嫌だ
2時間目の休み時間。
俺は自分の席でぼんやりしていた。授業の内容が頭に入ってこない。
すると携帯に着信が来た。確認すると相手は高島。わざわざ同じクラスなのに電話をかけてくるとはあいつも今の状況をわかっているんだな。
もしかしたら何か教えてくれるかもしれない。
俺は教室を出て廊下を歩く。人がいないところで応答する。
「もしもし」
「やっと繋がったわね、遅いわよ」
「悪い悪い、人に聞かれたくないことだろ?」
「じゃあ今の状況をわかってるのね?」
「俺が好奇の視線に晒されてるのはわかるが、
原因がわかってない。
その原因をお前は知ってるんだな?」
「知ってるも何もないわよ。
あんな噂が広まってたら普通気づくでしょ」
「噂?どんな噂だ?」
「‥‥‥本当に知らないのね?
でも聞かない方がいいかもしれない」
「それはなしだ。聞かないと対処できない」
「‥‥‥わかった。そこまで言うなら教えてあげる」
「あんた、結愛を放っておいて
雛野を口説いてるって噂が流れてるわよ」
「‥‥‥は??」
意味がわからない。どういうことだ???
「ちなみに聞くけど、この噂は嘘よね?」
「当たり前だ!!なんでそんなこと言われてんだ!」
「昨日、あんたと雛野が仲良く一緒に帰ってるのを
生徒が目撃したらしいわよ」
たしかに昨日一緒に帰ったが、噂になるほどか??
「難攻不落と言われている雛野があんたと仲良く
帰っていたら噂が流れるのも無理はないわ。
それに最近あんたは結愛との接触が少なかったし」
「それは事情があってだな‥‥‥!!」
「この噂を聞いて、結愛がどう思うかしらね?」
そう言われて俺は心臓に握られたような感じがした。結愛に見捨てられたら俺は、もう生きていけない。
嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ!!!!
「七河、とりあえず結愛の誤解を解かないと」
「‥‥‥」
「?七河??」
「!、わ、悪い。そうだよな。なんとかしないと」
「私が教えられることは以上よ。
あとはあんたがなんとかしなさい」
「悪いな高島。おかげで助かった」
「お礼は事態が解決した後に言って」
高島はそう言って電話を切った。サンキュー高島。
原因は分かったが、どう解決すればいいんだ?
噂なんてもはや広まりつつある。それを消すなんてできるのか?
いや、それは後回しだ。
最優先は、結愛の誤解を解くことだ。
そして昼休み。午前中の休み時間では時間が足りないと思ったから何もしなかった。
だからこの昼休みが勝負だ。
そう思っていた。だが、俺の心が折れてしまった。
結愛が自分の机で弁当を食べていたからだ。
テスト期間でも昨日までは一緒に弁当を食べていた。
だから1人で黙々と食べている結愛を見て、俺は話しかけることなんてできなかった。まるで俺と親しくなる前の結愛を見ている気分だった。
人にとてつもない壁を作っている、前までの結愛を。
嫌われた。結愛に嫌われた。最も嫌われたくなかった相手に。
俺は全てがどうでもよくなって、教室から出ていく。
人に見られたくなかった。耐えられなかった。今は1人になりたかった。普段は1人になりたいなんて思わないのに。
もしかしたら俺は浮かれていたのかもしれない。雛野と友達になれるかもしれないと思っていたから。
友達らしいことをして舞い上がっていたのかもしれない。
まだ結愛の告白の返事をしていないのに。
見捨てられて当然じゃないのか。そもそも本当の俺は周りを気にしていて友達が欲しいと思ってる超ダサい性格をしてるんだ。
そもそも好かれる性格ではなかったんだ。問題があったんだ。
やっぱり俺には、問題があったんだ。
俺は廊下を歩く。すれ違う人に見られながら。それで気分が悪くなってきたが早く人がいない所へ移動したかった。落ち着きたかった。
中に誰もいない空き教室があったので入ろうとする。
「なんで、話しかけてこないのよ」
俺は後ろから腕を掴まれている。凄まじい力で。
そして聞こえてきた声はとてつもなく冷たかった。
振り向くと、俺にとって特別な人がいた。
「ゆ、結愛‥‥‥?」
返事はない。俺は腕を掴まれたままだ。
そして引っ張られる。2人で目の前の空き教室に入っていく。もう、俺は結愛の顔を見れない。




