教えて
「なんで、話しかけてこないのよ」
結愛は空き教室に入った後、俺の手を離してそう言ってくる。
俺は結愛の顔を見れずにいた。見れない。見れるわけがない。俺が悪いのだから。
「こっち向きなさい」
「‥‥‥」
「こっち向きなさい」
「‥‥‥ごめん。向けないよ。七海」
気づくと俺は結愛に両方を掴まれて教室の壁に押しつけられた。もう逃がさないと言われているみたいだ。
「苗字で呼ばないで!!!!!!」
‥‥‥は?
「なんで今苗字で呼ぶの!!!
なんでそんなに心の距離を置こうとするの!?」
結愛がすごい迫力で至近距離で言ってくる。
「だって、今はもう俺に
名前で呼ばれるの嫌だろ‥‥‥?」
「‥‥‥本気で言ってるの‥‥‥?」
結愛が俺の両肩から手を離し、両方の手のひらを俺の顔を挟むように壁に叩きつける。
「何を言ってるの!!?
なんで蒼空から七海って
呼ばれないといけないの!!?
私はあなたが好きなのに!!!
こんなにも愛してるのに!!!!
もしかしてあんな噂を私が信じてると思った!!?
ふざけないでよ!!!!!
蒼空以外の有象無象が言ってることなんて
信じるわけないじゃない!!!
蒼空のことは私が1番知ってる!!!!!!
なんであなたの魅力すらわからない人たちが
言ってる噂を私が信じるのよ!!!!?
私の蒼空の好きな気持ちは
その程度だと思ってたの!!!?
バカにしないで!!!
あなたを好きな気持ちを、
あなたが安く見ないで!!!
蒼空のことは、蒼空から聞くわ!!!!」
「‥‥‥まさか、今日話しかけてこなかったのは」
「あなたから話しかけてくるのを待ってたの!!
噂が違うなら私に言ってくれると思ったの!!
でもあなたは全然話しかけてこないし!!
もしかしてあの噂は本当なの!?」
「違う!!あれが本当なわけがない!
一緒に帰ったのは本当だけど、狙ってなんかない!
お前の告白を待たせてるのに、
そんなことするわけないだろ!!」
「そうよね。蒼空のことだからそうだと思ったわ。
じゃあ、なんで話しかけてこなかったのよ!!」
「それは、お前に嫌われたと思ったからだ‥‥‥
だから今もそのことに耐えられなくなって
教室から逃げてきたんだよ」
俺がそう言うと結愛は両手を壁から離し、抱きしめてくる。
「勘違いさせてたんだね。ごめんなさい」
なんで、結愛が俺に謝るんだよ。
お前は悪くないのに。悪いのは俺なのに。
俺は、結愛のことをわかっているようでわかっていなかったんだ。彼女は俺のことを大切にしてくれるのに。救ってくれるのに。そんな彼女を疑った俺は、なんて恥知らずなんだろうか。
ありがとう。本当にありがとう、結愛。
「お前は悪くないんだ。ごめんな、結愛‥‥‥」
「そうね。私の落ち度もあるし、
噂の訂正に来なかったのは許してあげる。
でも、私を七海って呼んだことは許さない」
「!!、ご、ごめん」
「‥‥‥条件次第では許してあげるわ」
「そ、その条件とは??」
結愛が俺から少し離れて上目遣いで聞いてくる。
「あなたが、私をどう思っているか教えて‥‥‥」
「‥‥‥はい?」
「私からあなたには好きと伝えてるけど、
あなたから私をどう思っているか
聞いたことがなかった。
もしかしたら、迷惑と思ってるかもしれない」
「そんなわけないだろ!!お前にどれだけ」
「じゃあ、私のことをどう思ってるの‥‥‥?」
たしかに俺は結愛にどう思っているかを伝えていなかった。でも、あんなに恥ずかしいことを伝えなければいけないのか‥‥‥?
「‥‥‥どうしても言わないとダメか‥‥‥?」
「ダメ」
即答かよ。
これは言うしかない。とっても恥ずかしくて死にそうだけど、結愛を不安にさせられない。
だって、結愛は俺にとって‥‥‥
「‥‥‥特別だ。結愛は俺にとって、特別な人だ‥‥‥
俺が誰と仲良くなっても、みんなに認められても、
俺にとっての特別な人は結愛だけなんだ。
だって俺のことを誰よりも、俺よりも知っていて、
こんな俺を受け入れてくれる。わかってくれる。
お前がいるから、俺は今がんばれるんだ。
結愛は俺にとって、特別だ‥‥‥」
言った。全部言った。言ってしまった。恥ずかしいことを全部。俺はまともに結愛の顔を見れない。でも少し経っても反応がないため恐る恐る結愛の顔を見る。
結愛は、涙を流していた。
「!?、どうした!?大丈夫か!?」
どういう意味の涙だ!?
「‥‥‥そら!!!」
「うお!?」
結愛が凄い勢いで抱き着いてきた。俺の背中が壁に激突するかもしれなかった。それくらいの勢いだった。
「嬉しいっ‥‥‥嬉しい!!特別、大切と思ってくれて
嬉しい!!!好き、好き、好き、大好きっ!!!」
抱き締める力を強くしてくる。まるで二度と離れたくないかのように。正直、痛いくらいだ。
「わかった!わかったから!!ありがとな!
いつも支えてくれて。励ましてくれて。
そしてごめんな。不安にさせてしまって」
「そんなことない!蒼空が謝ることなんてない!
私が勝手に思ったことだから!!
でも、ありがとう。とても、嬉しいっ‥‥‥」
俺たちはしばらくこのままの状態だった。
本当にありがとう。結愛。
そのあと教室に戻り、結愛が今日も作ってくれた弁当をもらって食べる。結愛はもう食べ終わってたから俺1人で。結愛はそれを眺めていた。とても嬉しそうに。
時間がなかったので急いで食べたのだった。
やっぱり結愛の弁当、超美味い。




