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七河蒼空は、外見以外に問題あり  作者: とい
第2章 自称『完璧』な男の子VS通称『難攻不落』な女の子
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素直になれない女の子 第5話 変なやつ

        「失礼します!!」


           ‥‥‥え?


 違うクラスの人が教室に入ってきた。


 2年1組の男子。今までこの教室に入った時はない。


 確信できる。だって入ってきたらその人は目立つ。


 学校一の、有名人。そして、話し始めた。




  「みなさんこんにちは! 元気にしてた?

   みんなのアイドル七河蒼空です!」




       ‥‥‥なんで来たのよ。


       なんで来ちゃったの。


     あんなに酷いこと言ったのに!


      傷つけてしまったのに!!


       謝ってもないのに!!!



         彼と目が合う。


 そして、少し申し訳なさそうに苦笑いを浮かべる。




  ‥‥‥なんで、あんたが私にそんな顔するのよ。


  あんたは、何も悪くないのに。悪いのは私。



    なんで‥‥‥!! なんでなの‥‥‥!!



 「さあ、このクラスの人に聞いてほしいことがっ」



 彼はそう言った。でも、それから何も話し始めない。


 みんな不思議そうに彼を見つめる。


 私もその様子を眺める。いったいどうしたのだろう。




 それから少し経ってからチョコを口に含んだ。


 「いや〜、あえて沈黙な時間を作ることで

  注目を集める方法が効いたな! さすが俺!!」


 すると、彼が話し始めた。


 でも、おかしい。何か違和感がある。


 彼なら、わざわざそんな注目を集めようとする必要はない。だって、誰よりも目立つから。


 それに少し言い淀んでいるのも変だ。


 まるで、何かに耐えているような‥‥‥?




 それから彼は教卓の前で話を続けた。


 「意味ない時間とってごめん!

  完璧な俺に免じて許してね♪」


     ‥‥‥似てる。あの人に、似てる。


 「どうでもいいことを広めて彼女を傷つけるのは

  やめてもらいたい!!」


           似てる。


 「雛野はみんなと変わらない!

  可愛い面がたくさんある!」


          よく似てる。


 「言いたいことはこれだけだ!!

  良いやつだから、仲良くしてほしい!」


          そっくりだ。


      重なる。あの人と彼が重なる。


 「‥‥‥でも、これからも俺以外の噂を流したら?

  それが俺にまで届いてきたら?その時は」


 『もしこれからも自分のために動いてくれた人に

  感謝できない、尊敬できないというなら‥‥‥』





    「完璧な俺が、何するかわかんないぞ♪」

    『会長の私が、何するかわからないぞ♡』



     ‥‥‥やっぱり、悠凛会長の弟さんだ。


     憧れてる私が言うんだ間違いない。


         ‥‥‥ありがとう。


  こんな私のために。何もできない私のために。




        ‥‥‥ありがとう!!!




 彼は教室から出て行った。


 ‥‥‥今度こそ、謝りたい!!


 そしてお礼を言わないと!!!


 私は急いで後を追いかける。


 彼が出た後すぐに私も教室を出たから前に彼の姿が見えた。


 そして、廊下で倒れそうになってるのも見えた。


 それを七海が支えてる姿も。


 ‥‥‥まさか、体調が悪かった?


 さっき教室で感じた違和感はそれだった?


 ‥‥‥もしかして、体調が悪い原因って‥‥‥


 私は後を追いかけた。




 2人が空き教室に入っていくのが見えた。


 私も空き教室前に着いたが、中に入ることができない。


 私、どんな顔して入っていけばいいの?


 入るか迷っていると教室の中から声が聞こえてくる。


 「風邪を引いた原因はわかってるの?」


 七海の声が聞こえてくる。


 やっぱり。体調悪かったんだ。


 その原因が聞きたくてそのまま聞き耳を立ててしまった。


 「‥‥‥たぶん大雨の中を走って帰ったからだ。

  それ以外には思いつかない」


 弟さんが答えた。


 ‥‥‥やっぱり。私に傘を貸したからだ。


 あの時、傘は一本しか無かったんだ。


 その後も教室の外から2人の話を聞いてしまう。


 ごめんなさい、盗み聞きをしたいわけじゃないの!





 その後も話を聞いていると、七海の声がどんどん大きくなってきた。そしてテンションも高くなった。


        「いただきま〜す♡」


 そんな声まで聞こえてきた。な、何をいただくの!?



       「待ちなさいよ!!!!」



    思わず教室に入って話かけてしまった。


        私、やっちゃった‥‥‥





 それから七海に冷えピタを取りに行ってもらい、私と弟さんの2人になった。


 「‥‥‥なんで今日あんなことしたの??」


 違う。こんなこと言いにきたんじゃない。


 「なんで教室に来たのよ!!

  私に関わらないでって言ったじゃない!」


 違う‥‥‥言いたいことはこれじゃない!




  「‥‥‥そのことについては、悪かった。ごめん」



 弟さんは、そんなことを言う。


 ‥‥‥なんで弟さんが謝るの。助けてくれたのに。


 私、いったいこれまで何に怯えてたの?


 私のためにがんばってくれる人がいるのに。


         ‥‥‥そうだ。


    『自分のために動いてくれた人には

     お礼を言わないとダメだぞ!』



        悠凛会長、そう言ってた。


 やっと気づいた。私、今までそれが自分にも言われていると気づいてなかったことに。


 あの人は遠回しに、私に対しても言ってたのか。




    ‥‥‥本当に、この姉弟には敵わない。




         「‥‥‥ごめん」




 私は、やっと自分の口から謝罪の言葉が出た。



 「噂を引き起こしてごめんなさい!

  辛い目に合わせてごめんなさい!

  面倒ごとに巻き込んでごめんなさい!

  あの日、傘を借りてごめんなさい‥‥‥!!」



       止まらない、止まらない。


 今まで言えなかったのが嘘のように言葉が出てくる。


 まるで、今まで謝らなかった分を取り返すように。


    ‥‥‥ああ、そうか。そうだったんだ。


     謝るって、簡単なことだったんだ。


        「それは違う!!」


          「‥‥‥え?」


 両肩を掴まれた私はそんな返事をしてしまった。


 「俺自身のために傘を貸したんだ!!だって、」


 そこまで言うと彼は言うのをやめてしまう。


 聞きたい。その先が知りたい。もっと知りたい。




        あんたを、知りたい。




    「だって、なに? 続き、聞かせて?」




    「‥‥‥だって、お前に風邪を引かれると、

     テスト勝負ができないだろ?」


         「‥‥‥え?」 


 予想外の言葉が出た。テスト勝負を楽しみにしてたの?


 「テスト勝負、楽しみにしてたんだ。

  友達みたいなこと、したかったんだ。

  それに、勝負に勝ったら俺の目的も果たせる。

  一石二鳥だろ‥‥‥?」


 何を言ってるか意味がわからなかった。


 友達みたいなこと、してみたかった?


 果たしたい目的ってなに?


 何もわからない。でも、説得力があった。


 何かのために彼がここまでがんばってるのは納得できた。


 そして彼は謝る必要がない。自分が目立つことにも原因があると言葉を続けた。


 わかった。ようやくわかった。


 「とにかく、そういうことだから俺に謝るな。

  謝るくらいならお礼を言ってほしいかな。

  それの方が嬉しい。

  自分の行ったことが正しいって、思える」



          ()()()()()


 悠凛会長と、似ているようで似ていない。


 確かに言動や立ち振る舞いは似てる。そっくりだ。


 でも、本質は違うのだと思う。


 悠凛会長は自分に自信満々。


 でも彼はどこか無理をしてる感じがした。


 まるで、演じているみたいな。


 今も少し自信なさそうだし。普段の彼と今、目の前にいる彼は別人のように見える。


 さっきの教室での一件もそうだ。


 言ってることは似ていたけど、何かが違った。


 悠凛会長は人のために行動してる感じがした。


 それは本当の善意。人が持つべき理想の形。


 対して彼は、自分のために行動してる感じがする。


 それを簡単にいうと自己中心的な考え。


 でもそれがただの自己中とは思えなかった。


 だって、こんなにも心を打たれたから。


 すごいと思うから。ありがとうと思うから。


 たしかに自分のために行動してるのは分かったけど、全く嫌な気分はしない。




     「‥‥‥あんたって、変なやつね」




 変なやつ。そうだ。本当に変なやつだ。今まで見たことがない。



        「‥‥‥ありがと!!」



 でも、そんな変な人に私は惹かれた。


 魅力的だと感じた。尊敬した。


 私は今まで、悠凛会長の弟だから興味を持ったと思ってた。似ているからだと思った。



    でも、それは違った。似ていなかった。



  私は彼だから、七河蒼空だから興味を持ったんだ。


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