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笑い声

作者: 藤野八舞

築50年とかの賃貸物件が隣接する地域では、まぁ有りがちなお話でないのかなと思います。

「ひゃーっはっはっはっ!」

「あっひゃ!ひゃひゃ!」

「ひゃひゃひゃひゃひゃ!」

引越したアパートで聞こえてくる子供の笑い声。

独り身の中年が得られない温かみを感じました。


「ひゃーっはっはっはっ!」

「あっひゃ!ひゃひゃ!」

「ひゃひゃひゃひゃひゃ!」

笑い声は毎晩のように聞こえてきました。

離婚して幼い我が子に会えなくなった私には只々羨ましい限りです。


「ひゃーっはっはっはっ!」

「あっひゃ!ひゃひゃ!」

「ひゃひゃひゃひゃひゃ!」

どうやら、声は自分の住んでるアパートから聞こえてくるものではないようでした。

恐らくは向かいのアパートか隣のマンションからであろうと思いました。

距離感と方角からはそう感じるのです。


「ひゃーっはっはっはっ!」

「あっひゃ!ひゃひゃ!」

「ひゃひゃひゃひゃひゃ!」

親密になった真下の階の老人と彼の部屋で飲んでいるときにも聞こえてきました。

老人に楽しそうですよね~と言ったときに、彼は強張りました。


「ひゃーっはっはっはっ!」

「あっひゃ!ひゃひゃ!」

「ひゃひゃひゃひゃひゃ!」

何か聞こえてるのかい?

老人は私にそう聞きました。


「ひゃーっはっはっはっ!」

「あっひゃ!ひゃひゃ!」

「ひゃひゃひゃひゃひゃ!」

聞こえてるもなにも今も楽しそうにしてるじゃないですか?

お隣のマンションのご家族でしょうかねぇ~?


「ひゃーっはっはっはっ!」

「あっひゃ!ひゃひゃ!」

「ひゃひゃひゃひゃひゃ!」

いや、隣のマンションからじゃないねぇ。

向かいのアパートだよ。


「ひゃーっはっはっはっ!」

「あっひゃ!ひゃひゃ!」

「ひゃひゃひゃひゃひゃ!」

あ、そうなんですか?

そのご家族をご存じなんですか?


「ひゃーっはっはっはっ!」

「あっひゃ!ひゃひゃ!」

「ひゃひゃひゃひゃひゃ!」

ああ、知ってるよ。


「ひゃーっはっはっはっ!」

「あっひゃ!ひゃひゃ!」

「ひゃひゃひゃひゃひゃ!」

そうなんですか!?

毎日、本当に楽しそうで羨ましいっすよね~!


「ひゃーっはっはっはっ!」

「あっひゃ!ひゃひゃ!」

「ひゃひゃひゃひゃひゃ!」

ああ・・・。

けど前のアパートはもう誰も住んでないんよ。


「ひゃーっはっはっはっ!」

「あっひゃ!ひゃひゃ!」

「ひゃひゃひゃひゃひゃ!」

はぁ?

いや、今、前のアパートからって言ったじゃないですか?


「ひゃーっはっはっはっ!」

「あっひゃ!ひゃひゃ!」

「ひゃひゃひゃひゃひゃ!」

ああ言ったよ。


「ひゃーっはっはっはっ!」

「あっひゃ!ひゃひゃ!」

「ひゃひゃひゃひゃひゃ!」

誰も住んでないアパートから子供の笑い声なんて聞こえる訳ないじゃないですか!?


「ひゃーっはっはっはっ!」

「あっひゃ!ひゃひゃ!」

「ひゃひゃひゃひゃひゃ!」

そうだな。

じゃあ前のアパートを見てみな。

老人はそう言って向かいのアパートが見える曇りガラスの窓を開けた。


「ひゃーっはっはっはっ!」

「あっひゃ!ひゃひゃ!」

「ひゃひゃひゃひゃひゃ!」

アパートの全ての部屋の電気は付いていなかった。


「ひゃーっはっはっはっ!」

「あっひゃ!ひゃひゃ!」

「ひゃひゃひゃひゃひゃ!」

・・・え?

確かに前のアパートから聞こえてきているのに。


「ひゃーっはっはっはっ!」

「あっひゃ!ひゃひゃ!」

「ひゃひゃひゃひゃひゃ!」

向かいのアパートで両親からの虐待にあってた小学生・・・5年生か6年生ぐらいの女の子だったはずやが。

その子が虐待に耐え切れなくなって両親を包丁でめった刺しにして殺したんよ。

親を刺し殺している間、とても楽しそうに笑ってたんだって。

あんまりに笑い声がけたたましいんで当時の隣人が様子を見にいったんだ。

女の子は倒れている男にまたがって大笑いしながら何度も何度も包丁を突き立てたんだって。


「ひゃーっはっはっはっ!」

「あっひゃ!ひゃひゃ!」

「ひゃひゃひゃひゃひゃ!」

えっ・・・

じゃあ、今聞こえてる笑い声って・・・


「ひゃーっはっはっはっ!」

「あっひゃ!ひゃひゃ!」

「ひゃひゃひゃひゃひゃ!」

わしには何にも聞こえてへんけど・・・。

そりゃあの女の子の笑い声なんじゃない?

あの子にとっては人生で一番楽しい時間やったんやろなぁ。



女の子は施設に収容された直後に自分の首をカッターで描き切って自殺したそうです。

その時の彼女は本当に楽しそうな満面の笑みを浮かべていたそうです。


もちろん速攻で引っ越しました。

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