n話 回想録2
蜜柑ちゃんが鏡に向かって会話をしている姿を見て、どうしようもない、焦燥感に支配された。
僕にとって特別な思い入れのある鏡で、僕とあの子を夢で繋いだ魔法を信じていたから、ふと、思った。
今キミが見ている空想に、僕は居る?
もし、僕があの子と繋がったように、蜜柑ちゃんが僕とは異なる数奇な幻想をそこに見ているんだとしたら……その運命が僕との因果より強固なものだったら、キミをここに繋ぎ止めるには、どうしたらいいのか?
わからなくなって、気がついたら、蜜柑ちゃんの首を絞めていた。
酷く矛盾した暗い願望。
キミが欲しいのに、自分で壊そうとする。
誰の手にも渡ってほしくないから?
壊れて仕舞えば、やっと僕だけのものにできるのだろうか?
大事にしたかったはずなのに、どうしてこんな酷いことをしてしまったんだろう。
蜜柑ちゃんはやはり、変に頑丈で、臆せず僕を見るから、僕は許された気がして、身勝手に安堵した。
愛情を注ぎたくて、キスをする。
これで先ほどの凶行を無かったことにできるとは思っていないけれど、それでもこの口付けを蜜柑ちゃんが拒まないから、そのまま、大事にしたい気持ちを伝えられるだけ伝えたかった。
落ち着いてきたら、感情だけ抜け落ちたみたいに、気になっていた疑問が素直に言葉にできる。
もう、苦しいことはしないから、キミのことをもっと教えて欲しい。
どうして死にたいのかも、僕にはわからないから……。
蜜柑ちゃんは、禁欲的にはぐらかす。
僕が感情的にならないようにするのと同じように、何かを耐えるみたいに。
時々こうやって、蜜柑ちゃんは大事なことを話してくれない。
話したいなら言ってくれていいのに、どうして耐え忍ぼうとするんだろう?
それがまるで、僕を信用していないことの表れなんだと感じられて寂しかった。
心の距離をただ行為で埋めようと、再び深い口付けをする。
傷つけたくない想いは乱暴な愛情に変換して、丸ごと押し付け続けた。
うわごとのように言葉をこぼしながら、何度でも深く口づければ、次第に蜜柑ちゃんはとろけたみたいにふにゃふにゃになって、それがとても可愛らしい。
このまま心の芯までとけて、何もかも曝け出して欲しい。
これ以上は互いに限界かと思い、呼吸を整えながらうっそりとした蜜柑ちゃんを眺めていた。
ぼぅっとしたままに、蜜柑ちゃんが呟く。
「縁樹くんは私を壊さないよ。だって、好きなんでしょ?」
僕の気持ち、わかってくれてるんだ?
嬉しいな。
「ふふっ、ちょっと違うな。好きじゃなくて、大好きなんだ。蜜柑ちゃんもそうでしょ?」
「ちょっと違うね。大好きじゃなくて、大嫌いだ」
「素直じゃないな」
蜜柑ちゃんの頬を軽くつねる。
「痛い」
「痛くしてるんだもん」
不満そうに歪めた顔も好き。
今はこれだけで我慢しておこう。
キミが僕の気持ちをわかってくれてるなら、それだけで……。
鋭く睨まれたから、手を離してあげる。
蜜柑ちゃんは寝返りをうって背を向けた。
「……鏡、処分するの?」
「しないよ」
「どうして?」
「さあ、なんでだろう。なんとなく、思い入れがあるから、かな……」
僕の勝手な不安と妄想で、首を絞めた挙句、蜜柑ちゃんが気にしすぎるようなことがあって欲しくないから、努めてなんてことないふうに言ったと思う。
キミは黙ったままだったから、後ろから抱き寄せて、耳元で続きを囁く。
「鏡に嫉妬なんて馬鹿げてるからね」
「散々物に嫉妬して、娯楽を遠ざけたくせに、今更何を言ってるんだい?」
ちくりと刺すような言葉。
その痛みは、不思議と心地よい。
きっと呆れているのだろう蜜柑ちゃんの顔を想像して、僕の隠すまでもない正直な気持ちをこぼした。
「反省してる。あの時はキミの全部が欲しくて、余裕がなかったんだ」
本当は、今もまだ、キミの全部が欲しいけど……猫みたいに気まぐれなキミは、そんな窮屈、嫌いだろうから……。
薄っぺらなご機嫌取りでしかない言葉だろうか。それでも僕はただ、キミを大事にしたいって気持ちを、わかってほしくて、そんな小さな嘘をついたのだ。
「蜜柑ちゃん?」
腕から逃れた蜜柑ちゃんは、何も告げずに、背を向けたままにベッドから抜け出した。
引き止めようと指を絡めたけれど、反射的に振り払われて驚く。こんなふうに拒絶されたのは初めてだった。
僕は何か、気に触ることを言ってしまったのだろうか?
今更反省したって遅いって、呆れてるのかもしれない。
あまりにも突然のことで、僕は怒ることも悲しむこともできず、ただ呆然とキミの背を見送ることしかできなくて……。
「ふっ……くくっ、あはははは! はは! あはは!」
鏡の前に立ったキミは、壊れたように笑い出して、いつの間にか手に巻きつけていた鎖を振り上げた。
「あああああ! なんで! なんでなんで! どうして! ああ、あああ……あは! ふふ、はは!」
濁った言葉を叫びながら、何度も何度も、鏡面を叩き、亀裂が広がり出すと愉悦を含んだ息が漏れ出した。
僕はただその様子を見ていることしかできない。
恐ろしかった、というのもある。
僕の知るあの子との決定的な違いを目の当たりにして、蜜柑ちゃんはあの子ではないと、現実を突きつけられて苦しかった。
けれど、それ以上に高揚している自分もいた。
壊れたキミは今、間違いなく本心を曝け出していて、その様を僕の前で見せてくれることが嬉しくて、愛おしくて、胸が苦しくなって、もっとキミの慟哭を見ていたい……そう、視線だけが釘付けになっている。
異常な状況に浮かされている自覚などないままに、一際大きくたわんだ鏡が、衝撃により倒れる。
壁にぶつかった鏡の背は勢いの分跳ね返り、自らを破壊した少女へと反撃の如く雪崩かかった。
「やっと終わる」
死を覚悟したキミの呟き。
無意識に蜜柑ちゃんの首輪の鎖を引っ張った。
強く、強く。
助けようなどという清い思考はそこに一切なく、これもやはり、僕のエゴなのだ。
鏡の割れる衝撃音が響き渡る中、床に転がる蜜柑ちゃんへ駆け寄る。
所々に血の滲んだ華奢な体を抱き上げて、僕は声を絞り出した。
「終わらせない、絶対に」
独りで勝手に死なせない……。
どうしてキミは、いつも僕を置き去りにしようとするの?
僕は、勝手に何もかも終わる気でいた蜜柑ちゃんに怒っていたのだけれど、腕の中でぼんやりとしているキミは、いつになく甘えるみたいに、縋り付こうと小さな手で僕の服を掴むから、それ以上何も言えなくなってしまう。
そのままコクリ、と意識を失ってしまうのだから、蜜柑ちゃんはずるい。
行く当てを失った感情に耐え、噛み殺すようにふうっと長い息を吐き出した。
本当はすぐにでも蜜柑ちゃんの手当てをするべきだとわかっているのに、しばらくその場でじっと、落ち着くのを待つ。
腕の中、規則的な浅い息だけが、キミの生存の証で、それがなければ、まるで死んでいるみたいに微動だにしない。好悪もない無表情でただ眠り、あちこちから血が滲む姿に、もう二度と目覚めないのではないか? という不安が押し寄せた。
不意に視線を落とすと、床に散らばる鏡の破片が、青ざめた自らの顔を映していることに気がついて、その酷い顔に自嘲する。
ざわついた心を押し込めて、妙に冴えた頭で、ただ、蜜柑ちゃんをベッドに移して傷の手当てを始めた。
*
未だ目覚めない蜜柑ちゃんをよそに、倒壊した鏡を独り片付ける。
無数の欠片が、無表情な僕を映した。
複雑な心境は、幾つもの期待と不安、願望が絡み合って、チグハグな内面を浮き彫りにさせる。
キミのことを知りたい。
キミのことを知りたくない。
生きてさえいてくれればこのままでもいい。
生きているのなら目覚めて声を聴かせて欲しい。
キミが好き。
あの子が欲しい。
キミはあの子じゃない。
キミはあの子の代わり。
あの子がキミならよかったのに……。
僕が求めたのはあの子だったはずなのに、ありのままの蜜柑ちゃんに今、惹かれていて、頭の中がどうにかなってしまいそうだった。
僕の想像するあの子とキミは全く違うから、最初は酷く焦って、閉じ込めようとして、でも、徐々に、キミをみているほどに、キミが可愛いって、本気で思うんだ。
けれど、キミに惹かれるほどに怖くなる。
もしこれから先、本物のあの子が目の前に現れたなら……僕は、どちらの手を取れば良いのだろうか?
僕が本当に好きなのはどっちだ?
行き着く疑問は、シンプルに言い換えればそんな一言で済む悩み。
でも、そんな短い言葉に至るまで、紆余曲折を経て感情は不可解に絡まり合っている。
「……っ」
憂鬱で狭くなった視野は注意力を低下させ、疎かになった手元が狂い、鏡の破片で指先を切った。
ぷっくりと皮膚の切れ間から湧き出す血液をいまわしく睨み、深々と息を吐く。拭き取るのが面倒で、シャツの裾に適当に押し当てて止血した。
部屋の掃除を言い訳に、僕はまた、答えを出すべき問題から逃げだした。
余計なことは考えず、目の前の、片付けるべき状況から改善を図ることにする。
破片が残っては危ないので、結局、周辺のラグマットは全て取り替え、鏡の撤去を終えれば裾に血を含んだシャツも脱ぎ捨てる。
蜜柑ちゃんはまだ眠っていたので、先に一人でシャワーで汗を流して着替えた。
部屋に戻ってみるも、蜜柑ちゃんはまだ起きていない。様子を見るために、ベッドへ腰掛け、眠る頬に触れた。
「……?」
触れる箇所からじんわりと汗が張り付くほどに熱い。
先ほどまで死んでいるみたいだったのに、今は浅く熱っぽい不安定な呼吸を漏らしながら、熱さからか無意識に布団を剥ごうと寝返りを打っている。
場違いにも、それを可愛らしいと思った。
死にたがりのくせに、体は生きようと懸命だ。
キミはここに生きている。
それだけで、たまらなく愛しいと思うのは、純粋にキミを求めていることの証だと、そう信じたい。これは、自分勝手な依存故ではないのだと。
恍惚と眺めていたところで、蜜柑ちゃんの熱が下がるわけでもない。ハッとして、すぐに着替えと解熱剤を用意した。
未だ答えは出ていないにも関わらず、この場を離れがたく想い、目覚めるまでずっとそばにいた。
鏡が割れてからずっと、浮遊感に包まれていて、現実味がないままに、一睡もせず時間がだけがすぎてゆく。
きゅろきゅろ、と胃の動く微かな音が蜜柑ちゃんから聞こえて、浮ついたままにぼんやりと、ほとんど無意識に、目覚めた時のために何か食べ物を用意しなければ、と思い立った。
後ろ髪を引かれる思いを耐え、隣室に放り出していた携帯から、家政婦に適当なメッセージを送って部屋へと戻る。
隣に腰を下ろし、汗で顔に張り付いていた髪の毛を、時々払ってあげながら、目覚めるのをただ待った。
ざわつく心に蓋をして、無心で、待っていた。
「……なんだっけ」
薄く開いた唇が、うわごとの様に呟くから、寝言なのかと思った。
目も僅かに開いていたけれど、これもまだ寝ぼけていて、またきっと、眠ってしまうようなほど、狭く。
瞼の細い切間から黒い瞳が覗き、それは熱によってしっとりと湿って、黒曜石のように艶めき、煌めいていた。
瞼が下ろされて、眉間に皺がよると、汗が一層噴き出して、苦しそうなのがありありと伝わる。
「うげえ……最悪」
はっきりとした言葉に、意識が覚醒していることを悟るも、蜜柑ちゃんは僕には気づかず、より心地よい姿勢を探ってか、寝返りを打って胎児のように体を丸めた。
野生動物みたいで可愛い。
「……しんどい」
「まだ寝てていいよ」
そっと頭を撫でて、極力柔らかく聞こえるように意識したつもりだったけれど、実際の言葉は少し硬くなってしまった。
返事はなかったけれど、不自然にぴくりと肩が跳ねたので、僕がいることには気づいたらしい。
言葉が無機質になってしまったから、行動だけは労りをこめたくて、撫ぜる手には細心の注意を払った。
「熱、まだ下がってないから、ゆっくり休んで」
「ん」
「良くなるまでそばに居るから」
「や」
「嫌なの?」
駄々をこねる子供みたいな、言葉とも言えない蜜柑ちゃんの声音は愛らしいけれど、拒絶を示す音色に胸が痛む。
蜜柑ちゃんは猫にそっくりだから、弱った姿を他人に見せたくないのかもしれない。
すん、と鼻を啜る音。
泣いていると分かって、息を呑む。
僕はまた、大事にしたい子を泣かせている。
そしてきっと、僕には泣き止ませることができないのだ。
出ていけと言われるんじゃないかと思うと、内臓がぎゅっと縮むような感覚がする。
そんなことを言われたら、きっと僕は頭に血が登って、“わからせる”ために、キミに酷いことをしてしまう。そんな予感がした。
「……優しくしないで」
蜜柑ちゃんは、僕を追い出そうとしなかった。
隣にいることを許された様に思えて安心する、そんな己の浅ましさに反吐が出そうだ。
「……してないよ」
僕が本当に優しかったら、キミはそんなふうに泣かなかったはずだ。
やるせなさを噛み締めて、ただ、労る手だけは止めなかった。そうすることで、少しでもキミの存在を感じていたかった。
何か言い返すかと思ったけれど、蜜柑ちゃんはそれきり何も言わなくなったので、何度か名前を呼んだ。
蜜柑ちゃん。蜜柑ちゃん。
鬱陶しいくらいに、名前を呼んで見たけれど、いつまでも返事がないから、眠ってしまったのかもしれない。辛そうだったから、仕方ない。
「優しくない。全部、僕の勝手だ」
少しでも呼吸が楽になったらいいと思って、首輪を外してあげた。
強く鎖を引っ張ったからか、擦れて赤くなっている。痛々しいそれにそっと触れる。
「んっ……」
「…………」
蜜柑ちゃんの呻き声。
ほんの少し扇状的に聞こえたのは、熱に浮かされてるせいで吐息が混じってるからだ。反射的に湧き立った己が劣情は見ないふりをする。
傷跡に触れた痛みで起こしてしまったのかと思ったけれど、なんの反応もないから気のせいだったらしい。
蜜柑ちゃんの一挙手一投足に卑しく反応する自身を思えば、それこそが答えなのではないか? と愚直に思う。
しかしそれが間違っていたら? あの子にも同じ様に反応するかもしれない。
僅かでも残る懸念が、僕が浅はかな行動を起こせない頸木であり、いつまでも胸を縛る鉛だ。
幾度か繰り返し切望した言葉が自然と浮き上がる。
あの子がキミならよかったのに……。
なんて……。
「キミはきっとあの子じゃないのに、僕の願望を押し付けてごめんね、蜜柑ちゃん」
身勝手な僕は、眠るキミにしか打ち明けられなかった。
「ねえ、その子の話、聞かせてよ」
はっきりとした声が耳に届き、呼吸が止まる。
途端に、得も言われぬ恐ろしさで指先が震えてきた。
「……起きてたの?」
今の言葉を聞いて、蜜柑ちゃんはどう思っただろう?
僕をなじる?
気色悪いと拒絶されたらどうしよう?
それとも、なんとも思わないのだろうか?
僕のことなんて興味がないから、キミは平気なのかもしれない。それはそれで、関心を持たれていないことに胸が痛む。
ひょっとしたら、キミは賢いから、とっくの昔に勘づいていたのかも。僕が、別の何かを重ねて見ていることに……。
僕の姿を探りもぞもぞと蠢く影は、潤んだ黒い両眼でこちらの姿を探し当てると、にっこり目を細めて笑った。
その笑みは、夢の中で見たあの子と少し似ていて、何度も似つかぬキミへと失望してきたはずなのに、懲りずにまた、ほんの少し期待する。
その幻想を払おうと、僕は話を戻してわざと悪態をついた。
「名前呼んだのに、無視したなんて酷いね」
「しんどいし、寝ようと思ったし」
「でも起きてるじゃない」
「ねえ、縁樹くんに興味がわいたからさあ、聞かせてよ、話、眠るまででいいから」
「……今まで僕に興味がなかったの?」
「いたた。頭痛が」
雑なはぐらかし方はいつもの蜜柑ちゃんそのままだ。
それが可愛くて、自然と笑みが溢れれば、適度に力が抜けてくる。
「楽しい話じゃないよ」
「もう既に不愉快だからいいよ」
そう言われて、臆病者な僕は蜜柑ちゃんに背を向ける形でベッドの端に腰掛けた。
既に不愉快だというキミの顔が、より一層歪む様を見てしまったら、耐えられそうにない。
それでも意地汚く、キミの温度だけは感じていたいから、繋ぎ止めるみたいに手を伸ばして、蜜柑ちゃんの額を撫でた。
*
語らねばならない状況に、否応に直面したことで、蜜柑ちゃんに、どう伝えたらいいか、どう、伝えたいか、手探りで言葉を紡ぐ。
そうすることで、自分の中で曖昧だった望みが、明確になっていく手応えが、不思議と感じられた。
蜜柑ちゃんに何もかも曝け出したことで初めて、幼い日のあの特別な夢を、ただの妄想だったと、消化することができた様に思う。
純粋に心が軽く、初めて本心から、あれをただの夢だと切り捨てた。
「……わかってるなら、なんで私を捨ててくれないの?」
話を聞き終えた蜜柑ちゃんは、それだけ問う。
捨てるなんてあり得ない。
もうキミを手放したくないんだ。
一緒に生きたいと思って掴んだあの手は、夢でも空想でもなく真実なのだから。
それに……。
「それでもキミを愛したいと想ったから」
あの子“が”蜜柑ちゃんならよかったのに。そう思ったことはあったけれど、逆は一度もなかったなと、今更自覚する。
僕は蜜柑ちゃんが好きだ。
気まぐれで気が強くていじっぱりでいたずら好きで、素直じゃないけど僕が弱った時には気づくと寄り添っていてくれて、優しくて甘くて、あの子とまるで似てない部分全部を愛おしく思う。
蜜柑ちゃんが好きだ。
とめどなく溢れる想いから、たまらず視線を向ける。
もう一度はっきりと、この気持ちを伝えたい。
しかし、当の蜜柑ちゃんはとっくに目を閉じて意識がなかったから、僕は勢いを削がれてクスリと微笑した。
「おやすみ、蜜柑ちゃん」
これでだいたい5~6話の頃ですね。
このあたりを執筆中、「いっそのこと一話から丸々丁寧に縁樹くん視点を描いても良いんじゃないか?」と思ったりもしたんですが、モノローグベースで進むリズム感も私は好きなので、ダイジェストで十分かな、とか。
同じシーンの繰り返しになりがちですしね。
あくまでも言動の原理が難解そうな部分で、彼なりにどう思っていたのかの補足ですからね。
そんなわけで、次回、縁樹くんの回想編の最後「回想録3」です。
最期までお付き合いいただけたら嬉しいです。