初めて
「完璧な俺と、友達になってください」
言った。俺は言った。本当の自分を、少しだけ晒した。恥ずかしい。怖い。でも、友達になりたい。
「‥‥‥」
「友達に、なってくれ!!!」
右手を差し出す。いわゆる握手の形。信頼の、証。
「‥‥‥」
「‥‥‥」
雛野から返事が帰ってこない。顔を下げているため目が合わない。
何を考えているかわからない。何と返事してくるかわからない。その時間が、俺を不安にさせる。でも、誠意は見せたはずだ。
「よろしくお願いします!!」
「‥‥‥やだ」
「‥‥‥え?」
俺は、思わず顔を上げてしまった。
そこには、涙目の雛野。
二度目の、完璧な俺と、友達になってください。
失敗‥‥‥?
「そ、そうだよな! 俺と友達になりたくないよな!
あんな噂あるくらいだし、迷惑だよなっ!」
自分で言ってて悲しくなってきた。
やっぱり俺と友達になってくれる人なんて、いないよな。
「‥‥‥ごめん、言葉が足りなかった」
「え?」
「‥‥‥あんたから頼まれる形なのは、やだ」
「ど、どういうことでしょうか?」
雛野の言いたいことが読めない。完璧な俺が言うんだ誰にも読めないだろう。
「‥‥‥な、七河蒼空くん」
初めて、名前を呼ばれた。
「は、はい」
「わ、わた、私、私‥‥‥!!!!」
「う、うん?」
「私と‥‥‥!!友達になってくださいっ!!」
「‥‥‥え???」
「素直になれない私と、友達になってください!!」
「‥‥‥え!?」
「あんたから私にお願いする形は嫌なの!!
私からお願いしたいの!!!」
「ふ、ふぇ?」
「私は、友達がいません!!!
ひとりぼっちです!!!
寂しいです!!悲しいです!!
本当は友達が欲しいです!!!
でも、素直になれません!!!
信頼してる相手にしか、素直になれません!!
でも、私はあんたと友達になりたいです!!」
「う、うぇ?」
「口が悪い。気が短い。素直になれない!!
こんな私と、友達になってくれますか!!」
顔を下げて手を差し出してくる。
俺、友達になってほしいと言われてる???
う、嘘だろ?こんな俺に?情けない俺に?
「お、俺でいいのか‥‥‥?」
「‥‥‥はい?」
「そもそも俺たち、会ってから時間経ってないし、
お互いのことまだ全然知らないし。
それでも、いいのか‥‥‥?」
な、何言ってんだ俺。ダサすぎるだろ。
「‥‥‥あんた、さっき自分から言ってなかった?」
「そうだけど!!
いざ言われると覚悟が足りなかったというか!!
勇気が足りなかったというか!!!」
「‥‥‥じゃあ悠凛さんのことは全部知ってるの?」
「え?」
「悠凛さんの好きな男のタイプとか知ってるの?」
「し、知るわけないだろ」
「あんたは、お互いのこと知らないって言ったけど!
家族のことでも知らないことなんていっぱいある!
それなら友達なんて、知らないことだらけでしょ?
なんで知り尽くしてないといけないの?
それなら喧嘩なんてしないでしょ?
いっしょにいて新しい発見なんてないでしょ?
知り尽くしていて、楽しいことなんてあるの?
苦労しないのが友達なの?
効率が良いのが友達なの?
違うでしょ? そうじゃないでしょ?
友達なんて、知らないことがあって普通じゃない?
それに、これから知っていけばいいじゃん!」
「!!!!!!」
「友達って、そういうものじゃないの?」
ああ‥‥‥雛野に言われて、やっと気づいた。
友達が欲しいと言っておきながら、俺自身が友達になることを恐れていたんだ。
距離を置こうとしてたんだ。
そんなことにも気づかず、友達が欲しいなんて言っていた。意味不明にも程がある。
それを人に言われて気づくなんて、情けなさすぎる。
「改めて聞きます! 本心で返事してください」
「私と、友達になってください」
満面の笑みで手を差し出してくれる。
俺のことを信頼してくれてることが目に見えてわかる笑顔。
本当に、俺と友達になりたいと思ってくれてる。そんな笑顔。
雛野、ありがとう。
その笑顔に俺は、自分の出来る笑顔で返す。
「はい。こんな俺で良ければ、お願いします」
そして差し出された手に自分の手を重ねて、握手する。すごく堅苦しいかもしれないけど、これが俺たちにとってはちょうど良いのかもしれない。
七河蒼空。高校2年生。
初めて、友達ができた。




