二人への想い
あたしには、好きな人がいた。
それは去年から同じクラスだった、七河蒼空。
理由なんて単純だ。カッコよかったからだ。イケメンで背が高い。そして頭がよくて運動もできる。
こんなの好きにならない人の方が珍しいと思う。
でも、あたしの好きって気持ちはそこまで本気じゃなかった。
例えるなら芸能人を推してる気持ちに近い。
あたしはアイツをそういう目で見てた。だって実際にカッコよくて華があったから。
でもアイツは数多くの女子からの告白を全て断ってきた。アイツには付き合うつもりがないのだと思った。
たぶん他の女子がアイツを好きになった理由は、あたしとほとんど同じだろう。
だからあたしも告白はしなかった。他の女子と同じように断られると思ったから。そこまで本気じゃなかったから。
あたしは、つまらない女だ。
2年生になってもアイツと同じクラスになった。正直嬉しかった。でもそんなことは誰にも言えない。
このままアイツを眺める生活が続くのかなと思っていた。でもそれはすぐに終わってしまう。
七河がある女子と付き合い始めたからだ。
相手の名前は七海結愛。学年一の美少女と呼ばれているけどそれを決して自慢せず、クールで優しい。完璧だと言うのがみんなの評価だ。
正直あたしは七海のことが嫌いだった。だってそんな完璧な人がいるはずないから。内心は男子にチヤホヤされて調子に乗っていて女子を馬鹿にしてるにちがいない。
私はつまらない人が大嫌い。自分を見てるみたいだから。
七海はつまらない女の典型だと思った。
だからこそアイツが七海と付き合い始めたことに納得できなかった。認めたくなかった。
結局はアイツも外見で人を選ぶのだと感じた。アイツに告白する女子と同じ。そしてあたしと同じ。そのことでアイツに腹が立った。
七河も、つまらない人なんじゃないかと。
あたしなんて告白すらしてないというのに。嫉妬する権利すらないのに。
そしてその嫉妬が七海に嫌がらせするという行動につながってしまった。仮にもアイツのことが好きだから嫌がらせなんてできないから七海を標的にした。あたしは本当に浅ましい女だ。
最初は学級委員を押し付けようと考えた。その程度で終わろうと思った。
でも、アイツが七海を庇ったことに腹が立った。
なんで自己中のアイツがそこまでして七海を守ろうとするの?
彼女だから?彼氏としてカッコつけたいから?守りたいから?好きだから?
そんな考えが積もって余計に腹が立った。アイツにそこまでしてもらえる七海が羨ましくて仕方なかった。
だから嫌がらせをエスカレートしてしまった。こんなことしても意味がないのはわかってる。でも、このやるせない気持ちをなんとかしたかった。止まらなくなっていた。
水をかけたのはやりすぎだと思った。でも止まれなかった。嫉妬というのはここまで人を動かすものなのか。
その現場にアイツが居合わせた。動画を撮っている感じだった。あたしは焦った。人生終わりだと思った。今さら後悔していた。
でも、アイツは動画を撮っていなかった。さらにアイツはこう言った。
今回のことは脅すまでもない。七海の気持ちを尊重して大事にはしない。
これを聞いてあたしはますます腹が立った。七海のことがどれだけ大切かよく伝わってきたから。本当に羨ましい。
でもそんな考えは一瞬で消えた。七河が言った言葉によって。
あたしはそんなことするやつじゃないと思った。去年も同じクラスだったからそれくらい俺にもわかる。だから過ちに気づいてもらうだけでいい。
アイツはあたしにそう言った。
あたしのことを見てくれてたんだ。
少しでも知っていてくれたんだ。
あたしのことなんて眼中にないと思ってた。
七海だけじゃなくて、あたしまで
助けようとしてくれたんだ。
あたしは嫉妬していたことすら恥ずかしいと感じた。
本当にごめんなさい。七海にもアイツにも迷惑をかけた。
あたしは七海に謝った。本当に申し訳なかった。
でも素直になれないあたしは七河には謝ることも、お礼を言うこともできなかった。
今回の件一つだけわかったことがあった。
あたし、アイツのこと本気で好きだった。
七海にこんなにも嫉妬し、嫌がらせしてしまうくらいにはアイツを取られたくなかったんだ。
そしてアイツがあたしのことを知っていたと聞いただけでこんなにも嬉しくなる。
好きだったんだ。でも気づくのが遅かった。
今はもう七河は七海の彼氏なんだから。
アイツの隣には、もう七海がいるんだから。
正直まだ七海が彼女なのは納得してないけど、邪魔はしたくないと感じた。あたしの好きな人が選んだ相手なら間違いないだろう。
それから少し時間が経ち、とある日の放課後。あたしはいつもと同じ時間帯で下校していた。
公園の前を歩いていると異様な光景が目に入ってきた。他校の制服を着ている3人が1人を囲んでいる。そしてその1人を殴り始めた。
あたしは怖くなって少し離れて遠くから見ていると、殴られてるのが七河だとわかった。
なんでアイツが殴られてるの?アイツがそんな殴られてる姿なんて見たくなかった!
そしてあたしはどうすればいいの!こんな場面に遭遇して見て見ぬふりはできない!
あたしはとりあえず今の状況を七海に伝えようと思った。嫌がらせをした後ろめたさもあったし。
七海に電話をかけると明らかに動揺してた。しかも脅すために動画を撮ってほしいと頼まれた。七海、そんなこと言うヤツだった???
あたしは遠くから動画を撮り始める。
携帯を操作することに気を取られていて動画を取り始めたころに変化に気づいた。
アイツが3人を相手に優勢に回り始めたことに。
不謹慎だけど、その姿はカッコよかった。ドラマのワンシーンかと思った。そして初めて見るアイツの必死な姿。本当にカッコいい。ますますアイツのことが好きになった。
その姿に夢中になってしまい、アイツが3人を倒してからも録画を継続したままになってた。それくらいアイツに夢中だった。
やっと正気に戻ったあたしはアイツに駆け寄る。勝ったけど殴られていたのだから心配になった。
でも素直になれないあたしは大丈夫?とは聞けず、
「やるじゃん」
などと意味不明なことを言いつつ話しかけた。
アイツはそんなこと気にしておらず協力してくれと必死な様子で頼んでくる。不謹慎だけどその姿にまたドキドキした。
そして七海のストーカーの件を知ることになる。それも驚いたが、あたしは七海と付き合ってるフリをしているということの方が驚いた。
話は続く。もしかしたらストーカーが七海に近づいてるかもしれないと。あたしはストーカーにバレないように動画を撮ってほしいと頼まれた。
そして時間がないため走ることになった。当然だけどあたしと七河だと足の速さ、体力にかなりの差がある。しかも七河は運動神経抜群だし。
「ハァ、ハァ、もうこれ以上の速さで走れない‥‥‥」
「さすがにこれ以上は早く走れないか。
仕方ない、悪いけど強制的に走らせるぞ!
後でいくらでも謝るから!」
そう言うとなんとコイツはあたしの腕を掴んでくる。
「え!?ちょ、ちょっと」
「急ぐぞ!!!」
七河に腕を掴まれて引っ張られる状態で走り始める。
急にドキドキさせてくるのやめてくれない!?
ただでさえずっと走ってるから心臓がうるさいのに!
そんな強引だけどカッコいい姿見せられたらドキドキしすぎて心臓が破裂しそうになるじゃない!!
そんな状態が数分続いた。正直もっとこのままでいたかった。
でも前方にあたしと同じ制服を着た女子が見えた時に七河があたしを掴んでいた手を離す。
「!!高島、さっき言った通りにしてくれ!!
頼んだぞ!!!」
七河はあたしの返事を聞かずにまた走り始める。前にいる女子の方向へ。
一瞬で七海だと気づいたんだ。あたしはすぐには気づかなかった。ああ、やっぱり七海のことが大切なんだなと。
アイツは七海とは偽の関係とは言うけど、絶対に七海は七河のことが好きだろう。最近の様子を見ているとわかる。名前呼びにしてるし。少し露骨だと思う。本人は気づいてないかもだけど。
そして七河も七海のことを考えてる。今だってお互いが相手のために行動してる。
その関係がとても美しい。眩しい。
がんばれ、七河。
そしてあたしが動画を撮って脅しに使い、ストーカーの件が解決した。
七海がビンタしたのを見てさすがに驚いた。そんなことするなんて普段の姿からは想像できない。
そして七海は七河に抱き着き、そのままの状態でいる。
あたしは七海のことを誤解してたかもしれない。最初は自分を可愛く思っていて周りを馬鹿にしてると思ってた。
でも実際は周りに迷惑をかけないように行動していて、ストーカーに悩んでることも極力他人に言ってなかった。あたしは怖くてそんな悩みを抱え込むなんてできない。
七海はとても強い女の子だとわかった。
そのことに気づけてよかった。お似合いだと思った。
やっとあたしは七海のことを認めることができた。
七河の隣にいるのにふさわしいと思った。
どの口が言ってんだと言われそうかもしれない。
でもあたしはこんな2人を応援したいと思った。
さよなら。醜いけど本物だったあたしの恋。
でも、いつこの恋を忘れられるかわからない。
明日で忘れるかもしれないし、一生忘れられないかもしれない。
でもこれだけは言える。
七河、あんたは罪な男だよ。
次の日。七河と七海の様子がおかしい。
2人が全く話さない。顔も合わさない。
あんなに仲が良かった2人がこんなことになるなんて思ってなかった。素直に応援したいと思ってたのに。
そんなこと考えているうちに放課後になった。
すると七河が教卓の前に立って話し始めた。
七海とはお試しだったと言った。
とにかく自分が悪いと言う感じに話を進めてた。
七海を庇ってた。
なんで!?あんなにお似合いだった2人なのに!!
偽の関係とは言ってたけど今の七海があんたのことを好きなのは間違いないじゃない!!
そのまま本物の恋人になってもよかったじゃない!!
なんでよ!!!なんでなのよ!!!!
頭の中が真っ白になった。気づいたら七河が話を終えて教室から出ていく。当然クラスのみんなはアイツを批判してた。
追いかけなくちゃ!!!!!
そう思うけど体が動かない。あたしが追いかけて意味あるの?何のために追いかけるの?アイツを追いかけるべき人が他にいるじゃない!!
あたしは話しかけようと思ったけど気づいたらその人は教卓の前にいた。
まるで、さっきまでいたアイツと同じように。
そして話し始める。大声で。普段なら絶対に考えられない気迫で。
しかも話してる内容が恐ろしい。
正直に言って超自己中な発言しかしてなかった。
「私の前で蒼空の悪口言ったら、殺すわよ!!!」
あんた本性を隠してたんだ。そんなこと言えたんだ。
やるじゃん。見直した。
「私は蒼空の全てが好き!!!!!!
詳しいことは絶対に教えない!!!!
蒼空のことは私だけが知っていればいい!!!!」
昨日見たアイツの必死な姿も魅力の一部でしかないってこと?
どんだけアイツのこと知ってるのよ。
どんだけアイツのこと好きなのよ。
大声で叫んでる七海は醜くて、カッコいい。
あたしは本性を出した七海に、惚れた。
あたしは考えが甘かった。七海もアイツに匹敵する超自己中だった。お似合いなんてレベルじゃない。
この2人は、最高だ。
絶対にこの2人だけは結ばれてほしい。
「私と蒼空の邪魔をしたら、叩き潰すから!!!」
そう言って七海は教室から出ていく。
「え‥‥‥?」
何故か涙が溢れてきた。
今の気持ちをどう表現すればいいの?
「行って‥‥‥アイツの所に行って‥‥‥
アイツの隣はあんたしか考えられない」
気づくとあたしは、そんな言葉を発していた。
本当の七海は魅力的すぎた。
あんなに綺麗な顔立ちであんなにひどいことを、醜いことを言うアンバランスさ。
必死に隠してたのに好きな男のためなら気にしてたはずの本性を見せることさえ気にしない。
そして超自己中的な考えと発言。
そんな危ない魅力が持ってる七海を見ると、あたしなんて絶対に勝てないとわかる。でも悔しさは全くない。
だって、七河よりもあんたの方が好きになったから。
「もしもし」
「高島さん、なに?」
放課後から時間が経った夜。
あたしは七海に電話をかけていた。
「あんた、本性を隠してたんだね」
「そうよ。それがなに?」
「本当のあんたはとっても魅力的だわ」
「は?バカにしてる?」
「バカになんてしてない。本当のあんたに惚れた」
「‥‥‥なに言ってんの??」
当然の反応だ。いきなり惚れたなんて言われたら誰でもこんな反応になる。
「わざわざ電話してきて言いたかったのは
そんな意味不明なこと?
あまり時間ないからもう切るわよ」
「七河に電話でもするんでしょ」
「!、だったら何よ」
七海は露骨に反応を変える。え、なに可愛すぎない?
「なんでもない。それに話したいことがあったの」
「なに?早く言いなさい」
「あたし、あんたを応援する」
「‥‥‥は?どういう風の吹き回し?
あなた私のこと嫌ってたでしょ?
蒼空のこと好きだったんでしょ?」
「たしかに七河のことは今でも好き」
「だったら敵じゃない。邪魔したら叩き潰すわよ」
声から敵意がわかる。ほんとに七河が好きなのね。
「最後まで聞いて。七河のことは好き。
でも今はあんたの方が好きなの。
あたしが好きなあんたと七河にくっついてほしい。
結ばれてほしい。それが今のあたしの望み」
そうなんだ。七河のことが好きなあんたを好きになったんだ。だから応援したいんだ。
「あなたさっきから何言ってるの?意味不明」
「簡単に言うと、あんたに協力するってこと」
「協力?」
「そう。あたしも同じクラスだから
何かサポートできるかもしれない」
「あなたが私に協力するメリットなんてあるの?」
「メリットはあるよ。むしろメリットしかない。
あんたたち2人の行く末を身近に見られるから」
「‥‥‥あなたって変な人ね」
「あんたにだけは言われたくないわね」
「まあいいわ。なら協力して。
絶対に私は蒼空と結ばれたいの。
たとえ嫌がらせしてきた人の力を借りてでも」
「一言余計。それは本当に悪かったって。
本性隠してたあんたがつまらなかったのよ」
「謝る気あるの??ま、それはどうでもいいわ。
協力してくれるなら」
「やっぱりあんたって、いい性格してる」
「それはお互いさまよ」
あたしたちは笑い合う。あたしたち、親友になれそうな気がする。だってこんなにも気が合うんだから。
「じゃあこれからがんばろう、結愛」
「よろしくね、桜」
こうしてあたしは結愛に協力することになった。
こんなに魅力的で、お似合いな2人をくっつけたいと思ったから。
もしかしたら今のあたしの考え、普通じゃないかも。
二人への想いが、つまらなかったあたしを変えてくれたかもしれない。




