見せられない
言った。全部言えた。
みんなは何も言わずに沈黙している。雛野も驚いてるようだ。
「‥‥‥俺の話を聞いてくれてありがとう!
時間取らせてごめん!失礼しました!!」
2年3組の教室から出て、廊下を歩いていく。
完璧だ。最後のセリフが特に良かった。あれは効いたはず。さすが俺だ。
とりあえず人目につかない所に移動してーー
「うっっっ‥‥‥」
視界が、歪んだ。
頭が痛い。気分が悪い。フラフラする。気づくと身体が傾いていた。あ、これってヤバいんじゃないか?
床に倒れるのを覚悟して目を閉じる。いや違うな。
勝手に目が閉じていた。
すると何かにぶつかって傾いてた身体が止まった。
いや、これは支えられている?恐る恐る目を開ける。
「蒼空、大丈夫!?」
視界が歪んで顔がはっきり見えないが、声を聞いただけで誰かわかる。間違えるはずがない。だって、俺にとってーーーーーだから。
「‥‥‥大丈夫だよ。結愛」
結愛が支えてくれた。さては2年3組の教室の外から見ていたな?
さっきも助けてくれたのに、また助けてくれるのか。
俺、何回も女の子に助けられてるってダサいよな。
「ちょっとごめんね」
結愛は俺と肩を組んで空き教室に移動する。
「悪い、もう動けない」
俺は床にしゃがみ込む。結愛が近くの椅子を引っ張り出して俺に渡してくれる。なんとか椅子には座れた。気づくとデコとデコがくっついていた。
‥‥‥まだその測り方なのかよ。
「‥‥‥熱いわ。間違いなく熱があるわね」
「‥‥‥熱、あるのか?」
「あるわ。正直に言うと前に測った時も微熱だった」
嘘だろ。まさか俺、風邪引いてたの?情けない。
「風邪を引いた原因はわかってるの?」
「‥‥‥」
「わかってるのね。教えなさい」
「‥‥‥たぶん大雨の中を走って帰ったからだ。
それ以外には特に思いつかない」
そんなことで風邪を引くのか疑問だが、最近だとそれしか考えられない。
「それって、雛野さんに傘を貸した時?
やっぱり傘を貸したあなたは濡れて帰ったんだ」
「‥‥‥」
「もう、素直じゃないところが本当に可愛いわね♡」
「‥‥‥ごめん今その冗談を返せる気力すらない」
「あ、そうだったわね。ごめんなさい。
じゃあ保健室に行きましょうか」
「‥‥‥悪い。今動きたくない」
「‥‥‥そうね。それなら仕方ないわね。
ここで待ってて。水でも買ってくるわ。
ついでに保健室に寄って冷えピタもらってくるわ」
結愛が踵を返す。俺から離れていこうとする。
「行かないでくれ‥‥‥」
「!?、そ、蒼空?」
気づくと結愛の手を掴んでいた。結愛が振り向いて驚いている。
あれ、なんで俺は掴んだ?考えがまとまらない。
「俺を1人にしないで‥‥‥
頼れるのは結愛しかいないんだ‥‥‥
こんな姿、結愛にしか見せられない‥‥‥
もう寂しいのは嫌だ。1人は嫌だ。
頼むよ‥‥‥今は俺のそばにいて‥‥‥」
気づいたら俺は何かを言っていたようだ。俺は何を言った?
結愛が顔を真っ赤にして驚いてるように見える。
‥‥‥え?俺は本当に何を言ってしまった?
「‥‥‥あなた、本当に天性の可愛さだわ‥‥‥♡
え?可愛すぎない?おかしくない?
普段は見せないから余計に可愛く見える♡
やばい考えがまとまらない。
可愛い♡、可愛い♡、可愛い♡、可愛い♡
もう、可愛すぎる♡大好き♡
これ、もう蒼空が悪いよね?
あなたが悪いんだから。
今から私がすることに怒らないでね。
それじゃあ、いただきま〜す♡」
俺の両肩に手を置いた結愛が、顔を俺の顔に近づいてくる。
‥‥‥なんか目が怖いぞ?獲物を狙う目をしてる。目がハートになってるなんて、実際にあるんだな。うん、今絶対に考えることじゃないな。
‥‥‥ん?何をいただくんだ??
「待ちなさいよ!!!!」
俺は声がした方を向く。結愛も声がした方に向いて話しかける。
「?、何か用?雛野さん」
教室の扉付近には、雛野が立っていた。
‥‥‥え?まさか今のダサい俺を見られた!?
「雛野!?いつからそこにいた!?
ていうかどこから話を聞いてた!?」
「あんたが風邪を引いた理由はバッチリ聞いたわ!」
マジか‥‥‥超恥ずかしいじゃん。恥ずか死しそう。
「七海。保健室で冷えピタとかもらってきて。
コイツは私が見てるから」
「それ、役割が逆でも良くないかしら?」
「さっき暴走して何かしようとしたあんたと
コイツを今2人きりにできるわけないでしょ!」
「‥‥‥確かにそうだわ。今回はあなたが正論だわ。
私、ちょっと頭冷やしたいから行ってくるわ。
蒼空、待っててね」
結愛がそう言うと教室を出ていく。
ちょっと待って??今、雛野と2人きりなんて気まずいなんてレベルじゃないぞ!?
「さあ、せっかく邪魔が入らないことだし、
聞きたいことがあるんだけど?」
笑顔で言ってくる。うん、笑ってないかも。
俺、ちょっと頭痛くて気分悪いから寝てていい‥‥‥?




