素直になれない女の子 第6話 完敗
私の完敗だ。テスト勝負なんてもはや関係ない。
それに彼はもう明日のテストを受けられないだろう。
再テストは9割扱い。勝負にならない。
つまり色々なことにおいて、彼の勝ち逃げということだ。
本当に弟さんには敵わない。いや、違う。
彼を見る。そして彼に向かって言った。
「私の完敗。あんたの勝ちよ、七河蒼空くん」
自然と彼のことをそう呼んでいた。
弟さんって呼ぶのは失礼だ。
だって彼は、七河蒼空なんだから。
どうやら私の言葉は聞こえてなかったようだ。
反応がない。え、もしかして意識ない‥‥‥?
その後に七海が戻ってきて暴走しかけたので止めた。
暴走しすぎでしょ。怖すぎ。
七海と話してると気づいたことがある。
彼について私が知らないことを知ってる。
でもそれは隠しておきたいのだろう。
無理には聞かない。それに聞くとしたら、いずれ本人から聞こうと決めた。
そのあと彼が目覚めて保健室に行ったが熱がない。
おかしい。絶対変だ。でも彼は熱がないとわかったら家に帰ると言った。
仕方ないため私たちは3人で帰る。
そういえばこんな大人数で帰るの初めて。
少し楽しいかも‥‥‥
テスト1日目。
テストの出来は言うまでもない。
テストを受け終わった後に急いで1組の教室に向かう。
彼が来ているか、休んでいるかを確認するため。
すると七海が廊下を歩いていたから話しかけた。
「アイツって今日休み!?」
「蒼空のこと? 休みよ。これからそのお見舞い♪」
なぜか嬉しそうに答えた。え、何で嬉しそう?
「おねがい。私もお見舞いに行きたい。
私に原因があるの!!」
頭を下げて七海に頼んだ。気づいたら私は人に頼ることができるようになってた。
「‥‥‥そうね。あなたが原因なら責任あるわね。
一緒に行きましょう。でも、譲らないから」
「‥‥‥ありがとう」
正直受け入れてくれると思わなかった。
それに言いたいことが一つだけある。
譲らないってなに!?
七海と一緒に彼の家の前に来た。
え? 一人暮らしなの?
去年まで悠凛会長と2人で暮らしてたのかな。会長が卒業したからそのままここに1人で住んでるとか?
そんなことを考えていると七海がインターホンを押す。
音が鳴る。でも、何も起こらない。
寝ているのだろうか。それとも動けない‥‥‥?
ドアノブに手をかけて引いてみる。
鍵がかかってない‥‥‥開いている。
まさか‥‥‥鍵をかけ忘れたの?
七海も驚いてる様子だ。
「変だわ。
朝聞いたら鍵かけてるから
インターホン鳴らしてって言われたのに」
「え‥‥‥もしかして!!!」
まさか、誰かが鍵を強引に開けて中に入った!?
私たちは急いで家の中に入り玄関で靴を脱いで部屋に入っていく。
ベッドで彼が寝ていた。でも安心できなかった。
ベッドに寝てるのが彼だけじゃなかった。
明らかにもう1人誰か入ってる。しかも女性。
ま、まさか‥‥‥!!!
七海が大声で彼に呼びかける。
その声で彼は起きた。そして飛び起きていた。
彼は一緒に寝てた女性に話しかける。
その女性が起きる。そして私たちと顔が合う。
高校生時代とは違う茶色で長い髪。
黒髪も良かったが、茶髪もとてもよく似合ってる。
間違いない。私が間違えるはずがない。
憧れの悠凛会長だった。
それから久々に悠凛先輩と話した。
彼について話したかったけど、本人と七海がいるので話せなかった。
そして会長は恥ずかしいからと言われたので先輩呼びに。
こうしてテスト1日目が終わった。
恥ずかしがる先輩、可愛いすぎ‥‥‥♡
テスト2日目。
テストの出来は言うまでもない。
そして彼も今日からテストを受けられたそうだ。
そういう話をクラスの人から聞いた。
しかも、悠凛先輩も一緒に来てたって話も。
なんで私、その時にその場にいなかったの‥‥‥!!!
テストが終わった後に電話がかかってきた。
悠凛先輩からだ!
「もしもし澪里です!」
「お、おう澪里ちゃん元気だな」
「あの件についてですか!」
「さすが澪里ちゃんだな。これから大丈夫かな?」
「はい! 大丈夫です!」
「ありがとう!
30分後に前に会った喫茶店でどうかな!」
「わかりました!」
「それじゃあまた後で! バイバイ!」
「はい!」
こうしてこれから会う約束ができた。
「ごめんなテストなのに呼び出して」
「全然大丈夫です!
普段と変わらず大丈夫ですから!」
「さすが澪里ちゃんだな!」
ニコっと悠凛先輩が微笑んでくれる。
か、可愛すぎる‥‥‥癒される‥‥‥♡
「それじゃああの件についてだが」
「! は、はい」
危うく忘れそうになった。そのために来たんだった。
「それで学校でのソラの様子はどうだった?」
「間違いなく目立ってますね。
その点を考えると負担と変わらないと思います」
「そうか‥‥‥目立ったことしてる?」
「はい。
この前は七海に頼まれて偽装彼氏やってました」
「ええ!? そんなことしてたの!?」
「七海が悩んでた件を解決したらしいですよ。
だから彼のことを信頼してるのかもしれないです」
「そうだったのか。
だからあれほどゾッコンってわけか!」
ゾッコンか‥‥‥あれ? なんでモヤっとするんだろう。
そんなことより私は言わなければいけないことがある。
「すいません!」
頭を下げる。
「ど、どうした?」
悠凛先輩は驚いてる様子だ。正直に話し始める。
「実は私が原因で彼が目立ってしまいました!
私が彼に接近したことで噂が広がったんです。
彼はそれを止めてくれました。
私の教室に来てみんなに注意してくれたんです。
しかも体調が悪かったのに無理をして‥‥‥
私が迷惑かけてしまいました!!」
「‥‥‥なるほど」
悠凛先輩が小さい声でそう言った。やっぱり、怒るよね‥‥‥
「さすが私の弟だ!!」
「‥‥‥え?」
「カッコ良かった!?」
「か、カッコ良かったですよ‥‥‥?」
「そっか!私も見たかったな〜!」
「そ、そうですか」
そうだった。悠凛先輩ってこういう人だった。
「そうか。
話を聞く限りだとソラは前より
学校生活が楽しそうだな!」
「はい。間違いなく七海のおかげだと思います」
「何言ってんの!
澪里ちゃんのおかげでもあるって!」
え? 私、何もしてない。
「‥‥‥むしろ迷惑かけてると思います」
「だからそれも含めてだよ!
ソラは人のために動くことが自分のために
なると思ってるからな!
あの子は、人と関わるのが好きだから
澪里ちゃんが今のソラと知り合ったことに
意味があったんだよ!」
「!まさか、それが先輩の狙いですか?」
「そうだよ?
2人ならお互いに良い影響を与えると思ったんだ〜!
それに、最終的には仲良くなると予想してた!
結果澪里ちゃんはソラを信頼したわけだ!
つまり、私の狙い通り♪」
えっと、つまり先輩は彼だけでなく私にも影響を与えるために私を接近させたのか。
私のためでもあったと予想なんてしてなかった。
しかも先輩の狙い通りの展開になってる。
本当に、敵わない。
「その話が聞けて安心した!
澪里ちゃんに頼んで正解だった!
ありがとう!」
「いえいえ! 私もお世話になりましたし!
こちらこそありがとうございました!
彼にも明日直接お礼を言いに行きます!」
「お!そうか!ソラに対して素直になったな〜!」
「‥‥‥あんなことされたら、助けてもらったら
素直にならざるを得ませんでした」
「その返事は少し素直じゃないな!
おやおや?もしかして澪里ちゃん、
ソラのこと好きになった〜?」
そんなの、答えは決まってる。
「‥‥‥はい、好きになりました」
「え!? ほ、ホントに!?」
「はい!友達になりたいです!」
「‥‥‥ん?」
私は彼を好意的に思ってる。気になってる。だから友達になりたい!
「こんなに気になって知りたくなって、
好きになった男の子は初めてなんです!
だから友達になれたら初めての男友達です!」
「そ、そうか」
(‥‥‥ここで何か言うのは澪里ちゃんのために
ならないよな。うん、見守るしかない。
澪里ちゃんどれだけピュアなんだ‥‥‥
ソラも気づけないだろうし‥‥‥
まさか結愛ちゃんの気持ちにも気づいてない?
そしてアイツは昔からずっとソラを好きだろう。
まさか楓も、もしかしたら‥‥‥
今の時点で2人以上は確定だと‥‥‥?
罪な男だ‥‥‥さすが私の弟だ‥‥‥)
先輩が何か考え込んでる?
「? 先輩? どうしました?」
「いや何でもない! よかったな!
これからも、ソラと仲良くしてやってほしい!」
「はい!でもお願いされたからではありません!
私が彼と仲良くしていきたいと思ってます!
だから安心してください!」
そう! 私が望んで彼と仲良くなりたい!
「‥‥‥ある意味これからどうなるか不安かも」
「ええ!?」
こうしてテスト2日目が終わっていった。
私、彼と友達になってみせる!!
先輩が不安になってる理由は誤魔化された。
どうしたんだろう。




