-21-「誰を連れて行くんじゃ」
気が付くと病院だった。
俺は1日寝てたそうだ。その間、血液検査やCT検査など色々したらしい。
前回のドラゴン戦よりは回復が早い。魔力もだいぶ戻った感じがある。
部屋から誰もいなくなった時に、こっそり光魔法を使った。
魔力不足以外は、かすり傷1つ無い健康体に戻ってるハズだが、直ぐには退院の許可が出ないらしい。
暇なのでテレビをつけた。
「ご覧ください。魔物と自衛隊が戦っています。そして覚醒者が戦う姿が初めて撮影された動画です」
・・・あれ?ここに映ってるの、俺じゃないか?
「覚醒者とは、魔法に目覚めた者の相称のようです。この映像は偶然居合わせた観光客から提供された物です」
観光客?俺が着いた時に自衛隊に泣きついていた人がいたけど、あつらか?
「これは、どう考えても魔法ですね。ネットでは噂さててましたが、今回物的証拠が撮影された訳です」
「日本政府と日本ギルドは、魔法の存在を隠蔽してたのでしょうか?」
今の映像で俺だってバレるかな?村の人達にはバレそうだな。
あーあ。面倒臭い事になりそうだ。
入院してても報道陣が押し寄せて来そうだな。帰るか。
時空間魔法から着替えを出して帰る準備をしていると部屋の外が騒がしくなった。
ギルド職員が病室の前で立ち塞がっている。
「俺の行動を制限するなら、今後の鑑定に影響しますよ」
「・・・」
俺は病院から出たが、ここは何処の病院だ?
それよりも、どうやって帰ろう・・・
日本ギルドの中央会議室には、各放送局で使われた映像が巨大モニターに映し出されていた。
魔法で魔物が次々に倒れていく映像が何度も映る。
「この動画はなんだ!!魔法が全世界にばれたぞ」
「現場責任者の藤々です。自衛隊員及び観光客とは契約書を交わしております。身体検査もしたのですが・・・もう1台スマホを隠し持ってたようで・・・」
「君に弁解の余地はない。動画を流出させた者にも責任を取らせる。契約を破ったのだ。反論の余地は無い」
「しかし、当時の状況では強い拘束力は無理だと上からの指示がありましたので・・・」
「誰がそんな指示を出したのだ・・・世界中にばれてしまったではないか!」
「責任の所在はあとだ。問題は今後の対応だ・・・」
日本ギルド長の戸等力が重い口を開いた。
「・・・海外からの苦情だけで業務が滞ている。日本ギルドの信頼は地に落たのだ」
「アメリカから鑑定の申し込みがありました」
「誰だ!そこまでばらしたのは!!見つけ出して責任を取らせろ!」
戸等力の苦悩は続く。
「うわぁ。俺の名前も住所も晒されてる」
まだ動画が出てから1日だろ。よく調べたな。
俺のアカウントは・・・大炎上してる。本名で登録してないのに、どうやって調べたんだ?
日本人の野次馬根性って警察より優秀なんじゃないのか?
「お客さん、この先は閉鎖されてますよ」
「じゃあ、閉鎖してる場所で降りるので、そこまでお願いします」
獅子乃原村へ向かう道路は、ギルドと警察によって閉鎖されていた。
関係者以外立入禁止と書かれた場所で降りると、雲河が近づいて来た。
「おかえりなさい、高越時さん。車を用意してあります」
「・・・俺を待ってたんですか」
「病院を出た時間から逆算しただけです。それと、村人が集まってますので、先にお知らせしたかった」
やっぱり面倒事が起きてた。
村長に謝るだけで済むかなぁ・・・ムリだろうな。
獅子乃原学園の前には大勢の村人と、姫小路が居た。
俺は姫小路に呼ばれた。そこへ村長もやってくる。
「おい!村長、頼むぞ!きっちりと話をしてくれよな」
「わかったから静かにしろ。話ができん」
騒いでいた村人たちが片津を飲んで見守る中、3人の話し合いが始まった。
「村長さん、この騒ぎは何ですか。大勢で押し寄せて、ギルドに立ち退きの要求ですか」
「あんたに話があるんじゃない。高越時の孫に用があって来ただけだ」
「村長、俺に村から出て行けって話しか?」
「そうじゃない。誰もそんな事は思っとらん」
「なら、鑑定をして欲しいって話しか」
「…そうじゃ。言い辛い話しじゃが、金に余裕のある者はおらん。それでも村を代表して頼む」
「村長、一つ提案なんだけど。村人の中に鑑定の素質がある者がいる」
姫小路が物凄い形相で俺を睨んできた。
「その者が鑑定出来るまで待てという事か。それに鑑定を引き受けるとも限らんじゃろ」
「将来的な事を考えたら1人よりも2人の方が良いだろ。村長が決断してくれ」
「・・・わかった。みんなにはワシが話す」
村長は少しガッカリした感じで俺の申し出を受けた。
「それじゃあ村長。早速、鑑定の練習に行こう」
「誰を連れて行くんじゃ」
「村長だよ。鑑定の素質があるのは村長だ。姫小路さん、特例で今すぐに村長がダンジョンに入れる許可を下さい」
「許可します。その代わり私も同行しますよ。雲河、書類上なんとかしておけ!」
村長は1時間ほどで鑑定を取得した。
元々人の世話を焼くのが好きで村長になったような人だ。『人を見る目』という点では誰よりも素質はあったんだろう。
ダンジョンから3人で出ると、村人全員どころかその家族や親戚まで集まってた。
「村長、さっきも説明したけど、ダンジョンの外では鑑定出来る人数は極端に減るぞ。無理し過ぎたら死ぬからな」
「わかっとる。全員終わるまで死ねん。姫小路さん、みんなをダンジョンの入口で鑑定したいんじゃがお願い出来るかの?」
「後日、私の方からもお願いしたい事が有りますので、その時はご協力下さい」
今後、俺の代わりに村長に鑑定させまくるつもりだろ。
村長がタダ働きさせられないように、あとで麻桐を紹介しよう。
この物語はフィクションです。
実在の人物・団体・地名とは一切関係が無いとは限りません。