素直になれない女の子 第4話 問題
それから約1年ぶりに弟さんと対面した。
向こうは去年会ったことに気づいてなかった。外見が変わったから当たり前か。
私は彼と話す中で気づいたことがある。
私、まだ人に対して素直になれない。
副会長になった私は前よりも人に避けられるようになったのだ。恐れられてるのだ。だから私も他人に対して気を許せない。
例外は悠凛会長や楓会長だ。たぶん信頼しているから。隠さなくてもいいと感じるから。
でも、弟さんには素直になれなかった。
まだ知らないから信頼できないと感じた。
七海が突っかかってきた時もキツい口調で話してしまった。私ってホントにバカ‥‥‥
そして、弟さんに近づく理由を考えてなかった。
焦った私は中間テストが近いことに気づいて思わずテスト勝負を提案してしまった。
しかも勝った方が負けた相手になんでも一つ命令できるという条件までつけて。
ホントは無計画だったけど、そんなことは言えない。
でも、一つだけ本心を言えた。相手に魅力を感じないと関わりたくないということだ。
つまり私は、悠凛会長の弟である彼を試したいという興味もあったのだ。
弟さんは何故かすごいやる気だった。そして思い出す。去年の最初の中間テスト、彼が3位だったことに。
その時の私は、負けてたことに。
私、勝負で負けたらどんな命令されちゃうの?
〇〇〇とか、〇〇〇〇〇とか、エッチな命令されちゃうの?初めてなのに?
‥‥‥絶対に負けられない!!!!!
私は本気で勉強した。色々な初めてを守るために。
でも、彼も必死に勉強してた。
そんなにエッチは命令したいの!?
男ってみんなそう!! だから気を許さないのよ!!
宣戦布告してから数日が経った。彼に接近して調べるはずだったのに、気づけば勝負相手になっていた。
完全に私のミスだ。せめて勝負には勝たないと。
完全下校時間の目前となったので私は帰ろうとしたけど、雨が降っていた。私、傘持ってない。
そう思ってると彼が傘を貸してくれた。
正直嬉しかった。私を助けてくれる同級生なんて今まで一人もいなかったから。
でも、恥ずかしくなってお礼を言えない私だった。
おかげで翌日に返す際に礼を言うことになる。
そしてまた七海と衝突した。アイツ、ほんとに怖い。
それからまた数日経つと、帰る際に猫を発見した。
私は猫が大好きで、思わず緩みきっていると、彼に見られてしまった。
自販機で奢って口封じした。
そして一問一答をすることに。行う中で私はこう感じていた。
『これ、友達っぽい』と。
次の日も彼と会った。図書室では意地の張り合いで帰る時間が遅くなった。
そして奢られた。口封じの意味がなくなった。
彼が買ってくるのを待っていると、知らない男たちが話しかけてきた。
正直、怖かった。でも怖いのを悟られると相手の思う壺だ。だから必死に言い返していた。
誰かに助けてほしいと感じた。
でも副会長で強気な私を助けてくれる人なんていない。
そう思っていた。この日までは。
助けてくれたんだ。彼が、助けてくれた。さすが悠凛会長の弟だ。
ここでも素直になれない私はお礼を言えず、気を強く保っていた。そして完全に予想外だった。
彼が、私のために怒ってくれた。
私が危なかったから、さっきの私の行動に怒ってくれた。心配してくれた。それが嬉しかった。
この日から彼を少し、ほんの少しだけ信頼した。
ほんの少しだけ、素直になれた。
他の男子たちとは何か違うと感じた。
気がつけば、彼と会うことが楽しみになっていた。
この時の私は浮かれていた。
翌日。
私と彼の噂が広がっていた。
仕方ないことかもしれない。私は副会長で、彼は有名人だ。目立っていたのかもしれない。
だからこれからは、彼に会っては行けないと感じた。
でも、彼と会ってしまった。七海と桜さんにも会ってしまった。
私はもう会わないと説明したけど彼が止めてくる。
嬉しかった。噂が広がっても避けずに接しようとしてくれたことが。
でも、ダメ。調べるために弟さんに接近した私が、これ以上迷惑をかけるなんて許されない。
ただでさえ彼は目立つのだ。これ以上私と関わればもっと噂が酷くなるのは目に見えている。
そうなれば、悠凛会長に合わせる顔がない。
だから私は彼を遠ざけようとした。虚勢を張った。
拒絶した。でも彼は納得しなかった。
「あんたには、問題があったのよ!!!!」
だから、私は思わず酷いことを言ってしまった。
やっぱり問題があるだなんて、言ってしまった。
今まで関わってきた中で、そんなことないと思ってたのに。思ってもないことを言ってしまった。
ごめんなさい。本当にごめんなさい。
でも、素直に謝ることも出来なかった。
ただ酷いことを言って、その場から逃げただけ。
むしろ、私の方に問題があったのだ。
翌日。テスト前日。
虚勢を張ったのはいいけど、すでに後悔してた。
だって、噂されるのがこんなにも辛いと思わなかった。気にしてることがバレたら笑われるし、言い返すと悪化する。どうしようもない。
もしかして、弟さんもあの噂を気にしてたのかな。
それが原因で悠凛会長が心配していたかもしれない。
そんなこと今さら気づいても遅いのに。
放課後。
私は自分の席で縮こまってるだけ。
こんな時に何も行動できない自分が情けない。
結局去年と何も変わってなかった。成長してなかった。誰かを頼ることすらできないのだから。
私に、助けてくれる友達なんていないから。
「失礼します!!」




