-40-「・・・フンッ」
「・・・ルーン文字の付与技術を知りたいと言うのか。それなりの対価が必要じゃな」
「価値がある技術だと理解してる。出来るだけの対価は払う。何か必要な物はあるか」
「今、欲しい物は、……ブドウじゃ」
「ブドウ?ワインでも作るのか」
「そうじゃが。そういう意味ではない。長年の間育ててきたブドウが呪いにかかってしまったのじゃ」
病気でなく呪い?光魔法でどうにか出来るだろうか・・・
「畑に案内してくれ。どうにか出来るか、試してみよう」
「こっちだ、こっちだ」
案内されたブドウ畑は、葉が繁っており呪いと言う割には元気に見える。
だが、実が成熟する前に萎んで腐り落ちてる。
「見たらわかるじゃろう。木や葉は元気なのに、実だけが腐り落ちるのじゃ」
「ひどいな。葉も所々元気が無いのもあるが、実に至っては壊滅的だ」
鑑定結果は、晩腐病。たしか菌による感染で胞子で増える病気だったかな・・・
現状を見れば、実が稔らない呪い。に思えるかもな。
光魔法で治るかわかんないが、やるしかない。
俺は、畑全体に届くように光魔法を発動させた。
ブドウが次々に回復していく。だが、既に腐り落ちたブドウはどうする事も出来ない。
俺は畑の中心に、緑の魔石を埋めた。とんでも農園で使っている魔石だ。
それから、もう一度光魔法を発動させる。
ブドウの木に新しい葉が芽吹き始めた。新しい実を付けてドンドン成長してるぞ。魔力切れ寸前まで光魔法を発動させたかいもあり、みずみずしい果実に成長したブドウがたわわに実った。
「奇跡だ!ブドウの呪いが解けた。もう、こんなに実っておる」
1人のドワーフがブドウを1粒を食べた。
「糖度も酸味も申し分ない。最高品質のブドウじゃ。これなら最高のワインが作れるぞ」
「人手を集めるんじゃ!ブドウの収穫を始めるぞー」
俺が魔力切れで休んでいると、ドワーフ総出でブドウの収穫が始まった。酒蔵?では、樽などの用意も始めたようだ。収穫する者、運ぶ者、実を潰す物・・・子供も女性も老人も全員が手分けして作業してるな。
ただ・・・子供や女性も全員が毛むくじゃらで区別が付かないな。赤いリボンを付けるから、あの人は女性かな?付けてる場所が顎鬚だけど・・・
心の中にドワーフ観察日記を書いていると、後ろから声を掛けられた。
「あんたがルーン付与を知りたい変わり者か・・・」
「紹介しよう。この村で唯一のルーン付与を取得してるボトルザックじいさんだ」
「俺がじいさんなら、兄貴はクソジイサンだな」
「生意気な事言ってんじゃねえ。俺は村長のバレルザックだ。こいつの兄ですじゃ」
案内されたのは、鍛冶工房と言われている場所だ。
「俺は弟子を育てた事が無い。だから育てかも知らん!」
村で唯一、取得した人だって聞いたけど、なんで継承しないんだ?
「言葉では上手く説明出来ない。だから勝手に見て学べ!」
なんか、昔の職人気質だな。嫌いではない。
「それと、ドワーフ族が取得出来ないのだ。人間には期待してない」
弟子は取ろうとしたのか。今度詳しく聞いてみたいな。
「今からこの斧に、ルーン〈斬〉と〈強〉を付与するぞ。よく見てろ!」
足踏みで炉に空気を送る仕組みのようだ。踏む度に火力が上がっていく。真っ赤に熱せられた鉄の塊を炉から取り出した。
・・・なにかをブツブルと唱えてる。そのブツブツ言ってるのがルーン語なのか?唱えながら魔力と一緒に叩き付けてる。1打1打、ルーン文字が正確に打ち込まれるのが見えるぞ。
これがルーン付与・・・。
あ!
久し振りに”ルーン付与魔法取得”と表示された。
「おいおい!もう取得したのか!!お前は本当に人間か?今からでもドワーフ族になれ!」
いや、それは無理だろ。
「師匠、他にも学ぶ事はあるだろ?教えて欲しい」
「・・・俺はもう、ルーン付与は打てんじゃろう」
「どういう事ですか」
「気付いておらんのか。ドワーフ族は元々魔力量が少ない。俺は多い方だったが、年を取って年々魔力量が減り続けてる」
「でも、今は打てただろ。魔力欠乏で倒れてもいないし」
「・・・1年間溜めた魔力で1本しか打てんのじゃ。来年には1本打つ為の魔力量は、もう持て無くなってるじゃろうな」
俺が、最初で最後の弟子か。
「・・・師匠、この技術は必ず次の者に伝えます」
毛むくじゃらの師匠がニッコリ笑ってくれた……。
カン、カン、カン
「どうですか、師匠」
「ダメじゃな。お前には鍛冶の才能は無いようじゃ」
俺は師匠の元、鍛冶を学んでいた。自分で刀を打ってからルーン付与をしたいと思ったからだ。
だが、その刀が打てない。刀の他、斧も打ってみたがダメだった。
「どうしたら上手に出来ますか?」
「諦めろ!ルーン付与は1度で取得出来たんだ。鍛冶は5日も修行して才能の片鱗すら見えない」
どうやら、鍛冶はスキル取得出来る物ではないようだ。鍛冶は魔力とは関係ないから、なんとなくそんな気がしていたが・・・残念だ。
「誰かが作った剣に、俺がルーン付与するのが良いって事か」
「そうじゃな。他人が打った物には、それぞれクセがあるからな。特徴に合わせて付与する手順も教えてやる」
師匠との修業が終わり、7日振りにオーガの集落に戻って来た。
あ!麦畑が見えて来たぞ。
更に畑を広げたようで、麦を刈り取っている風景がいい感じだ。
オーガの代表の所へドワーフに会えた事を報告に行くと、水車小屋に案内された。
「もう出来上がったのか・・・」
「当然だ。パンの為なら全員が協力した。それに、こんな画期的な物は始めてだ」
その隣には立派な倉庫も建てあった。
だが、ネズミ返しが付いて無いようだぞ。
「ネズミの被害ってないのか・・・」
「ねずみ・・・?」
あれ!ここにはネズミが居ないのか?
「小さい動物で、食べ物を盗んで食べるんだ」
「ああ。そんなのが集落に近付いたら探知できるから大丈夫だ」
「探知?探知ってなんだ?」
そんなスキル、オーガは持ってないぞ!
「気合を、フンッと周りに出したらわかるだろ」
・・・言ってる意味がわからないんだけど。
「フンッってすると小さな生き物でも探知できるのか」
「1度見た生き物なら大抵はわかる」
「それをやって見せてくれ」
「・・・フンッ」
一瞬、弱いけど魔力を放出した?
あれ。前回来た時に傷を治すのもフンッって言ってたな。
オーガのフンッって魔力の事か?
俺も試してみよう。・・・フンッ!
お!反応してるぞ。
魔力を使ったアクティブソナーって感じか。これは使えそうだ。
この物語はフィクションです。
実在の人物・団体・地名とは一切関係が無いとは限りません。