい反撃を受ける事故は良くあるらしい。
スライムは物理攻撃が効かない。剣で攻撃したら、剣に捕り付いて溶かす。盾で防御したら、盾に捕り付いて溶かす。装備に捕り付かれたら、その装備を棄てて逃げるしかない。
動きが遅いので近づかなければ安全な魔物だが、倒せないのでイザという時は逃げる以外の選択肢がない。
俺は1層でスライムを探している。物理攻撃で倒せないなら、魔法なら倒せるかもしれないと思い付いた。
岩陰に隠れているスライムを見つけた。早速、弱めの火球を放った。
火球がスライムに命中し、その勢いでスライムは数m吹き飛んだ。だが、スライムは何事も無かったかのように原型を留めている。
「魔法でも倒せないのか?火魔法だと相性が悪いのか?」
吹き飛んだスライムに向かって、今度は弱めの雷魔法を放った。
バチンッ
雷がスライムに命中する。スライムは水風船が破裂するように崩れて消えた。
思いの外簡単に倒せた。破裂したスライムの体は消え、魔石が残った。
「これは、スライムの魔石か?」
ゴブリンなどの魔石は黒いが、スライムの魔石は水色で透き通っていた。
スライムを探し、少し離れた場所から雷魔法を放つ。何度も何度も繰り返す。雷魔法の練習には丁度良い。
まるで、サーチ・アンド・デストロイだ。魔石を拾うのが少し面倒なだけだ。
「ここは、凄い数だ・・・」
そこは20畳ほどの空間だった。大量のスライムがウジャウジャと這っている。
100匹以上居そうだ。1匹でも攻撃すると残りのスライムが一斉に襲って来そうだぞ。
俺は雷魔法のイメージを少し換えてみる事にした。イナズマが枝分かれして次々に感電していくイメージだ。
バチッバチッバチッバチッバチッバチッバチッバチッ
大量のスライムが一斉に消え、大量の魔石が残った。あっけない物だ。
だが、部屋中に散らばっている魔石を拾うのは一苦労だ。
俺はテーブルを収納した時の事を思い出し、目の前の魔石を一気に収納してみる。
「やれば出来るもんだな!」
大量に散乱していた魔石が一瞬で消えた。時空間魔法で作った渦の中に手を入れると大量の魔石にさわれる。成功だ!
「あれ! なんだ?」
部屋が急に明るくなった。光源は・・・真上だ。
白く輝く玉がゆっくりと落ちて来る。元々ダンジョン内は薄暗いので、近くで見ると結構眩しい。
地面にフワッと着地した玉を、指で突っついてみる。その瞬間、玉が消えた。
視界の左下の半透明な画面に”鑑定能力取得”と表示された。
「今の玉で取得したのか?玉が出る条件ってなんだ」
魔物の大量虐殺が条件なら、俺よりも多くを倒してる探索者はいるだろう。スライムを倒した量か?スライムだけが対象なら同じダンジョンで何回も取得出来るのだろうか。検証が必要だが、今はそれよりも鑑定を試そう!
【スライム】
あらゆる物を溶かす
物理攻撃無効
魔法耐性
弱点:感電
マジですか!スライムって最強じゃないの?
物理攻撃が無効で、魔法にも耐性がある。こんなヤバい魔物が1層にいて良いのか?
何処のダンジョンにもスライムはいる。今更考えても仕方がない。見なかった事にしよう。
50匹ほどゴブリンを闇黒刀で斬りすてた。
簡単にゴブリンを倒せるようになった。今まであんなに苦労して倒していたのが嘘のようだ。
2層に降りて、最初は火魔法でゴブリンを倒していたが魔力の残量が減っている事に気が付いた。スライム相手に魔法を使い過ぎたようだ。
それからは闇黒刀で倒している。10匹、20匹と倒す度に力もスピードも上がった気がする。
昨日までの俺なら50匹倒すのに8時間は必要だったが、今なら1時間で出来そうだ。闇黒刀の効果は絶大だ。
それに加えて、透明な画面にはゴブリンのいる方向が表示される。
スライムの時は矢印が出なかったから、敵意が無いと表示されないのだろう。
3層はコボルトだ。
数匹が協力して襲って来るが、素早いだけで連携は取れていない。
其々がヒットアンドアウェイを繰り返すだけだ。囲まれたら袋叩きにされる。
透明な画面で隠れていてもわかるので、奇襲される事も無い。背後を取られても矢印ですぐにわかる。
逆にコボルトの背後を取りながら闇黒刀で斬りすてる。
魔石はゴブリンの魔石よりも少し大きい。20個ほど拾った所で、コボルトよりも素早く動けるようになった。
目の前から向かって来るコボルトを横一線で斬り、そのまま回転して後方のコボルトの胴体を斬る。
早さしか取柄の無いコボルトだ。囲まれても問題なく倒せるようになった。
闇黒刀の能力のおかげで、結構強くなれた。しかし奪える能力には限界があるようだ。たぶん、弱い魔物を沢山倒しても意味が無いのだろう。
「おばさん、換金頼むよ」
「今日は、随分長いこと入ってたね」
ポーチから魔石をゴロゴロと出す。
「少しだけ頑張ったからね」
俺はダンジョンから出る前に、ゴブリンとコボルトの魔石だけをポーチに移し替えていた。流石に時空間魔法から直接出す訳には行かない。
「あんた、これコボルトの魔石かい。やっとコボルトを倒せるようになったのかい」
「そうだね・・・少しだけ頑張った」
おばさんは、魔石の種類や量をカウントする装置に次々と魔石を入れていく。
俺はスライムの魔石を1つだけポケットから出した。
「おばさん、この魔石も売れるかな」
「これって魔石なのかい」
おばさんが怪しむような目で、俺を見ている。
「えーと・・・スライムの魔石なんだ」
「何言ってるの・・・スライムを倒した人なんて居ないよ。聞いた事もない・・・ちょっと待ってな」
おばさんはスライムの魔石を持って行き、奥にある装置を起動させた。
旧式の装置なのだろう。おばさんが装置の側面をバンバン叩いている。
「おばさん、調べる前に叩いて壊すなよ」
「これはロシア式修理法だよ・・・ほら、動いた」
なんだよ、ロシア式って。ダンジョンが発生してからまだ5年だぞ。旧式でも製造から5年以内の装置が叩いて治るのか?
「あら!ほんと魔石だね・・・換金は出来ないけど預かっておくわ」
白い玉の検証にスライムを倒す必要はあるけど、換金できないなら魔石を集める意味は無いか。
「入金が終わったわよ」
俺は、入金されたギルドカードを受け取って帰った。
27万8千円か。今までの最高額だ。
この物語はフィクションです。
実在の人物・団体・地名とは一切関係が無いとは限りません。