息が止まる
「友達なんて嫌よ」
俺は七海にそう言われていた。
「‥‥‥なんでこんな完璧な俺と
友達になるのが嫌なんだ?」
「バカなの?そんなの決まってるでしょ。
蒼空の彼女になりたいからよ♡」
「いや、すでに俺がカッコよすぎて
襲われたんだが!?」
「蒼空が友達になってくれなんて
言ったからでしょ?
むしろあなたが最初に言った条件にしましょうか」
俺の手を掴み、七海は自分の胸に持っていこうとする。
「待て待て!!お前どうしたんだ!?
いくら俺がカッコよすぎるからって
自分を安売りするな!」
俺は手を動かして彼女の手から逃れる。
この俺が翻弄されまくっている。これはまずい!
「何言ってるの。蒼空が最初に出した条件でしょ?
まあ条件なんて口実なくても、あなたになら
いくらでも揉ませてあげるけどね♪」
七海は俺の耳元でそう囁いてくる。この俺が手玉に取られてるだと!?
「は!?デレデレどころの騒ぎじゃねえ!
なんでだよ!?
俺はただ自分の思ったままに行動した!!
好き勝手やった!!
今日なんて俺の都合で一方的に
お前に話しかけるなとも言った!!
俺は自分のことを完璧だと自負してるが、
他人からすると問題だらけだぞ!?
なんでこんな俺のことが!?」
「ふざけないで。
あなた本気で言ってるの??
思ったまま行動したら私をあんなに助けてくれる?
ときめかせてくれる?ありえないわね」
「何言ってんだ!!俺は自分勝手に行動してる!
自分が好きだからな!」
俺がそう言うと、なぜか七海が笑う。なんだ!?
「私はもう気づいてるから。
そんなこと言わなくて大丈夫よ」
「お前が完璧な俺の何に気づいたんだ!
気づくも何も自分を完璧だと思ってるのが俺だ!!
意味不明なこと言うな!」
「わかったわ。じゃあ言ってあげる」
彼女が俺の耳元まで口を寄せて囁く。
「なんで、無理に自分を褒めてるの?」
「‥‥‥は?
なんでこんな完璧な俺が俺自身を
無理に褒めるんだよ」
「あなた、本当は自分を完璧だと思ってないわよね?
だって自分の凄さを自慢してるのじゃなくて、
自分を鼓舞してるんでしょ?」
「‥‥‥何のことだかさっぱりだな」
「なら教えてあげる。
まずあなたは誰よりも周りの評価を気にしてる」
「!!?」
「その根拠を言うわ。
あなたが自分を褒めるのは、
生まれ持ったものではなく
後天的に身に付いたもの。
それに気づいたのは最近。
今思い返してみれば、あなたは
自分が凄いと言ってるだけで
人を馬鹿にしているのを私は見たことがない」
「それっておかしいでしょ?
自分が凄いと自慢するのが元からの性格なら、
少なからず人を下に見た言動をするはず。
だって自分よりも相手が下だと思うから。
でも、あなたが人を馬鹿にしているのを
一度も見たことがない。
つまりあなたが自分を褒めるのは、
自分を鼓舞するためなのよ」
「‥‥‥何言ってんだ?そんなことねえよ。
お前が見てない場面で
言ってるかもしれないだろうが」
「どうしても認めないのね。
なら最後まで言ってあげる。
自分をそこまで褒める理由はただ1つ。
あなたは他の人に褒められない代わりに
自分を褒めている」
言うな!!!!
それ以上言うな!!!!!!
「つまり、あなたは人に認めてもらいたいのよね?」
そう言われて息が止まる。
「こんなことあなたは誰にも言えないわね。
自分が凄いと言って
周りを気にしてないように見えて、
実はすごく気にしている。
去年同じクラスだった高島さんのことを
よく知っているくらいなのだから。
それくらい周りを見ているんでしょ?
そして周りに評価されない分、
自分で自分を評価してる。
だからさっき泣いたのは、
私に認めてもらえたからでしょ?」
「なぜここまでわかるかって?
私だからよ。私も今まで周りを気にしていたから
その分あなたの違和感に気づいたのだと思う。
たぶん他の人にはわからないわね」
知られた。知られてしまった。
こんなクソダサいことを知られてしまった。
「本当のあなたはとても優しいのよ。
周りに認められたいから常に周りを気にしている。
だから人が傷つかないよう考えることができるし、
人を助けるのが普通だと思っている」
なんで俺の知らない無意識の所までお前はわかるんだよ。
「それに、前に告白を断っていた時も変だった。
その時もあなたは相手のことを
馬鹿にしていなかった。
自分が大好きであると見せかけてね。
捉え方を変えると
俺なんて人を好きになれないからやめておけ。
君の時間を無駄にしてしまう。
って意味になる」
そこまで意識して考えてなかったよ。
無意識に言葉を選んでたんだよ。
「そしてあなたはこう思ってるんでしょ?
多くの人に認められていないのに、
なんで個人に好かれるか理解できない。
人の好意が怖い、わからないと。
だからいつも告白を断るんじゃない?
そんな考えをしている状態で相手と付き合ったら
相手を傷つけてしまうから」
七海は次々と俺のことを暴露していく。
もう反論する気もない。
「ねえ。あなた優しすぎない?
それに今日話しかけるなと言ったのは
私との偽恋人関係を終わらせる時の
根拠の一部にしたかったんでしょ?
しかも別れるのなんて最初は私が頼んだこと。
自分勝手に行動したとか言っておいて
実は全部私のために動いてくれてた。
それにさっきから、
『自分を安売りするな』とか、
『こんな俺を』とか色々ボロが出てるわよ。
やっぱり本当のあなたは、
自分に自信が無くて、とても優しい」
なんで俺が言ったことを俺自身が覚えてないのにお前は覚えてるんだよ。そんなにボロを出してたのか。
だが、あれだけには結愛は気づいてない。
今でも十分死ねるが、あれを知られたら俺はもう生きていけない。
そう思っていたが無慈悲にも結愛が言う。
「そして私は、あなたがあそこまで
私を助けてくれた理由に気づいた。
本当の蒼空も自己中なんだね」
‥‥‥まさか、バレているのか!?絶対に知られたくないことを!!!
頼む、言わないでくれ!!違っていてくれ!!!
「あなたが必死に私を助けた本当の理由はーーー」




