蒼空への想い
今日の朝。
蒼空から拒絶された。しかも急に。昨日までは全然そんなことなかったのに。
私は怒った。怒るでしょ。
この想いを蔑ろにされたのだから。
この時の私は気づかなかった。
だってもうこの時点でも蒼空に夢中だったのに。
放課後のあなたを見たら、もうあなたのことしか考えられなくなった。
放課後になってすぐ。
蒼空が教卓の前に立ち、蒼空と私の交際がお試しだったと言う。しかも蒼空が全て悪いみたいな方向に話を進めて。
そして気づく。
今日から話しかけるなと言ったのは、私のために言っていたのだと。
私が最初に言っていた、ストーカーの件が解決したら別れるということまで蒼空は実際にやってくれた。
なんで?言った私でさえそんなこと忘れていたのに。
なんで?あなたは、そんなに優しいの?
あなたが周りに悪く言われなきゃいけないの?
そう思っていると蒼空は教室から出ていく。
私は察した。これで蒼空との関係は終わり。
このままじゃ友達にすらなれないと。
それは、嫌。
私は今まで、ずっと猫をかぶってきた。
小学生の時、何も隠さずにいたら、女子に目の敵にされたから。
中学生の時には、私の本性を受け入れてくれる人はいないと確信した。そして猫をかぶるようになった。そうすると平穏な生活ができるから。
高校生になってもそれは続いた。そして気づいたら『学年一の美少女』と呼ばれるようになっていた。
別に嬉しくはない。けどこれは私自身を周囲から守るためなのだ。
こうして周りの視線に臆病になった私は今まで猫をかぶってきたのだ。
だから、最初に蒼空を見た時は虫唾が走った。
腹が立った。ふざけるなと思った。
そして、羨ましいと思った。
あなたは周りを気にせず自分勝手に行動する。
まさに昔の私だ。
しかもあなたは他人の評価なんてどうでもいいと思っている。自分に絶対の自信があるから。
まるで、私が気にしている評価にあまり価値がないと言われているかのようだった。
だから、私はあなたに悩みごとを相談した。猫をかぶらずに。
案の定、あなたは本当の私を余裕で受け入れた。
さすが、昔の私に似ているだけある。
そんなあなたがどんな行動を取るかに興味を持った。
自分勝手で周りの全く気にしないあなたなら、私が今できないようなことをやってのけると。
そう思っていた。でも実際は少し違った。
たしかに私が今できないことはやってのけた。
でも、考えは私と何も変わらなかった。
いや違う。私以上に臆病だったのだ。
私は今日までの蒼空を見てきて気づいた。
あなたは誰よりも周りの評価を気にしている。
昨日、私は周りの人にも本当の自分を出しても大丈夫とあなたが言っていた時、あなたの顔は少し寂しそうだった。羨ましそうだった。それを悟られないように無理して笑っていた。
やっぱりあなたは周りを気にしている。
だってそうでしょ?
わざわざみんなに言われたことを自分はすごいと言って反論する。それって変じゃない?
本当に周りを気にしていないなら聞く耳を持たないはず。
自分をすごいと言っているのはたぶん自分を鼓舞しているのだ。だって他人をバカにしている所を全く見たことがないから。
それにあなたは人に何を言われても気にしてないとか言っておいて、自分に対して言われていることを知っているじゃない。
私は今まで勘違いをしていたんだ。
実はあなたは周りの評価を気にしている臆病者なんだと気づいた。
周りに認めてもらいたいけど認めてもらえず、寂しいから自分で自分を褒める。自分を鼓舞している。必死にがんばっている。
そして、私はそんなあなたのことを好きになった。
自分勝手なことをしているようで、それは他人に認めてほしいから行動していること。
完璧だと言いながら、必死にがんばっていること。
そして、それを隠そうとしていることを。
こんなにも、こんなにもカッコよくて可愛い人を私は今まで見たことがない。
ただスポーツができてカッコいいとか、顔がカッコいいとか、顔が可愛いとか、仕草が可愛いとか、愛嬌があるとか、そんな綺麗なカッコよさ、可愛さなんて私は全く魅力に感じない。
そんなの多くの人が持ってるから。
自分のことを完璧だと言いながら周りの評価を気にしていて、自分をみんなに認めてもらうために必死に行動する。そのためならどんなことでもする。今まで聞いたことがない自己中心的な考えで他人のために行動し、泥臭くて必死なあなたが、
最高にカッコよくて、可愛すぎて好き。
私との関係をこんなに早く終わらせたりはしない。
私はもうあなたを逃がさない。絶対に捕まえてやる。
私をこんなにも夢中にさせたことに、
自称完璧なあなたに責任を取ってもらう。
「みんな!!!!聞いて!!!!!」
私は教卓に移動すると大きな声でそう言う。
みんなは驚いているようだ。それはそうだ。
猫をかぶっていた私はこんなことしたことなかったから。
「私、七海結愛は、七河蒼空が好きです!!
愛しています!!!絶対誰にも渡さない!!!!」
みんながざわめきだす。どうしたんだ、なに、どういうこと、など。そんなこと知ったこっちゃない!!
「先に言うけど!!!
蒼空と私はお試しで交際してたわけじゃない!!
私が頼んだの!!!偽彼氏になってって!!!
理由は言わない!私だけが知っていればいい!!」
みんなが騒ぎ出す。どうでもいい!!
「私は蒼空が好き。好き、好き、好き、大好き!!!
理由は教えない!!敵に塩をまく必要がない!!
今度から私の前で蒼空の悪口言ったら、
殺すわよ!!!!!!」
ざわざわしている。興味ない!!
「クラスのみんな、残念だったわね!!!!
これが本当の私!!!
性格悪くて、嫉妬深いのが本当の私!!!!!
先に言っておきます!!!!
男子のみんな!!!!
私は蒼空以外は眼中にないので
告白はしないで時間の無駄!!!
女子のみんな!!!
今度から蒼空に告白するなら
顔がいいだの頭がいいだの運動神経がいいだの
そんな薄っぺらい理由で告白しないで!!!
蒼空をバカにしないで!!!!!
私は蒼空の全てが好き!!!!!!
詳しいことは絶対に教えない!!!!
蒼空のことは私だけが知っていればいい!!!!
学年一の美少女?どうでもいい!!!
そんな薄っぺらいものよりも、
蒼空と一緒にいる方が価値があるに決まってる!!
蒼空以外の有象無象の評価なんて
ただの紙くず!!!!!!!」
そう、蒼空以外のことなんてどうでもいい。周りを気にする必要なんてない。そう思えるくらい蒼空のことが好きなんだもん。愛してるもん。
「わかった?最後にこれだけは言っておく」
大きく息を吸って大声で叫ぶ。誰も蒼空に近づかないように。
「私と蒼空の邪魔をしたら、叩き潰すから!!!!」
そう言って私はカバンを持って教室を出て、蒼空を追いかける。教科書は置いていく。蒼空と初めて話をした場所に来てもらう保険として。目指すは蒼空の家。
そしてその後は、蒼空を襲った。キスって最高。
私に本当の自分がバレて、恥ずかしくなってうつむいている蒼空は可愛すぎてまた襲いそうになった。
蒼空はやっぱり今まで苦しんでいたのだとわかった。
私は抱きしめた。心の支えになりたかった。
私はそんな蒼空を支えていきたい。守りたい。
蒼空、覚悟してよね。
この私を夢中にさせた責任、取ってもらうからね。
蒼空への想いは、
私を今まで縛っていた価値観を、
私を縛っていたものをぶっ壊した。




