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灰色世界(2023リメイクver)  作者: 兎角Arle
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【if】エピローグ 海は命を……

 ここはどこだ。


 私は確か、縁樹くんに会いにいきたくて、海に飛び込んだはずで……。

 白い、天井。

 電子音。

 ……病院?


 目が覚めたことで、なんかドラマで聴くような声かけをされる。

 ここがどこだか分かりますか? とかそう言う。

 病院だよな? たぶん?


 夢見るような心地で海の底に沈んだはずなのに、現実に引き戻されて、ああ、なんだ、失敗したのか。

 落胆して、絶望に視界が滲んだ。


 後になって知った話では、波の向きが悪かったらしい。

 浜辺に流されて、海岸に打ち上げられていたところを、雨足の様子を見に外に出た近隣住民が発見、通報されたとかなんとか。


 ……というか、もう、どうでも良い。

 何もやる気が起きない。

 生きる気力も湧かない。

 何も考えたくない。


 ただただ気持ちが悪い。

 意識があるうちは治らない吐き気が襲い、眠っている間は、話によるとずっとうなされているらしい。

 しんどいなあ。


 言われるままに、さまざまな検査を受けて、病棟で過ごす日々。

 抜け殻のままここにいる。

 手取り足取り、あれこれ介助を受けていると、縁樹くんと過ごした日々を思い出して、自然と涙が出てきた。


 介助が必要なくなった頃、医師に呼び出された私は、やっとこの白い檻から抜け出せるのだと思ったのだが、思いがけない話を伝えられた。


 常に付きまとう吐き気や気持ちの悪さは、今尚生き続ける嫌悪感が理由ではなく、たった三文字の短い言葉に置き換えられた。

 生の苦しみではなく、産みの苦しみだ。

 腹の中に自分ではない命が、四ヶ月も前からいたと言うではないか。


 そんなまさか、ストレスで肥満になっているんだとばかり……。

 気持ちが悪いのだって、そう、縁樹くんがいなくなってからずっと……。


 目に見える世界が音を立てて崩れ落ちるような衝撃、強い目眩、目の前が真っ暗になって、両手で顔を覆った。


 全然嬉しくない。

 私は失敗した。

 縁樹くんの事だけを想って、独りで消え去ることはもうできないのだ。

 死ぬ時はこの子も一緒だ……。


 このところひどい生活だったと言うのに、お腹の命は懸命に生きようと、生まれようと、健やかに育っていると言う。

 私は、親になんてなりたくないのに……。

 どうしてこんなことになってしまったんだろう。


 きっと私はこの子を大切にはできなくて、寂しい思いをさせるとわかる。

 自分が死んでしまいたいくせに、命を産むなんて間違っている。

 流さなければいけない。

 生まれる前に、殺してやらねばならない。


 ……でも、この子は彼が生きた証でもある。

 私と繋がった印でもある。

 彼が私を愛して、求めてくれた形なのだ。


 涙が溢れてきた。

 嗚咽が止まらず、どうしたいのかを、医師に告げることもままならない。


 縁樹くんだったなら、どうしただろう?

 私以外いらないって、迷わず子供を流すのかな?

 それとも、繋がった証を残したいと思う?


 ……誕生日だって知らないのに、彼の気持ちが私にわかる訳がない。


 だから、私は自分で考えなければいけない。

 どうしたいか。

 どうするのが良いか。


 私は……。

おしまい。


このお話は、あったかもしれない、もしもの話です。

どちらを選んでも、天寿を全うしたとしても、孤独な魂はいずれ彼を求めて永い旅に出るのでしょう。

どうかその行く末は、幸せな物語でありますように。


ここまで読んでくださり、ありがとうございました。

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