変えることができたもの
俺は廊下を走って、校舎の外に出る。
校門を通って外に出る。もう歩いて大丈夫かな。
そのまま家に着く。
部屋でのんびりしていると、チャイムが鳴る。
おそらくこのタイミングで来るのは1人しかいない。
俺は玄関のドアを開ける。
「悪いな。わざわざ教科書返しに来てくれて」
「そんなもの学校に置いてきたわよ」
そこには案の定、七海がいた。
え?じゃあなんで来たの??
「説明してもらえるわよね」
「何を?」
「とぼけないで!さっきのことよ!」
そりゃそうなるよな。さてどう説明するか。
「わかった。家に入って聞くか?」
「いいえ、あなたが前に
告白を断っていた場所に行くわよ」
え‥‥‥また学校に戻るのですか??
俺たちは目的地に着く。
とは言っても校舎の裏で、影ができているところだ。前はここで告白された。
意外と誰も通らない。俺のお気に入りの場所だ。
「さあ、聞かせてもらおうかしら」
「なにを?俺の誕生日?身長?」
「ごまかさないで!
今日の放課後のことよ!!」
「わかってるよ。今から話す。
とは言っても全然話すことなんてないぞ?」
そうだ。話すことなんてほとんどない。
「なんでクラスのみんなの前で
あんなこと言ったのよ!」
「あんなことって。お前が言ってたじゃないか。
ストーカーの件が解決したら
みんなに別れることを言うって」
「なんで私たちの関係がお試しなんて言ったのよ!
私との関係はその程度だったの!?」
まさかそれで怒っているのか?
「それは言葉の綾だ。偽の恋人っていうと
どう考えてもお前にも疑いがかかる。
だからお試しって言葉で濁した。
ついでに俺が手を出してないってことを
伝えることもできて一石二鳥!
いや、お前の評判が落ちなかったんだから
一石三鳥だな!!
俺って本当に頭いいな〜〜〜!!」
こう言った直後に完璧な俺でも戸惑う事態が発生した。
七海が、涙を流しているからだ。
「っ、何が一石三鳥よ!!!
あなたの評判が落ちてるじゃないっ!!
なんでっ、
あなたが悪く言われなきゃいけないの!!」
「泣くなって。いつもの俺の自己満だよ。
七海がわざわざ泣いてくれる必要はないぞ」
そう、七海が悲しくなる必要は無いんだ。
「ふざけないで!!
私が泣いてくれるほどじゃないって何!?
私が泣きたい時に泣く!!
わたしの『理想の彼氏』をバカにしないで!!!」
「今は理想の元彼氏だろ?
ありがとうな七海。でも良いんだ」
「良くないっ!!!!
あなたの評判が落ちるのは納得できない!!!」
「気にするなって!
だって俺には問題があるって言われてるんだ。
もし俺に問題があるとしたら、放課後の件なんて
評判が落ちることにはつながらないよ」
そうだ。本当にたいしたことじゃないんだ。
自分が完璧だと思っていられたら、それでいい。
他人にどう思われていても、直接的には関係ないのだから。関係ないはずなんだ。関係ないはず。
あの時から俺は、何をしても自分の評価は変わらないと思っている。
だって他人から見た俺は。
『七河蒼空は、外見以外に問題あり』なんだから。
だから問題があるって言われてる俺が何してもそこまで評価は変わらない。なら七海への批判を俺に向ければいい。それでいいのだ。いいはずなんだ。
七海は涙を流した状態で俺と目を合わせてくる。
「あなたはそんなこと言われて平気なの!?
あなたは悲しくないの!?
あなたは何も悪くないのにっ!!!
あなたは私の依頼を受けてくれた!!
学級委員の件で助けようとしてくれた!!
私に対する嫌がらせを止めてくれた!!!
私のために意味のない喧嘩をしてくれた!!!
ストーカーから私を守ってくれた!!!
ストーカーの件なんて私は学校に報告すれば
いいと思ってたのに、
あなたは自分の力だけで解決してみせた!!
あなたは、私にとって本当に完璧だった!!!」
「あなたにっ!!!」
「『七河蒼空』に、問題なんてない!!!!」
七海は俺にそう言ってくれた。
「!?、蒼空‥‥‥?」
そして俺は、その言葉を聞くと、
気づいたら涙が溢れていた。
そうか‥‥‥俺が自分勝手に行動したことは、
間違ってなかったのかっ‥‥‥
正しかったのか。
俺は、自分の思う通りに行動していいのか。
今ならそう思える。
ありがとう、七海。その言葉が1番欲しかった。
俺たちは、しばらく泣き続けた。




